深夜3時の「がっかり体験」から始まった話
音楽を作っている人なら、一度は似たような経験があると思います。
深夜3時。やっと完成したと思って書き出したミックスを、スマホに転送してイヤホンで聴く。
……なぜか、弱い。
Spotifyで流れているプロの曲と比べると、音量は小さく、低音は濁り、全体に締まりがない。「あの迫力はどこへ行ったんだ?」と絶望する瞬間です。
以前の私は、この段階で二つの選択肢しかありませんでした。
一つは「まあいいか」と妥協すること。
もう一つは、1曲あたり50〜100ドルを払ってマスタリングエンジニアに依頼すること。
週に1曲ペースで制作する個人クリエイターにとって、このコストは正直かなり重いですよね。
マスタリングが難しい本当の理由
マスタリングは、ただ音を大きくする作業ではありません。
スマホ、カーステレオ、高級スピーカーなど、複数の再生環境で同じように聴こえるように整える繊細な工程です。
私も以前は、DAW付属のリミッターをマスターバスに挿し、ゲインを上げて終わり、という雑なやり方をしていました。
結果は決まって、キックは歪み、ダイナミクスは潰れてペラペラな音に。
Audio Engineering Society(AES)では、LUFS などの指標を用いた音量・ダイナミクス管理の重要性が示されています。
これを無視すると、YouTube や Spotify 側で自動的に音量を下げられてしまうんです。
私自身、ラウドネスを上げすぎた自信作が、YouTube 上で極端に小さく再生された経験があり、「自己流では限界がある」と痛感しました。
人間 vs アルゴリズム:小さな実験
そこで私は実験をすることにしました。
手元にある未マスタリングの3曲(Lo-Fi、Synthwave、アコースティック)を用意し、人力とAIの両方で仕上げて比較してみたのです。
失敗例:機械っぽい音
最初に試した、GitHub で見つけた古いスクリプトは正直ひどい結果でした。
低音と高音を強調する「ドンシャリ」にするだけで、アコースティック曲は不自然になり、ボーカルは埋もれてしまいました。
「やっぱりAIは文脈を理解できないのか」と諦めかけた瞬間でした。
転機になった気づき
その後、Reddit の音楽制作コミュニティで「最近のツールはジャンルごとの周波数バランスを学習している」という議論を目にしました。
半信半疑でいくつかのWeb系ツールを触り、その流れで MusicAI というツールも試してみました。
選んだ理由は単純で、複雑なパラメータ設定に悩まなくていいシンプルな画面だったからです。ファイルをドラッグして、コーヒーを一口飲んでいる間に処理が終わっていました。
Synthwave の曲を聴き返して驚きました。ずっと悩み続けていた低域の濁りが消えていたんです。
単に音が大きいだけでなく、スネアの居場所が自然に確保されている感覚。
もちろん「完璧」ではありません。凄腕のエンジニアがアナログ機材で足してくれる「温かみ」とは少し違います。
でも、体感で9割近くは完成していました。しかも所要時間は数分。
「デモ音源ならこれで十分すぎるのでは?」というのが正直な感想でした。
AI Music Mastering が変えた考え方
この経験で気づいたのは、今の AI Music Mastering は、単なる自動リミッターではないということです。
何千もの参照楽曲(リファレンス)と比較しながら、その曲に最適なバランスを提案してくれています。
Luminate(旧 Nielsen Music)のレポートによると、1日に12万曲以上がストリーミングサービスへアップロードされているそうです。
この膨大な情報の海の中で、個人クリエイターが戦うには「クオリティを保ちながら、速く出す」ことが武器になります。
現在の私のワークフロー
今の私の制作フローはこんな感じです。
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作曲・ミックス:ここは今まで通り、こだわって作ります。
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車での再生チェック:ミックスのバランスを確認。
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AIパス:ツールを使って-14 LUFS付近まで整える。
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リリース:SoundCloud や YouTube に投稿。
この流れにしてから、1か月で4曲を完成させることができました。以前は、コンプレッサーの設定で悩みすぎて、同じ期間で1曲仕上がるかどうかでした。
使ってわかった注意点
もちろん、魔法の杖ではありません。いくつか注意点もあります。
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元のミックスが重要:入力された音が悪ければ、AIは「音圧の高い悪い音」を作るだけです。
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過度な圧縮:ツールによってはドラムのダイナミクスを潰しすぎることがあるので、設定には注意が必要です。
「AIを使うのはズルい?」
以前は少し罪悪感がありました。
でも、今はこう考えています。
「ハードディスクの中で永遠に完成しない曲より、少し不完全でも世に出た曲の方が価値がある」と。
ソフトウェア開発でいう「Shipする(出荷する)」という考え方に近いです。
ここ一番の勝負曲ではエンジニアにお願いする。
日常的な制作やデモ、SNS用の音源ではAIを使う。
今はその使い分けが一番しっくりきています。
まとめ
今は、個人でも十分にプロに近い音を出せる時代です。
必要なのは高価なスタジオ機材よりも、「新しいワークフローを試してみる姿勢」かもしれません。
もし、ミックスの最終工程で躓いて、未完成のまま眠っている曲があるなら、一度だけでもAIの力を借りてみてください。
自分の音楽が、いつもと少し違う表情を見せてくれるはずです。
