第35話 原石探し ① | N/F NO FACTER

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剣と魔法の世界「アスタシア」を舞台にしたファンタジー小説。
謎多き主人公アレルと連れのゼイラ、
その他キャラクターたちの冒険活劇です。
アレルとゼイラ、二人の恋愛要素もあります。

「はぁ。」

ゼイラは一人、住まいの塔の一室で溜息をついた。


昨日、アレルは自分のことを話すと約束してくれたのだ。

愉しみにしていたこの日。

アレルは職場から、まだ、帰らない。


アレルからは

「ごめん、職場でトラブル。残業だから遅くなる」

そんな紙切れに書かれたメッセージが来たのだけど。

ゼイラはごはんも食べず帰りを待っている。


メッセージを持ってきてくれた

小間使いの猫を抱きかかえて頭と背中をなでながら

ゼイラは部屋で一人待っていた。


「もうすぐニット完成だし、頑張るか!」

猫が去っていくと

ゼイラはあと右袖の半分だけになった

アラン編みのニットの仕上げに燃えた。


・・・・


一方その頃、アレルは…


「はい、その件でしたらこれから対応します」

上司からの問いに答え、そうしつつ、ペンを

羊皮紙に走らせる。


ゼイラに自分のことを話すつもりだったのに…

アレルは職場の空気を乱さぬよう、心の中で溜息をつく。


ことの始めは今日の昼にあった。

ルアーガ王に獣人族ケメールの族長が謁見に来たことから始まる。

話はこうだ


ルアーガに財産を寄付する代わり、

自分たちをルアーガに移住させてほしいとの願い出だった。


ルアーガは近隣で一番豊かな国で、

貧富の差も少なく、治安も良い。


ずっと地下空洞で暮らしていた彼らだが

このまま人知れず朽ちていくより

外国に出て安定した仕事がしたいと

言い出す若い民にほかの民が賛同し結果

獣人全員を移民として受け入れてほしい、というのだ。


アレルの外交部署にルアーガ王からその伝達が入り、

外交官たちはまだ、誰として帰宅できていないのだ。


主たる仕事は住居探しだ。

獣人族の体のサイズにあわせた(彼らは背が高く、ずんぐりしている)

住居をとりあえず、できるだけ早く100棟準備しなければならない。

向こうの言い分では3日以内に、と急である。


「このモルモル族の住居なら、サイズも十分だぞ?」

「う~ん、だめだ、38棟しかない。」

そんな会話が同僚から飛び出している。


「思うのですが」

アレルが外交官の長、ランスに問いかけた。

「アレル、なんだ?」

ランスも眺めていた文献から目を離し、それに応じた。

「こんなに急な移民申請にはなにか裏があるんじゃないですか?」

「…それは俺も懸念していた。」


獣人族たちはとにかく早くこちらに移りたいという。

普通は引っ越しの準備等もあるだろうから

半年くらい猶予がほしいものだ。

だが、むこうは3日でなんとかしてほしい、という要望だ。

だから、外交員は全員家に帰らず残業をしているのだが…


二人の間で沈黙が続く中、

同僚のクサビが叫んだ。

「あったぞ~!」

同僚たちが次々そちらに向かい、資料を覗き込む。

クサビは古い住居遺跡の本の閲覧をしていた。

そこに、「ネイマール族の住居120棟」という文字を見つける。


「おお、いいじゃん。」

ネイマール族というのは巨人族だ。

ルアーガが戦争に走った時代、彼らを招き入れ

住まわせるかわりに先陣に立ってもらっていた。

その住居が残っていたのだ。


「ありがとうみんな、今日はこれでお開きだ。ご苦労様」

ランスがそういうと、みんなから拍手が起こった。

「あ、残念ながら住居の転送手続きがあるから明日も早朝に出勤よろしく。」

職員たちはがっくりと肩を落とした。


「とりまやっと帰れる~!」

「妻の料理が冷めてるかな…」

おもいおもいに会話をしてみんな帰り支度をして

帰って行った。


職場にはアレルと上司のランスが残った。

「先ほどの話なんですが」

「ああ、実は裏が取れてる」

ランスは頭をぽりぽり掻きながらなにか資料を

アレルに提示した。


「これは!」

「獣人族は魔族の末裔たちの圧力で移住を余儀なくされた可能性がある。」

そこには、獣人族の長から他の獣人族に向けた手紙の写しがあった。

それは「居住料として法外な金額を無心されたがこれ以上は無理、」という内容だった。


獣人族が、魔族の末裔たちに強請られていた?


「アレルにはそのことを調査すべく現地に明日向かってほしい。」

俺が、獣人族の本拠地へ?

しかも魔族の末裔たちと渡りあわなければならない。

ますます、ゼイラと話す機会が減りそうだがしょうがない。

これも仕事、なのだから…


「承知しました。」


「遅いから今日はもう帰れ。」

「はい。」


アレルは話が終わると、資料をひとまとめにして

脇に抱え、職場を後にした。


「お疲れ様です」

「おう、お疲れ。」

ランスはまだ残務処理があるのか職場に残った。

「ふぅ…」

アレルはゼイラの事をを想いながら、職場を後にした。


第35話 ① 終わり、②に続く

***


なかなか、世の中うまくいかないものですね。

アレルは急な残業と出張だし、ゼイラもやきもきしていることでしょう。


続きはまた近いうちに更新できたらいいと思います。


おたのしみに!