第9話 消えた信者 ① | N/F NO FACTER

N/F NO FACTER

剣と魔法の世界「アスタシア」を舞台にしたファンタジー小説。
謎多き主人公アレルと連れのゼイラ、
その他キャラクターたちの冒険活劇です。
アレルとゼイラ、二人の恋愛要素もあります。

「こんどはベルクールか…」


前話で毒による王子連続殺害事件を

解決したアレル。

その前の停戦調停もあり、、「困ったらとりあえずルアーガに相談」

という各国の風潮ができてしまったのだ。


「ベルクールの新興宗教が連続村ごと

民を消すという苦情を受けている」

ルアーガのセトナ王がアレルに告げた。

「どこの国の民が消えているのですか?」

「それが、世界的な規模らしく、いろんな国から

村人が消え去っているらしいのだ。」

「それを、僕に解決しろと?」

「とりあえず、様子を探ってはくれないか?」


これではまるで便利屋である。

でも、これも外交官としての仕事の一部なのだ…

アレルはゼイラとフォースを伴い

一路ベルクールに飛んだ。


ベルクールには母国を武力で制した

新興宗教団体ヒー=ヤン教が占拠している。

もともと、土地が豊かでない島国で

隣国さまざまな強国に占領されがちな土地であったが

それでも前年までは100年王国が築かれつつあった。

それが、昨年武装集団に陥落され、

国ごと宗教に飲み込まれてしまった。


「とりあえず、教団に入団して

どんな活動が行われているか観察したいと思う。」


ベルクールの要塞に3人で身分を隠し入団し、

潜入して様子を見ることとなった。


「しかし、オレ、こんな服初めて着るよ」

洗いざらしのなんでもない白い上下だ。

威勢よくいつもの着物を躊躇なく脱ぎだしたゼイラ

隣で着替えるアレルもなぜか男同士なのにドギマギした。

アレルはいつもの服だと目立つので

ルアーガのふつうの服を古着屋で新調した。

古着を新調、というのはなんだか、文法的にどうかと思うが…


「着替えは終わりましたか?」

聞いてきた信者の案内人はカーテンの向こうから

声をかけてきた。


「は、はい、もうすぐです。」

3人は着替えを済ますと隣室に案内され

真っ白の壁がある前に集まった全員が座らされた。


「えーでは、みなさん着替えが済んだようなので

上映を始めたいとおもいます」

案内係の顔は鉄面皮で、表情がない。

そして、目が据わっている。

ゼイラはとんでもないところに来てしまったのでは?

と今更ながら悪い予感がした。


どういう仕組みなのかわからないが

白い壁に動く影が映し出され、

ヒー=ヤン教の教祖がなぜこのような

集団を作ったのかというやたら大げさに

ドラマティックに仕立てた影絵のドラマを見せられた。

終わって室内が明るくなると感動して泣いているもの

もたくさん居て、自分の無感動が逆に恥ずかしいくらいだ。


その後、寝起きする壁にぎゅうぎゅうと

無理くりつくられた6段ベッドの一つを

自分に割り当てられたが、

アレルやフォースと別々の部屋に分けられてしまって急に不安になった。


「あの、」

「はい?」

「普段はどのように過ごすのですか?」

ゼイラはさきほどの案内係に思わず尋ねた。

「教祖の説法をくり返し聞いて頂き

日々教祖のために祈るのです。」

「はぁ。」


とくに労働や規制はなさそうだが

寝所は人が多く、乱雑である。

こんなところで眠れるかな…

そう思ったのも束の間、ゼイラは

寝所でいびきをかき始めた。


アレル…どうしてる…かな



一方アレルは、自分の寝姿のダミーを魔法で作り出し、

魔法で姿を消し、教団の中枢に向かっていた。

魔法で姿を消したとはいえ、音やなにかまでは

消せないので慎重にすり足でゆっくり先を急いだ

(矛盾した表現だが)


すると、教団の幹部がなにか相談している声が

セキュリティーを過度にかけられた部屋から

聞こえてきた。


アレルは中空から、集音機を取り出すと、

聞き耳をたてはじめた。


「これでは人数が多すぎる」

「もっと施設を大きくしないと…」


「ここはどうだ?」

「1億ラットにはまだ遠いな」


カタリ、しまった。

アレルは不用意に集音機の部品を壁にぶつけてしまった。


「なんだ!」

騒ぎながら人が3人出てきた。

こいつらが幹部か…

アレルは音を失態で出してしまったが

幹部の顔を見ることに成功した。

「どうせ、鼠だろう。」

施設の中は白で統一され

消毒も行っているようだが

うす汚れ、衛生面は徹底されていない。

深く追求されず、助かった。


とりあえず、今日のところは寝所に戻ることにした。


次の日の朝である。

朝は起床時刻が決まっており、

場に不釣り合いな美しい音色の音楽が聞こえてきた。

どうやら、これが起床の合図らしい。

「うーん」ぐっすり寝ていたゼイラは

目覚めるとさすがにおなかが空いていた。

全員部屋のものがそろうと列挙して

食堂に向かった。


「え?これだけ?」

つい口に出してしまったゼイラを

隣の信者がにらみつけてきた。

固い黒パンと豆の入った流動食のような

スープだけの朝食だ。

ひとくちだけ食べたが、まずい。

調味料は塩だけだろうか?

妙に、苦い。

調理師に文句を言いたい。

料理が得意で味にうるさいなゼイラだから、

しばらくこの食生活が続くだろうことに辟易した。


隣の一団のテーブルに

アレルをようやく見つけた。

先ほどわからなかったのは

いつもつんつんにセットしている髪型を

今日はそのようにしていないことが起因だった。

アレルなりに、目立たないように気を遣っているらしい。

だけど、その隠せない容姿と優雅な出で立ちは周りから完全に浮いている。

「…アレル」

小さな声で呼びかけるとアレルは反応してこちらをみた。

とりあえず、会話は無理そうなので手だけ振ってみた。

アレルもにっと笑ってかえした。


「はい、食事は終了ですよ」

ゼイラはいろいろな事に気をとられ、結局

食事に満足に手をつけずに、朝の朝食時間が終わって

席を立たされた。


全員静かに別室に移動する。

大きな講堂のような白い部屋に場所を移し

座布団の上に胡坐をかいて座るように指示された。

アレルとフォースは胡坐が初めてだったらしく

長い脚を収めるのに苦戦しているのを心のなかで笑って眺めた。


そこに読経のような音声が流れはじめた。

他の信者たちは目をつぶり、精神を集中させている。

ゼイラも周りにあわせて、そうしたが

あくまでポーズだけであり、頭の中は煩悩でいっぱいだ。

昨日見たアレルの裸の背中を思い出していた。

男同士だというに、アレルはこちらを向いてくれなかったが

背中の筋肉がセクシーだった。

そんなことを悶々と考えていた。


しかし、そんな集中の時間は3時間も続いた。

大した活動もしてないのに、どっと疲れたような気がする。

講堂に集まった300人あまりの信者たちは

疲れに耐えるように皆、胡坐をかいて姿勢を崩さない。

ゼイラは退屈でありながらもなんとか

妄想して時間に耐えることに成功した。

思い浮かぶのはアレルのことばかりだったが…


「はい!」

信者のひとりがかけ声をかけると講堂の明かりが急に消された。

え?ゼイラはなんだろう?急に精気を吸われているような

不思議な感覚に陥った。

これは、やばい。

頭にストローを刺されて脳をちゅるちゅる吸われているような…

確実に、命が削りとられている感覚。


1分ほどで明かりが再び灯されたが

なんともうすぼんやりした疲労がそこに残った。

「こいつは やばいな…」


閉鎖された空間に、

鳥の声などは響いてこない。

なので、心の中にゲェーイ、ゲェーイ、グェイグェイ

とオナガの鳴き声を響かせて、平静を保つ。


ゼイラはこれからの数日の

苦行に思いを馳せるのであった。


第9話、①おわり、②に続く。


***


①は宗教団体に潜入する話です。


見知った情報からリアルに想像してみたイメージです。

3人は無事抜け出せるのか!?

教祖は!?

という感じで進めていきたいのでお楽しみに。




ちょっとカッコつけた、3人のイラスト

ペン素描