SHOW-ROOM(やなだ しょういちの部屋)

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芸能事務所の実録長編小説「夢に向かって!」その為短編2冊が電子書籍にて絶賛発売中!
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 「VIP買わない?」


Hホテルにいる同期、岸田からの電話。


バーテンダーの藤間さんから譲り受けたセドリックブロアムターボVIPを売りたいという。


「おっ、今度はカマロ譲り受けるの?」


以前、先輩バーテンダーの藤間さんがカマロに乗り換える際、それまで乗っていたセドリックを岸田が譲り受け、岸田が乗っていたグロリア430を俺が譲り受けていた。


「違うよ。金がいるんだよ。」


「何で?」


「結婚するからさぁ。」


「えーっ!?マジ?誰と?」


「和食にいた山本って知らない?」


「和食かあ、名前は分からないけど、顔見れば分かるよ。」


「同期だよ。」


「なら顔見れば分かるよ。」


結婚準備で金が欲しいと、大好きな車を売る決断をしたという。


車より大切なものを得たという事か。


数日後、俺の車はグロリア430からセドリックブロアムターボVIPになった。


そして、その新しくなった車で橋本さん、瀬戸さん、谷川の3人を誘って古巣のHホテル、セントジョージに連れて行くことに。


俺が休みの日。


日勤が終わる17時にホテル前に車を停めていると、瀬戸さんと谷川が後部座席に乗って来た。


えっ?瀬戸さん助手席に来ないの?と、思ったが橋本さんが来ないので「橋本さんは?」と、聞くと「橋本さんは三越に取りに行くのがあって、少し早めにあがったので、三越の前で待ってるって言ってました」と、瀬戸さんが言った。


三越の前に着いて橋本さんを見つけると、助手席の窓を開けて「橋本さ〜ん!」と。


橋本さんはごく自然に助手席に乗り込んで来るなり「スゴイクルマ!」と、冷やかすような口調で言った。


 Hホテルの地下駐車場に車を入れ、エレベーターでロビー階へ。


ラウンジの向こうにセントジョージの入り口が見え、宇多川さんが立っているのも見えた。


「ご無沙汰で〜す(笑)」


すると宇多川さんは驚いて「おお〜!(笑)な、何人?」


「4人でお願いします(笑)」


宇多川さんはカウンターの藤間さん達にアイコンタクトしながら、俺達を奥のソファー席に案内してくれた。


「これ皆さんでどうぞ(笑)」


俺は用意して来たヘネシーXOとジャックダニエルを宇多川さんに渡す。


「おお、悪いなあ(笑)」


夜の乾杯用にと、BARなのにあえて酒を手土産にしたのだった。


「お久しぶりです!こちら宇多川さんからです(笑)」と、野口がハウスボトルのバランタインを持って来てくれた。


「えーっ?いいの?ちゃんとドリンクオーダーするからいいのに!」


「宇多川さんからですから(笑)」


「みんな水割り?ソーダー割にする?カクテルも何でもあるから言って(笑)」と、橋本さん達にドリンクを聞くと、瀬戸さんと谷川はドリンクメニューを見ながらはしゃいでいた。


「ヤナダさんは水割り作ってよろしいですか?」


「あ、俺は車だからウーロン茶頼むよ(笑)」


「えーっ!?(笑)」


「あ、橋本さんもとりあえず作ってもらう?」


「あ、うん(笑)」


瀬戸さんと谷川の若手はノンアルのカクテルを注文し、みんなのドリンクが揃ったところで乾杯。


「失礼しまーす。」


野口が何やらフードを持って来た。


「え?何?」


「キッチンにヤナダさんが来てますって言ったら安田さんが持って行け!って(笑)」


「えっ?安田さんが?ああ、お礼言っといてな。」


「はい。まだいろいろ出してくれるみたいですよ(笑)」


「いや、もう自分で注文するからって安田さんに言って来てよ!」


「大丈夫ですよ(笑)」


キッチンスタッフのご厚意で、テーブルに置き切れない程のフードが並んでしまった。


瀬戸さんも水割りを飲み始めると次第に酔いが回ったらしく、別れた彼氏の愚痴を言い出したり未練がましい事を話すと、それを橋本さんが歳上らしく慰めていた。


また、未成年の谷川はあまり遅くなると親に叱られるらしく、中盤あたりで帰って行った。


「トイレ行きたーい。」


知らないうちにかなりベロベロになった瀬戸さんを橋本さんがトイレに連れて行く。  


その間にチェックを宇多川さんにお願いすると、「今日はいいよ(笑)」と。


「えっ?いや、ダメですよ!ちゃんと払わせてください!」


「いいから(笑)」


「ダメですって!こんなにフードも出してもらってますから!」


「いいって(笑)その代わりまた来なよ。」


問題児だった新入社員に何という温かさ。


橋本さんと瀬戸さんは明日も仕事だというので、マネージャーに頼んでツインをキープしてもらっていた為、俺はホテルまで送って行った。


完全に潰れてしまった瀬戸さんを後部座席で橋本さんが面倒を見ている。


ホテルに着いて瀬戸さんを起こしながら降りて来た橋本さんに「お疲れ様!」と言った時、50cmの至近距離で目が合った。


その瞬間、時が止まったように2人は数秒間見つめ合っていたように感じたのだった。



〜つづく〜