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じじい司法書士のブログ(もんさのブログ改め)

法律事務所の中で司法書士・行政書士を個人開業しています。50近くになって士業としての活動をはじめました。法律事務所事務員と裁判所書記官としての経験を生かして、少しずつ進歩していければと思っております。

与信先の在庫商品を担保にとっているのだが……という相談がありました。

いわゆる「集合動産譲渡担保」ですね。

といっても、動産譲渡担保登記をしているわけではありません。

「譲渡担保契約書を差し入れさせているだけですけど、これで対抗要件は満たしているのですか」というご質問でした。






在庫商品を担保にとる場合、「質権」を設定する方法ではなく、譲渡担保の方法がとられます。質権の場合、在庫商品の占有を設定者(与信先)に留保することができない(民法344条・345条)からです。



在庫商品担保の場合、与信先(設定者)が危機状態に陥るまでは、与信先(設定者)に在庫商品を占有させ、通常の営業の範囲内の処分を認めます。



その代わり、一定金額以上の価値の在庫商品が保管場所(店舗や倉庫)にあるよう、与信先(設定者)は、担保物(在庫商品)の維持・補充義務がある旨定めておきます。



動産譲渡の第三者対抗要件は「引渡し」です(民法178条)


また、動産譲渡登記を行うことも、民法178条の「引渡し」とみなされます〔動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(以下「特例法」といいます)3条1項〕。




実際に引渡しを受ける(現実の引渡し)ことが、第三者から見ても明らかなので、よいのですが、前述したとおり、通常の営業の範囲内で処分すること(設定者が引き続き占有し続けること)を認めなければなりません。そうなると、どうしても、引渡しの形態は「占有改定」(民法183条)または「指図による占有移転」(民法184条)ということになります。



「占有改定」というのは、設定者(B)が譲渡担保権者(A)のために、動産を占有する旨の意思表示を行うことによって行われます。

一般にも多く行われている

「AがBから貰ってそれをBに預けておく」

という場合ですね。譲渡担保契約書を差し入れることで、BがAに「預かっておきましょう」と言うわけです。




「指図による占有移転」というのは、設定者(B)が設定者の所有する動産を占有している人(占有代理人・C)に対して、以後、譲渡担保権者(A)のため占有するよう命じ、譲渡担保権者(A)がこれを承諾することにより行うものです。
Bが倉庫(倉庫業者Cが占有代理人となります)に預けている在庫品を、倉庫に預けたままでBに移転する場合です。

Bが倉庫業者に「預けてある在庫商品の所有権をAに譲渡したから、今後はAのために預かってくれ」と言ってやって、Aがそのことを承諾して行われます〔Cに対する指図は必要ですが、Cが承諾までする必要はありません(通説)。〕。




よくある譲渡担保契約書には、
第●条(引渡し)
1.甲は、乙に対し、本件譲渡動産(在庫商品)について、本日、占有改定の方法により引渡しを完了した。
2.甲と乙は、本件譲渡動産のうち将来本件場所に搬入される動産についても、甲が直接占有する動産につき第1項の占有改定の方法による引渡しがなされているものとする。
などといった条項がもうけられています。



ただ、「占有改定」というのは、第三者から見て(外観上)引渡しが行われたのかどうかが、よく分かりません。

第三者から「本当に行われたの?いつ行われたというの?どうせ、二人(AとB)で示し合わせて、嘘言ってんでしょ!」と言われかねないので、Bから差し入れられた譲渡担保契約書に確定日付をとっておきます。




この「譲渡担保契約書を差入れさせて、確定日付をとっておく」という方法は簡単で、かつ、有益です。
(1)動産譲渡担保登記の「存続期間」問題の解消
動産譲渡登記は、登記の存続期間が原則として10年に限定されている(特例法7条3項)ので、この期間を超えて担保取得することができません。
(2)動産売買先取特権の追及効の遮断
民法333条は「先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。」と規定しています。在庫商品の仕入先から、この「先取特権」を主張される可能性を排除するためには、「引渡し」を受けておく必要があります。動産譲渡登記が行われることで「引渡し」があったものとみなされるわけですが、みなされた「引渡し」でもって、民法333条にいう引渡しがされたと同視することには実務上はリスクがあると言われています。
(3)動産譲渡契約締結時から動産譲渡登記完了時までのタイムロスを回避することができる
動産譲渡登記は申請して、その場で待っていれば、(却下事由があって、取下げせざるを得ないケースを除き)完了を確認することができます。しかし、設定者からの委任状・印鑑証明書の徴求や、申請準備にある程度時間がかかるので、すぐに対抗要件を満たすことができる「譲渡担保契約書を差入れさせて、確定日付をとっておく」という方法は、動産譲渡登記をする場合でも有益なのです。





動産譲渡登記には、

(1)対抗要件の立証が容易

(2)即時取得の遮断の可能性

という大きなメリットがあります。

私は平均して月1件程度しか受任していないのですが、もっと動産譲渡登記の利用が増え、私にもご相談していただく機会が増えればよいのにな……と思っています。

遠慮なく、ご相談いただければと思います。