今日は、株式買取請求権のことについて書きたいと思います。昨日も触れましたが、組織再編に伴う株式買取請求権についても、会社法改正要綱では見直しがされています。以下に現行会社法下での流れを見てみます。
会社法は、組織再編行為等が行われる場合、これに反対する株主の権利を保護する目的(投資家の「退出の機会」を付与)で、反対株主に会社に対し、その有する株式を公正な価格で買い取るよう請求することができると規定しています。当事者間で協議が調わないときには、裁判所に対し、株式買取価格決定の申立てをすることができる旨定めています。
「買取請求権者」
(1)株主総会が開催される場合
① 議決権を行使できる株主…事前に反対の通知+総会で反対の議決権行使をした株主が買取請求できる。
② 議決権行使できない株主(単元未満株主、議決権制限株主など)…全員に買取請求権発生(事前の反対の通知不要)
(2)株主総会が開催されない場合〔簡易組織再編(ただし、簡易分割の分割会社を除く)、略式組織再編の場合〕…すべての株主に買取請求権発生
「株式買取請求権の行使期間」
(1)吸収型再編…効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日まで(会社法785条5項、797条3項)
(2)新設型再編…株主に対する通知又は公告の日から20日以内(会社法806条5項)
「買取請求権行使後の流れ」
(1)反対株主が買取請求権行使
(2)反対株主と会社との間で協議
① 協議成立…会社は効力発生日又は会社成立の日から60日以内に支払い
② (効力発生日又は会社成立の日から30日以内に)協議が調わない場合…(30日満了後30日以内に)株主・会社いずれも、裁判所に対して価格決定の申立てができます。
(3)価格決定の申立て→審理(審問)→裁判(価格決定)
(4)(効力発生日又は会社成立の日から60日以内に)価格決定の申立てがない場合…株主は株式買取請求権を撤回できます。買取請求自体が当然に失効するわけではありませんから、裁判外で協議を続けてもかまいません。
株式買取請求権は、上記のとおり、少数株主保護のための制度ですが、実際に株式買取請求をする人には様々な思惑があります。
(1)税務上の理由(法人株主にとっては、第三者への譲渡より自己株式取得の方が税務上のメリットがある)
(2)会社が自己株式取得をすると、余りにもあからさまな場合、あえて株式買取請求権を行使してもらう(簡易組織再編でも買取請求権が発生するから、会社はお金を払いやすい。)。
(3)法定利息(6%)狙い(効力発生日又は会社成立日から60日経過後から年6分の利率による利息が生じる)(会社法786条4項、798条4項、807条4項)。
また、「濫用的な請求」(組織再編の公表後に取得した株式も買取りの対象となるかどうか……)の問題もあります(←「分かった上で取得したのではないか?」)。
株価決定の対象は「公正な価格」です。上場会社であれば、
(1)企業価値の増加が生じない場合…組織再編を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(ナカリセバ価格)〔楽天vs.TBS事件・最決平成23年4月19日〕
(2)それ以外…株式買取請求の日においてその株式が有していると認められる価格〔テクモ事件・最決平成24年2月29日〕
非上場会社の場合の「公正な価格」は一概には言えません。収益還元方式(DCF法)、配当還元方式、取引事例方式、類似会社比準方式、純資産価格方式などの算定方式がありますし、また、これらを併用することもあります。