「家内安全」
夏石鈴子
コレの続きです
「鉄紺」
生まれつき太ももに青痣のある杏子
女たちも男たちも、杏子の青痣を見ると
憐れんだり、怯えたり、見下したりする

杏子の「青痣」というひとつの特徴で
「青痣のあるひと」として勝手に哀れまれたり、疎まれることの窮屈さや
セックスの時に青痣を見つけた男たちの反応から
ちょっとした優越感と同時に屈辱感も感じている
人と違うってことはいいこと悪いこと以前に
「人と違う」というただそれだけだったりするんだけど
そしてそれは他でもない、「人と違う」本人自身が決めていいはずなのに
そうシンプルでいられる人は少ない
でもまぁ、青痣のある人を反射的に気遣ってしまう気持ちも
杏子にしたら小賢しく疎ましいものに感じるかもしれないが
愚かながらも善意の一つなんだよなぁ
「かわいそうだから、優しくしてあげる」という
ある種の「見下し」がないかと言われればわからない
「青痣」というひとつの事象に対して
人はこうまでもさまざまに複雑な感情を咄嗟に抱く
それのどれが「適切」な感情として表現していいかは
咄嗟に判断が難しい
杏子は青痣自体を、周りが思うほど嫌がってはいない
ただ、「みんなにも青痣があればいいのに」と思う
それは、「人はみんな違う」ということが
もっと平等にわかりやすければ楽になれるのに、という
誰しも抱いたことのある感情ではないだろうか
最後、杏子の青痣をかわいそうでもなく気味が悪いでもなく
ただ青痣とだけシンプルに受け止める男とセックスするシーンで話が終わる
いっぱいわたしとして、いっぱいいかせて、と言って笑い合う
それはもうなんの特別でもない、青痣とは関係ない普通すぎる睦言なのだった

