29歳の独身女性、リキ
貧困に嫌気が差した彼女が手を出したのは
自らの子宮を提供する「代理母出産」だった

分厚い本だけど、おもしろくてスルスル読めました!
リキの貧しい暮らしの描写はすさまじく
みじめさ、屈辱感がじんじん伝わる
まさに桐野夏生作品!ってかんじ
序盤からこんな調子だというのに、
あきらかに危うい「代理母ビジネス」なんかに足を踏み入れるリキ
物語はどんどんと混沌、ドロドロ、おぞましくなっていくのかと思いきや
女たちの奇妙な友情みたいなものが感じられて
共感できるはずもないと思っていた登場人物みんなに
妙に共感を覚えてくる不思議な展開に…!
登場人物誰ひとりとして、まっとうなだけの人はいません
みんな愚かだったり、薄情だったり
だけどどこか共感できる人間らしさがあるのです
〜〜登場人物〜〜
草桶基
リキに代理母出産を頼む夫婦の夫
バレエダンサーのサラブレッド一家の息子だから自分の血を残すことしか考えていない
妻が子供を産めないから代理母出産に踏み切ったんだけど
結果的に自分とは一切血の繋がらない子供を育てることになる妻のキモチ一切無視なんだよな![]()
だから、物語のいきさつで
「リキ(代理母)のおなかに宿った子供が他の男の子供かもしれない」
って状況におちいるのは小気味良かったw
ざまあwww
基はここで初めて苦悩するんだが、それ妻も同じ状態だからな!?っていうね
契約関係のはずなのに、リキと基が恋に堕ちる…
みたいなありがち展開くるかと思いきや
基が恋愛したくもない程度に絶妙にイヤなヤツなのが良かったwww
しかし基は基本的にはリキにきちんと報酬やそれに見合う十分なサポートを用意するし
利己的な自分を顧みたりもするので
ギリギリ憎めないところもあるんですよね
草桶悠子
リキに代理母出産を頼む夫婦の妻
不倫の末、基と結婚したものの子に恵まれず
つらい不妊治療の挙げ句、旦那は代理母出産にどんどん乗り気になっていく…![]()
悠子の心情を思うと胸が痛い…
しかし悠子はリキの気持ちに寄り添うようなところもあり、そこは意外だった
悠子は悠子で利己的なところもあるんですが
悠子とリキ、りりこの
友情や絆とまではいかなくても、打ち解けて
お互いの気持ちを思いやったりするところはなんだか美しいと思った
寺尾りりこ
悠子の友人で、春画アーティストをしている
男性を憎むが、性行為や男性器には執着があるという
偏った思考の持ち主ではあるんたが
それなのにというか、それゆえになのか
悠子やリキにまた違う目線から
寄り添ったり、厳しい意見を投げかけたりする
りりこの存在もまた、悠子やリキの救いとなっている(と思う)
テル
リキの同僚。同じく貧困女子。
リキもそうだが、テルもまた貧困は自分だけの責任ではない部分も大きい
テルはリキを卵子提供や代理母ビジネスにつなげた張本人なのだが、
テル自身は卵子提供や代理母に対して抵抗感がある
テルは昼の仕事と風俗をダブルワークしているのに、そこは抵抗感があることに意外だったが
その矛盾もまた人間らしさだと感じた
私はこのテルという人物、
最終的にリキを妬んだり足を引っ張る人になるのかなと予測していたんだが
意外にもテルは良い友人でありつづけた
テルもまた、リキとは違う形で母親になります
幸せの必須条件っていったいなんだろう…と考えさせる存在です
大石リキ
主人公
貧困だからって代理母ビジネスなんて危ない橋を渡るし
草桶夫妻との秘密の契約をけっこうペラペラ人にもらすし
草桶夫妻との不妊治療中なのに、不特定多数の男と関係を持つし
軽はずみで馬鹿な女性なんだが、読めば読むほど嫌いになれない
それは、その時その時で
リキが自分の心と向き合い自分の頭で考えて自分なりの答えを出しているからだと思う
流されているようで流されていない
特に、代理母契約を始めて貧困地獄から救い出された後からのリキは
自分の人生や尊厳、女という性について、
草桶夫妻のことについて、母親や母性というものについて
さまざまな角度から考えるようになる
とにかく貧乏から抜け出したいとしか考えていなかった頃とはどこか変わる
まさに「貧すれば鈍する」だなと思う
しかし、
リキにすっかり共感した私でも、ラストのリキの選択にはあっと驚いた
リキのその後が読みたい…!
ドラマ化見逃した! 見ればよかったなぁ
