「奴隷小説」
桐野夏生
物理的にも、精神的にも
さまざまなものの支配下にある「奴隷たち」のオムニバス

奴隷たちの
過酷すぎる、痛ましすぎる、不潔すぎる生活
描写のおぞましさはさすが!という他ない😅
そもそもどうしてこんな理不尽がまかり通るのかも明かされてなかったりして
そこがさらに無気味極まりない
奴隷たちは、
この状況を理解したり納得するよりも
ただ生き抜くためにはどうしたらいいか
少しでも苦痛を減らし
快適に暮らすにはどうしたらいいかを考えていて
もはや思考がシンプルでクリアですらある
そして、どんなに過酷で最悪な状況にあっても
本人なりの活路や抜け穴を見いだそうとする
自らの血液をこの上ない美味しいものとして味わうかのように
そのすがたは投げやりでもあり
もはやふてぶてしさすらある
読みながら
この主人公はどこにも逃げられないだろうという絶望感と
崖っぷちで覚悟を決めた者の爽快感を感じる
「REAL」という短編は少し異色というか
東洋人のふてぶてしい雰囲気の「アサミ」という中年女性が
ブラジルに住む「ヨシエ」という同じく中年女性を訪ねる話
REALはブラジルの通貨の名前だそうで
この短編には痛ましい拷問や汚い描写はないけれども
アサミの記憶、彼女が置いてきた過去が少しずつ明かされると
彼女もまた暗い檻の中にいることがわかる
アサミは泣いたりもしないし赦しを請うたりもしない
ただ一人ふてぶてしいままブラジルへ来た
しかしそこでアサミがはじめて見た悪夢と感じた恐怖感は
私には長年びくともしなかった檻の鍵がすこしずつ緩み始めた兆しのように感じた

