「僕の明日を照らして」
瀬尾まいこ
中学2年生の隼太は、この春から母の再婚相手と暮らし始めた
新しい父の優ちゃんは、優しいし職業は歯科医だ
でもときどき、優ちゃんはキレて隼太に暴力をふるう
隼太は優ちゃんに、暴力を治すために一緒に努力しようともちかける

今まで読んだ瀬尾まいこ作品のなかで
いちばんグロテスクで
恐ろしい話です
それぞれ傷や悩みを抱えていても、誰かと分かり合って笑顔になれる
そんな温かさや優しさ、ホッコリが瀬尾まいこ作品の持ち味だと思ってるんですが…
まさかこの作品も、同じカテゴリーなのでしょうか?
これがホッコリ?
隼太は優ちゃんと、
DVについて勉強したり、
アンガーマネジメントについて考えたり
イライラしないための食事を作ったり
毎日の行動を振り返る日記をつけたりする
いっけんそれらはホッコリだけど…
ふたりの努力は健気だけど…
いやもう隼太完全に
ストックホルム症候群じゃん!
1日の終わりに「今日も優ちゃんに殴られませんでした」っていう日記を
早めに書いちゃう隼太の痛ましい祈りのように思えた
それでも結局意味わかんないタイミングで殴られるからね、隼太
そんで優ちゃんとかいうこのクソ男
「俺は最低だ。俺は消えたほうがいい」とか言いながらも警察にも行かないし出ていかない。
口ばっかだな
ほかでもない隼太が、優ちゃんにいなくならないでほしいと懇願してるからなんだけど
それは、隼太が優ちゃんを好きだからじゃないよ
子どもはとにかく、自分の生きる環境が壊れることが恐ろしいんだよ
そして、こうして一方的に与えられる暴力に迎合してきた事実は
おとなになってから後遺症がくる
殴られて当然の自分、という感覚が抜けない
私も隼太みたく、父親に殴られた日をカレンダーにチェックして
法則性とか、理由とかを分析して
なんとか殴られないようにしたいと思ってた
でもそれは無理なんだよね
やつら、ほんと気分次第で殴ってるだけだからさ
圧倒的に敵わない相手に一方的に殴られるってさ
怖いとか悲しい以前に恥ずかしい
殴られた衝撃で耳がキーーンとなって
いとも簡単にばかみたいな格好で壁に飛ばされてクシャッとなる
そんなみっともない自分の姿が脳内で何度もリフレインする
そして、そんなみっともない自分が悪い
みっともない自分こそが私なんだといつしか無理矢理納得する
自分をみっともないという認識ってすべての癌ですよ
すごい歪みます😑
隼太が優ちゃんの暴力を受け入れる自分をどう思っているのか
大人になってからどう振り返るのかはわからないけど
すでに隼太の人格に弊害が及んでいるように思う
隼太は人に対して、冷酷と言えるレベルで諦めが早すぎる
どうせわかりあえない、面倒なやりとりするくらいなら切り捨てた方が効率的みたいな
そして、その隼太の性質は
家ではなく学校での人間関係において顕著に出るというのも歪んでるなと思う
クラスメイトも先輩も、ヌルい奴はガンガン斬り捨てるくせに
家で理不尽に危害を加えてくる優ちゃんには縋ってしまう
これのどこがマトモなんだろう…?
優ちゃんと隼太の努力は実を結んだ?のか
キレて殴られることのない平穏な日々が続く
まさかこれでハッピーエンドみたいな結末なの…?
と、なかば怯えたんですけど
ラストで急転直下が起きます
優ちゃんの暴力が、ひょんなことから隼太の母にバレます
そこからの展開、隼太のセリフに驚愕しました
ぜんぜんホッコリストーリーなんかじゃない…
むしろこれはずっと、隼太の復讐だったのかも…とすら思った
隼太と優ちゃんが苦しんだいくつもの夜
(個人的には優ちゃんには苦しむ権利もないと思いますが)
母親はなにしてた?
仕事してた?
この春に家族になったばかりの父と子を二人にして?
何も疑わずに?
本当は誰が加害者なんだろう
母だ、と言い切れはしないが
本当に母に責任はないのか?
母さんのお陰で、俺はこんなに歪な生き物になりました
隼太のそんなコトバが隠れているようにさえ思えた
わたし自身の経験も相まって
なんとも割り切れない、かといってこれ以上深く考えるのも怖いような
後味の悪い読後感となりました
やっぱり
恐ろしい話…