顔立ちは綺麗で実家もお金もちだけど
とんだ勘違い野郎の童貞、伊藤くん
そんな彼に恋する女
彼を毛嫌いする女
彼を嘲笑う女
みんな伊藤くんが気になって仕方ない

A〜Eまで5つの章があり
それぞれの章の主人公である女性から見た伊藤くんが描かれる
この構成から思い出したのは
川上弘美
「ニシノユキヒコの恋と冒険」
これも、各章べつべつの女性が主人公で
それぞれの目線から「ニシノユキヒコ」のことを描いている
ニシノユキヒコもまたそれなりに困った男だった気がするんだが
妙に切なく、こんな人に恋をしてしまったらどうしようと要らぬ心配をしたものだ
ですが、この「伊藤くんAtoE」
AからEまで、徹頭徹尾
伊藤くんはクソ
くそダサいクズ野郎で
コイツに恋することはまずないだろうと自信が持てる
せつなさ0%で安心して読める笑
はじめ、A to Zじゃないんですか?と思ったんだが
Eまでで充分。
伊藤くんのダメさには5章でお腹いっぱいです
伊藤くんのなにがいちばんダメかって
それはやはり
現実を見ようとしないところ
耳障りのいい言葉や
自分の理想にだけしがみついて
厳しい現実や厳しい指摘をする人間からは徹底的に逃げ回る
自分を甘やかしていい気分にさせてくれる人間には徹底的にすがりついて好意を搾取する
しかし、もしかしたらそれは
伊藤くんを嘲笑う私たちも同じではないか?
という驚きの発見が最終章で投げかけられる
これまで女たちの目線からしか語られなかった伊藤くんが
はじめて本心を吐露するのである
伊藤くんほどあからさまに楽な方、心地良い方に逃げ回っていなかったとしても
誰しも心のなかでは
傷つきたくない、負けるくらいならば勝負自体をしたくないと
予防線を張っているのではないかと気付かされるんである
恋愛も、仕事も、夢も、人生も
なにかを渇望してしまったら
無様に負けることは隣り合わせなのである
だから伊藤くんは戦わない。踏み出さない。欲しがらない。
ひたすら自分に都合の良い妄想のぬるま湯にしがみつく
それこそが一番の勝者では?
っていう気になってくるから不思議
なにが正しいとか、なにが偉いとか
他人が決めることじゃないはずなのに
自分の価値観すらも一瞬わからなくなる感覚…
伊藤くん、恐るべし
ただ、伊藤くんがこの生活を貫けるのも
見た目がいいってのと実家が太いっていうことありきなんだよなぁ
ブサイクで貧乏ならこんな生き方まず無理だし
やっぱ伊藤、勝ち組じゃね?
ムカつくけどそう思ってしまうのだった
