子供を「産めなかった」佐都子
子供を「育てられなかった」ひかり
特別養子縁組という制度と、「朝斗」と名付けられた赤ちゃんを通して
交差するふたりの女性の運命

不妊治療、若年者の出産、特別養子縁組を題材に
ふたりの女性の人生が描かれます
個人的に、
「育てられなかった」ひかりの章が読んでてしんどかった
ひかりは中学生で妊娠し、悩んで苦しんだ結果
出産したこどもを養子に出す決断をするんですが
それだけでも中学生にはかなりハードな経験ではありますが
その後もなんだかんだ過酷な運命が待ち受けています
いろいろなことが重なり
簡単にいうと「詰んだ」状態になるんですね
もうその後のいろいろは、中学生で出産したこととはもはや関係ないじゃん…
と思うくらい巡り合わせが悪いというか、ただのアンラッキーとも思えるのですが
良く考えればすべて繋がっている
根幹は同じ
ひかりの「家族」へ対する違和感
中学生の妊娠、というと
たとえばネグレクトされていたり、異常に早熟にならざるを得ない生育環境を想像しますが
ひかりはきちんとした両親と真面目な姉がいる
「普通の家」で育った
けれども、過剰な期待やそれを押し付けられる圧、優秀な姉と比べられるしんどさ
期待に応えられない惨めさ、「普通」であること以外は認められない寂しさ
ひかりは出産する前もした後も、
そこから逃げ続けては道を踏み外して転落していったような印象
もちろん、佐都子の不妊治療の箇所も読んでいてしんどかったし
朝斗を育てる上でもママ友トラブルとか、そういう育児の大変さももちろんあるけど
「心のベース」みたいなものが
佐都子にはあるがひかりにはそれが無いように思えた
特別養子縁組の手続きを行うシーンで
「里親は誰しも『普通の子供』を希望するが、『普通の子供』は『普通の家』にいるものだ」
という一節がありハッとした
養子に出す、産みの親が養育できないという背景には、
ズバリいうと、なにかしらの不幸な事件に関連した子供だという可能性も大きいわけですよね
こういう考え方は嫌なものだが
まっさらの赤ん坊の血に「事件の残り香」が混じっていると考えてしまうこともあるだろう
けれどもこの小説は
「育った環境でいくらでも人を決められる」ということを伝えているように思った
性善説を肯定しているというのかな
ひかりは、実の両親といっけん「普通の家」で育ったが
実際は家族との信頼関係が築けず、齟齬を埋めきれず、転落していった
朝斗と佐都子夫婦は血の繋がりのない、いっけん「普通の家族」ではないが
朝斗を信じて守るという信頼関係を積み重ねられているように見える
正反対の境遇を生きる佐都子とひかりだが、
あまりにひかりの方だけ部が悪すぎる物語のように感じたのだが
ラスト、少しだけ救いが見えそうというか
ここからなんとかひかりの人生が報われてほしいと思う結末だった

