「夜明けのすべて」
瀬尾まいこ


 

 

PMSの症状に悩まされる藤沢と

パニック障害に苦しむ山添


ふたりは発症してから今までの社会生活が送れなくなり

ちょっとユルめの会社、栗田金属に転職してきた


はじめは、お互いの苦しみに共感できないふたりだったが…





THE・瀬尾まいこ節!

と呼びたくなる作品なんだけど


※瀬尾まいこ節とは、私が個人的に感じている瀬尾まいこ作品あるある

主役の二人は真面目で賢くて、コミュ力がある

だけど人に言えないトラウマ的なものが徐々に明らかになる

一緒に美味しいものを食べたりして、お互いの悩みを共有しつつ小さな何かに挑戦する

みたいな



この作品は、序盤からふたりの苦悩がバーンと描かれるのが

インパクト大だった


藤沢がPMSの気分障害で、職場や友達に爆発してしまうところは

その後のやってしまったという後悔含めて胸がギュッと苦しくなった



山添のパニック障害の描写では、思わず息が浅くなり苦しくなった



今までできていたことがどんどんできなくなり、

自分ではコントロールできない

しかもいつ治るかもわからない


静かに閉じ込められていくような絶望感を感じた



わからない人から見れば

藤沢はただのヒステリーだし、山添は無気力な人間と思われるだろう

ということも胸が痛んだ


だからこそふたりは、

外ではなるべく「ふつうの自分」でいられるように

真面目に、穏やかに、当たり障りなくいようと必死で努力する



だけど、たった一度の発作で

それまでの努力もすべて儚く失敗してしまう(ように感じている)



病気と付き合う、って簡単にいうけど難しいよね



藤沢と山添は

お互いの病気をそこまで理解できていないものの

お互いの辛さには共感し合い、少しずつ関わり合いが増えていく



まわりには最大限気を使うはずの藤沢と山添が、

お互いにはあまり気を使わず不躾な言動を取るところが良かった



お互い、なんだかトンチンカンで一方的なやり方ではあるんだが

相手が辛くなりそうなときに

少しでもそばでフォローしてやりたいと思い必死で行動するようになる



そのうち
昔はできていたのに、病気になってからできなくなったことに目を向けるよりも
今の状態でできる方法を少しずつ模索しはじめる


病気になる前の自分こそが「本当の自分」で、
それに完全に戻ることを目標とするのではなく

病気になったあとの自分を「新しい自分」として受け入れようとする気持ちだ


物語の最後、藤沢と山添は
「今の自分ができること、やりたいこと」を見つけ精力的に活動しはじめる


そんなに頑張りすぎたらまた調子崩さない?
無理しすぎないで!

と、私は思ってしまうが

もしまた症状が出てしまっても
今の二人なら
「これが今の自分」として受け入れて
また新しい方法を探っていけるのだろうと感じた