「さいはての家」
彩瀬まる


 

 

築四十年のちいさな古い平屋

そこはなぜか、

すべてのものから逃げに逃げてきた人たちがたどり着く家



一話目

「はねつき」




ホステスのつるちゃんと、既婚者の野田さんは

すべてを捨てて駆け落ちして、ちいさな平屋に暮らしている


逃げてきたなんて嘘みたいに穏やかなふたりの生活


だけどつるちゃんは、この生活が長くは続かない予感がしていた



迷うことなく新しい仕事を始め、

前の住人が置いて行った荷物も、過去の生活も、

きっぱり整理したつるちゃんは


野田さんに比べて薄情なのだろうか?


野田さんとつるちゃん、どっちが冷たいんだろう



過去と決別するということは、

現在に真摯に向き合うということ


野田さんは過去を捨て切らないかわりに

現在からも逃げ回る



ほんっとに野田はクソだなぁ


不倫して妻子を捨てたからじゃないよ

そういう意味ならつるちゃんも同罪



野田さんは

過去も今も、どっちも整理せず持っておいて

いつでも逃げ道を持っておく



それをすることで、どれほどの人が傷つくか考えればすぐわかるのに

考えない


そういう人にとって、

考えないことは、ないのと同じ



生き埋めにしたネズミの小さな息の根も

裏切られた妻のことも

捨てられた娘のことも


若くて、ちょっとおバカなだけだったつるちゃんが

憎しみが一筋滲んだ愛に捕われていることも



野田さんは気づかない(ふりをしている)



最後私は

刺しちゃえばいいのに、つるちゃん

って思ってしまった