「小鳥、来る」
山下澄人

 

おれとたけしとまーちゃんは同じアパートに住んでいる

アパートはどこの部屋もひと部屋しかない


よく一人で公園か屋上にいたまーちゃん

バカじゃないけどバカなたけし


おれは、父親に殴られていた

おれは、よく父親と釣りにいった



おれは一度は父をやってやると決めている




本当に小学生の男子が書いた作文のような

短くて端的な文の連なりや、


たわいもない子供たちの会話が延々描かれている


だけども読んでいて

ノスタルジックな気持ちには全くならない



なんにせよ環境が悪すぎる。



だいぶ違うかもしれないが、私は

松本太洋のマンガ「鉄コン筋クリート」の、地獄の街「宝町」を思い浮かべた


 

 

「宝町」ほどギラギラはしていないけど

強い者が弱い者を当たり前に暴力で虐げる世界



「鉄コン」のシロとクロは

自由に「跳ぶ」ことのできる敵無しのスーパーキッズだったけど



この小説の「おれ」たち子供らは普通の人間で

当たり前のように弱い順番に支配されながら生きている



主人公「おれ」の父親はろくでなしで

仕事も続かない、暴力をふるう


しかも「おれ」にだけ暴力


母親はそれを知ってか、妹だけ自分のそばに置いて

なかば「おれ」一人に父親を押し付けている



ね、クッソでしょダッシュダッシュ



「おれ」はそれでも両親を憎みきれない

憎み方がまだわからないといった感じか


父親に魚釣りに行くぞと言われれば素直に毎回ついていく


だけど、いつかは父親を倒すと決めていて

それで父親とは終わりにするのだと決心している



その潔さが美しくて切ない

 

どうか、本当に憎み方を知る前にここから逃げてほしい

このままここにいたら、きっといつか

「おれ」たちもクソになってしまうだろう



物語の最後、唐突に

ジョンという奇妙な男が登場する


ジョンはふざけながらも子供たちの言い分を聞いてくれて

たこやきも奢ってくれて

「そのまま大人になれよ」的なことを言ってくれる



私からしたら、いまさら

この物語に突然「優しい大人」が出てきても、もはや警戒しかない


いや、このままここで大人になったらヤバいと思うし…

 

ジョンは一体なんなんだろう?


不条理だらけの子供たちの物語の最後に

ちょっとだけ明るい未来を感じさせる役割か…?