「くらやみガールズトーク」
朱野帰子
コレの続きです

「獣の夜」
妊娠し、娘を出産した主人公
日々、自分の体と心がどんどん変容していくのがわかる
住んでいる賃貸マンションの部屋に、時折
以前の住人の忘れ物が出てくる
ちいさな男の子の持つようなおもちゃだ

今のところ自分の人生で、何回か辛すぎる思い出があるんですが
そのうちの一つに、産後一ヶ月の思い出があります
眠れないというのは恐ろしい。
自分が自分ではなくなる。
そして、今まで
「これが私」
「私はこれを欠かせない」
と、思っていた当たり前のことが、次々ぶっ壊されます
お風呂に入る。歯を磨く。食事をする。排泄をする。そして睡眠
生きる基本ルールまで変わる、これはもう私の中身すべてが変わったと言えるでしょう
できなくなったことが増えるだけでなく
やらざるを得ないことが膨大に増えます
私は子の、食べ物であり布団でありトイレであり、命を守る存在のすべてなのだと思いました
それまでの人生で培ってきた知恵も教訓もなにひとつ役に立たない
ただただ毎日、服もろくに着ずに仔を育てる
まさに獣のようだと思いました
子をもって数ヶ月後、
伸びきった髪を切るためにはじめて一人で外出しました
外の世界はいつのまにかかなり長い時間が過ぎていて
私は一人、季節外れの服を着ていました
あらためて、
確実に私はなにか別の生き物に生まれ変わったのだと感じました
いつしか、自分の時間すべてを子に捧げるのが
当たり前の獣に変容していました
この物語の主人公も、変容する
人間からなにか獣のようなものへ
辛いかどうかはもうわからない
それが獣の生き方だから
理由などなく、新しい命を生みだし育てることへの執着だけが自分を動かす
物語の最後に現れる
「謎の子供」は、獣の生存本能が見せた幻なのかもしれない
