おふるなボクたち
中島たい子


 

今よりもちょっと未来の世界で


今よりもちょっと古い時代のモノに吸い寄せられる人たちの短編集


一話め。



「家を盗んだ男」



「プロの泥棒」の男。


どんな高度なセキュリティも盲点を見つけだしやすやすと突破する


私生活も、「仕事」に差し支えないよう

目立たず、決して執着することなく暮らしていた


そんな彼が再会した女性

「プロの泥棒」になる以前の同級生だった



彼女に出会い、真っ当に生きたいと思った彼は

家を持つことを決心する


しかし、過去は思わぬところから追ってきて…




「家」も、「ヒト」も、入れ物のようなもので


「中身」の有り様で良くも悪くも変化する。

「中身」とは、「家」であれば住人だし「ヒト」であれば魂のようなもの



なんていうかだいぶズレるんだけど、


何度か引っ越しをしていますが、たいてい、引っ越した当初は


「なんだか気に入らない住まいだな」

「予想よりも居心地が悪いかもしれない」

となぜか不安になります


たとえ、事前にちゃんと下見して選んだ住まいであっても。



それが、住んでいるうちにどんどん気にならなくなるというか

むしろどんどん好きになってくるという経験が個人的に何度もあります



はじめ、どうしてあんなに不安だったんだろう?


家も立地も、こんなに住みやすいのに。



それって、

はじめて住みはじめたときの肌に馴染まない空気や

住まいによっては、前の住人の微かに残した気配



そんなものが、

住んでいるうちに自分の空気や気配に置き換わるからかなあと

この短編を読んでなんとなく思いました。



ただの慣れ。とか

住めば都。という言葉で片付くハナシですが…




ニンゲンとしてはどうだろう?

人生の序盤、私はずっとなぜかいつも所在ないような気まずさ

いつもどこか恥ずかしく、いらいらした気分でいたように思う


それがここ数年、ほんの少しずつ楽になったというか

少なくとも「自分はここにいていいのか」ということは悩まなくなった



私というニンゲンの「中身」が、

今現在の「私」でだいぶ定着してきたからかと考えるとなんだか納得


それは単純に、オバサンになって図太くなったからよ