ぼくたちはきっとすごい大人になる
有吉玉青
完全に大人ではないけど、完全に子供でもない
邪悪さだけじゃないけど、純粋さだけでもない
全部知っているわけじゃないけど、なにも知らないわけじゃない
そんな「小学生」たちの短編集
一話目。
「イン・ザ・ベイスメント」
四年生のカンナ
最近、三年生までとはどんどん変わって
「男子」と「女子」はぜんぜん違ってきて
そんな周囲、そして自分自身の成長に戸惑っている。
幼稚園からの幼なじみの男子、翔之助
チビでいつまでもガキみたいで、カンナはイライラする。
そんな翔之助が、カンナに「見せたいものがある」と、自宅に誘う

四年生になったカンナは翔之助にイライラしているけど、
今でも内心では翔之助を嫌いなわけじゃなくて
今、カンナは新しい世界のほうが気になっていて
昔のままの、いまだ子供の世界にいるような翔之助がうっとうしいのではないか
これで、翔之助の「見せたいもの」が
とかげのしっぽだったり、綺麗な石だったりしたら
たしかに翔之助は「昔のまま」といえるのだけど…
翔之助の「見せたいもの」そして
それをカンナにだけ見せたいと思った翔之助の気持ちを思うと…
翔之助も、決して成長していないわけではない。
むしろ、子供っぽく振る舞いながら人一倍いろいろなものが見えている子供ではないか
実は世界は、自分に優しいものばかりじゃないってこと
大好きなものだけ集めて、奥底に逃げられたら。
その先のことはなにも考えてなくても。
カンナは翔之助の家で、
体や心の成長を飛び越えて、感覚的になにかを感じとったように思う
帰り道の後ろめたいような戸惑いは、その感覚の正体がわからないせいかもしれない
こうみえても世界を憂いているんだよ