サカマキが新人時代にお世話になったオノウエさんが、社内で「干されて」いるという噂
学閥が幅を利かせる職場で、サカマキ同様に日陰の立場にいたオノウエさん
それでも投げやりにもならず卑屈にもならず有能で後輩にも誠実だったオノウエさん
その噂をきいて複雑な思いに駆られるサカマキ
なんとなくうっとうしい存在の同期シカタ
妙にオノウエさんに固執する女子社員しぎ野
仲良しなわけでもなく、どちらかといえば不協和音な三人が集まり
オノウエさんについて思いを巡らせる
ちゃんと知らないのにいうのもなんだけど、
「ゴドーを待ちながら」みたいな小説だと思った
オノウエさんは一度も出てこない。
サカマキはオノウエさんに自分を重ね合わせているのがシカタ・しぎ野との大きな違いである
部署が変わってからも、オノウエさんをこの会社での指針としていたこと
会社よりも大切なものができたオノウエさんに割りきれない気持ちがあること
仕事なんてただでさえ理不尽なことが多くて、そんな中でまごころのある人に出会うと
流されそうなときに捕まった材木みたく心のよりどころにしてしまう気持ちに共感できる
物理的に離れた後もよりどころにし続けて、悪いことではないけど
相手を記憶の中だけで理想化してしまうこともある
社内から見れば窮地に陥ったオノウエさんの去就
仕事以外にも大切なものを得て、この会社以外の場所へ移って行ったオノウエさん
細かいことはわからないにしても、それを事実として受け入れたとき
サカマキはオノウエさんと記憶の中の理想ではなく対等になれたのだと思う
良い先輩から受けとったものが、
はじめて自分の一部になったのではないだろうか
サカマキはオノウエさんに連絡しようと決め、
腹が据わった様子で後輩の面倒をみるところで話は終わっている
あまりに淡々と話が進んで、何回か読み返して腑に落ちた感じだが
じんわりと読後感が良い小説でした。