角膜移植後、是非やろうと思っていて実現できなかったことがある。

ストレスで発症した角膜ヘルペスも落ち着き(幸い、あれ以来一切出ていない)、以前から考えていたことを実施しよう、と思い主治医に質問してみた。

非常に残念ながら・・・答えはNoだった。

私が行おうとしていたのは、骨髄バンクへのドナー登録である。
自分がドナーからの提供で視力を回復できたので、骨髄バンクに登録し移植を待つ誰かのために役立てれば、という気持ちからだった。
しかし、主治医の答えはNo。
なぜ、その許可が下りなかったのか?

以前、ドナーから提供された硬膜(脳と脊髄を覆う膜のうち、一番外側にあるもの)移植術を受けた患者さんがクロイツフェルトヤコブ病を発症するという医療事故があった。
クロイツフェルトヤコブ病は異常プリオンが中枢神経に沈着することが原因として発症すると言われている認知症を主体とする疾患で、乱暴に例えれば人間版狂牛病、といったところだろうか。

ドナーから硬膜が提供される際に、きちんとドナーの病歴を調べることを怠ったために、異常プリオンを含むものを移植に使ってしまい、交通事故などの頭部外傷で手術を受けた患者さんにクロイツフェルトヤコブ病を感染させてしまったのだった。

角膜移植でもこのクロイツフェルトヤコブ病に感染した、という事例が報告されていた。

もちろん、私が移植を受けた約10年前には、ドナーがクロイツフェルトヤコブ病に罹患していなかったか、何らかのウイルスや細菌感染していないかということはきちんと調べ、大丈夫なドナーからの提供のみになっていたので、こういった疾患に感染している危険性はほとんどない。
しかし、当時の(現在も)医療技術では未知のヒト由来感染症がない、とは言い切れないので、臓器移植を受けた私が他の臓器移植のドナーとなることはもうできない、というのが許可のおりない理由だった。
これはもう、どうしようもない。

骨髄バンクのドナー登録をお考えの方へというページを見ると、ドナー登録を遠慮していただく既往歴として角膜移植も列挙されている。もっとも、このページを見ると健康そのもの、という人でないとドナーにはなれないのだな・・・と思うけれど。

こうして、ドナーからの提供によって視力を回復させたにもかかわらず、自分が他の臓器移植のドナーにはもう絶対になれないことに感じる、一生抱えて生きていく心の痛み。
迂闊にも、移植前にはその情報に辿りつけなかった、術後の予想外の影響だった・・・。