しばらくは1週間に1度、午前中に眼科医院に通院し、午後出勤するという生活を送っていた。
ネバネバ目やにもほとんど出なくなり、移植した角膜のむくみがとれ視力が安定し始めるのに1ヶ月以上掛かったが、状態も落ち着きを見せていた。

しかし、上司が言ったように週に1度の通院を快く思っていない人たちもいた。
とかく、女性の多い職場というのはムズかしい。

移植手術当時、私は某外資系企業に勤務していた。
外資系というのは国内企業と異なる文化を持っていて、誰かが休んでいるときにその人の仕事を他の誰かが積極的に代わりに引き受ける、ということをしないところがある。(日本企業と同じようにカバーし合う外資系企業もある)
欧米では、担当者がバカンスで1ヶ月不在だと「他の者ではわからないから」という理由で、仕事がストップすることもよくあることだ。日本と欧米の考え方・文化の違いで起きることで、どちらがいいか、ということは一概には決められない。

私の当時の勤務先もそうで、雇用契約に決められた仕事をきちんとこなすことが評価され、人の手伝いをする、ということは日本法人でも本国の親会社の勤務査定でも評価されない項目であった。
ドライに、自分の職務を全うしていればよい、という企業文化がそこにはあった。

しかし、日本法人は当然日本人の集団である。
中には、日本的にお互い助け合うのが当然、と考える人もいる。
よく言えば「助け合い」だが、見方を変えれば「自分の仕事を他人に依存する」ことに他ならない考え方にもなりうる。
私の場合、そういう人が同じグループ内にいたのである。

1週間に1度の定期検査の回数をそろそろ減らそうか、と主治医と話し始めた頃。

同じグループにいたある女性同僚が突然こう言い放った。
「ねえ、手術して目良くなったんでしょ?いつまで通院続けるの?!」と。
言葉には明からさまにこちらを非難する響きが含まれていた。

「臓器移植を受けたんですから、通院の頻度は減っていっても一生通院続けるんですけど・・・」と答えた。
すると・・・「はあ?なんで?まだどこか何かおかしいの?!」とさらに非難を含んだ言葉が続く。
これ以上話してもラチがあかないな・・・と思ったので、私はそこで話を止めた。
おそらく、このテの人はガンで入院・手術・退院した人に対しても「手術でガン取ったんでしょ?なんでまだ病院通い続けるの?!」と言うことだろう。手術後に抗ガン剤治療をしたり、定期検査で通院しなければならない、ということには全く思い至らない。
自身が当事者にでもならない限り、全く理解できない人なのだろう、と思う。

この女性同僚は、ヘンなことにこだわる人でもあった。
上司に「この件はここまで。これ以上追求しなくてもよい」と言い渡されても、「でも、私はキチンとやりたいのよね」と言い、シツコく続ける人だったのだ。
冷静に考えれば、上司の言いつけに背いていることになるのだが、こだわりが強すぎて自分の考えがおかしいことに気づけない。
しかも、その自分勝手なこだわりに、他の同僚を平気で巻き込むところもあった。
私に対して「いつまで病院通い続けるの?!」と言ったのも、自分の仕事を手伝って欲しいのに、いつまで病院通い続けるんだよ!という本音が見え隠れしていたのだ。

この頃、実は転職を考え始めていた。
PC作業時間の長さが目に辛かったこと。
定期検査や調子が悪かったときに通院する融通を利かせるには仕事が忙しすぎたこと。
そして・・・上記の女性同僚の無理解に疲れたこと。

これから角膜移植を受けよう、と考えている人はこんな自体に直面する可能性もあることを覚悟していたほうがいいかもしれない。
今はなんともないが、移植手術から1年程は長時間のPC作業はやはり目に辛かった。

自分の置かれた状況をどう改善していくか・・・。
ふとした合間に、考え込む時間が増えていったのだった・・・。