朝食を持ってきてくれた看護師さんが「教授回診は9時からですから、時間になったらこのフロアの診察室に行ってくださいね」と言われる。

テレビドラマなどで大学病院が舞台となった場合、よく教授回診のシーンが登場する。
一番前を教授が歩き、その後ろを助教授・講師・医局の勤務医・研修医がぞろぞろとついていく。
実際に、ドラマのシーンのように「財前教授の回診です!」なんて声出しながらやるのかどうかはわからないが。

眼科の場合、目の表面を拡大して観察する器具が教授の診察にも当然必要なので、教授が待つ診察室に患者が出向くのである。

「こんなにたくさん、入院してたんやな・・・。」と驚くほど、眼科の教授回診の順番を待つ患者さんがいっぱいいた。

私の順番になり、教授に「おはようございます」と挨拶して前に進み出ると、主治医が「昨日僕が執刀した、深部表層移植の患者さんです」と伝え、カルテを渡す。
「ああ、あの患者さんね。どれ、見せてください。うん、今のところ問題ないようですね。キレイに手術されています。」と言われ、なんだかホッとする。

病室に戻ると、看護師さんが「免疫抑制剤と抗生物質の点滴、そろそろ取り替えますね」とやってくる。
看護師さんに何日間点滴をやるのか聞いてみたら、明日いっぱい用心してやりますね、とのこと。

私の受けた深部表層角膜移植は、全層移植に比べると拒絶反応の可能性はかなり低い。
それでも、免疫抑制剤を使用するのは、移植に伴う急性拒絶反応などの発症を用心して、である。
急性拒絶反応とは、移植後24時間以内に発症する超急性のものと、移植から1週間から3ヶ月後くらいで発症する急性のものとがある。
超急性拒絶反応をお越した場合は、免疫抑制剤が効かず、移植臓器を摘出するしかない。
以前、脳死したドナーから肝臓と腎臓の移植手術を受けていた患者が、肝臓移植中に容態が急変し、亡くなった、ということがあった。
おそらく、肝臓の移植に対して急性拒絶反応を発症してしまい、急激に容態が悪化してしまったのだろう。
拒絶反応とは、かくも恐ろしいものなのである。

点滴を取り替えたあとはヒマになった。
目を手術したばかりなので本を読むことなど到底できないので、1週間の入院に備えて持参した、ポータブルCDプレイヤーでCDを聞くことにした。
持っていったCDは、ミスターチルドレンのCD。
「終わりなき旅」を聞きながら、ベッドの上でのんびり過ごしつつ、視界はすこしずつクリアーになっていくのだろうか、とぼんやり考えていた。