眠っている間に不思議な夢を見た。
アメリカの刑務所で男2人が話しているのを、私は聞いている。

「どうせ有罪で死刑判決に決まっている」と、囚人らしい男が言う。
もう一人の弁護士らしい男が「そんなことを言うな、諦めるな」と励ましているところで、目が覚めた。

心臓移植を受けた女性が、それまで好きではなかったアーティスト・食べ物・・・などに術後執着し始めた。
おかしい、と思った女性はもしや、ドナーの好みだったのでは・・・と考えつき、ドナーについて調べ始める。
通常、ドナーがどこの誰か、ということはレシピエント側には一切知らされない。
アメリカでも、日本でもこれは同じだ。
しかし、女性の熱意は遂にドナーが誰だったのか突き止め、ドナーの家族との面会を実現するに至るのである。
術後執着するようになったものはやはり、ドナーが生前好んだものだった。心臓の細胞にも記憶は宿っていたのだろうか・・・?
という話を入院前に読んでいたのをふと思い出した。

もしかしたら、私のドナーはアメリカの弁護士だった男性かもしれないな・・・と思った。

余談だが、私が入院していた大学病院では、国内のアイバンクからの提供だけでなく、アメリカのアイバンクから提供される角膜も移植に使っている。当時、アメリカ国内ではアイバンクに年間約9万眼もの提供があったが、実際に移植に利用されるのはおよそ半分の約4万6千眼、で提供数が必要数を完全に上回っていた。
移植に使われなかっものは若いドクターの手術練習や研究などにも使われていたが、それでもかなりの余裕数があった。
入院先の大学病院眼科教授はアメリカに留学経験があり、その時の人脈を活かして日本国内でなかなか手術を受けられない患者のために、アメリカのアイバンクに協力を要請し、快諾されたのだった。
こうして、アメリカのアイバンクの協力による、事前に日程を予定した角膜移植が実現化することになり、私もその恩恵にあずかることができたのである。

ドナーに思いを馳せていると、手術の時に助手をしていたドクターが「おはよう」と病室に入ってきた。
一晩、左目の上に乗せていた眼帯を外してくれる。
「アルコール含ませた綿棒で目の周り拭いても大丈夫よ。ただし、そ~っとやってね。今日は朝食後に教授回診があるからね」と告げ、他の患者さんの様子を見に行く。

入院初日に売店で買ったアルコール綿棒で目の周りを清潔にするついでに、洗顔の代わりに顔も拭いておこうと思い、鏡を見る。

・・・。
ひどい顔だ。
手術中まばたきができないよう開眼器で固定されていた左目は、まぶたの上下ともにひどい青痣がある。
手術を受けてまだ24時間経過していない目の白目は真っ赤に充血し、目頭・目尻ともに黄色い目やにがびっしりついている。
綿棒でそ~っと目やにを取りながら、「フルラウンド戦って、左目付近にハードパンチ喰らったボクサーって、こんな感じかも」という変な感想が心に湧く。

肝心の見え方は、どうだろうか。
右目を軽く押さえて左目だけで見てみる。
真っ白、な視界だった。
正直、手術前より見え方としては悪い。
保存液に浸されていた角膜はむくんでいたのだろう。
おそらく、私本来の内皮細胞と馴染むにつれて視力が上がってくるのだろうな・・・とぼんやりと考えていたら、朝食の時間になった。
朝食後は教授回診である・・・。