主治医に確認しておいて欲しい、と言われた角膜白濁の原因菌がなんだったのか。

子供の頃、通院していた開業眼科に聞くしかないが、仕事で帰郷する時間が入院までに取れない。

そこで、幼馴染のおばさんに連絡した。
このおばさんは薬剤師をしており、私が掛かり付けにしていた開業眼科医とも仕事上の付き合いがあった。
代わりに聞いてもらうにはうってつけの人である。

連絡すると、私が移植手術をやっと受けられることになったことを心から喜んでくれ、眼科医への確認も快諾してくれた。

1週間ほどのち、この薬剤師のおばさんから連絡が来た。

「聞いてきたんやけど、覚えてないって・・・。」
「そうかぁ~。カルテも残ってないやろうしね・・・。」
「あ、そうやのうて・・・。怒らんと聞いてなぁ・・・。」
「・・・?」
「あんたのこと、覚えてへん、て言い張ったねん、最初。」
「はあ~!?」

そんなアホな話があるだろうか。7歳の夏頃から10年以上通った眼科である。
しかも、大学に合格し上京する際には挨拶にも行き、「東京の大学、合格おめでとう~~」とも言ってくれているのである。
薬剤師のおばさんにそう話すと・・・。

「ウチも覚えない、いうのは嘘や、て思うよ。せやから、粘って突っ込んだねん。」
「なんて・・・?」
「東京の大学病院で角膜移植を受けられることになって、そこのドクターに角膜白濁した原因菌調べて、言われてんねん。
なんとか、思い出してぇな、ってな。」
「そしたら?」
「やっぱり、思い出せんけど・・・角膜ヘルペスではなかったと思う、て言うてはったわ・・・。」
「・・・。」

薬剤師のおばさんの話によると、この開業眼科医が覚えてるのに覚えがないと嘘をついたのは、恐らく、子供の頃の治療に今さらクレームでもつけられ、訴訟などを起こされては困る、と考えてのことらしい。
角膜移植を受けられることになり・・・という説明を薬剤師のおばさんから聞き、訴えられる心配はなくなった、と安心したので角膜ヘルペスではなかった、という解答を出したけれど、最初に覚えてないと言ってしまった手前、今さら思い出しました・・・という演技もできなかったのだろう、とも。

腹の立つ出来事ではある。
10年以上も通った眼医者に、覚えていない、と嘘までつかれたのだから。
しかし、私にとって大切なのはこれから受けようとする角膜移植手術が成功し、移植した角膜が透明な状態をずっと保ち続けることなのだ。
過去に囚われ、イライラするのは実にあほらしい。

主治医が心配したように、もし角膜ヘルペスが原因だったら、移植手術をすることがストレスとなり、再発する危険がある。
ヘルペスになれば、角膜がまた白濁してしまいかねないのだ。
この病気でなかった幸運に感謝しつつ、主治医に報告した。
予定されている、入院・手術はあと1ヶ月と迫っていた。