主治医と出会った眼科医院では日帰り(入院なし)で角膜移植を行なっていた。
日帰りの場合は、手術後、医院の近くのホテルに泊まり、翌朝術後検査をする、という手はずになっていた。
これなら、地方から東京まで移植のために上京する患者さんの経済的負担も軽くすることができる。
術後の定期検査は地元のかかりつけの眼科で行い、異常があれば再度上京して執刀医の診察を受けることもできる。
しかし、主治医は私の移植手術を大学病院で入院させて行う、と決めた。
私が喘息持ちだったからだ。
万一、手術日の夜に手術を受けたことがストレスになって喘息発作などを起こしてしまっては、縫合した角膜にどんな影響がでるかわからない。
入院させていれば、すぐに内科や呼吸器科の医師が対応でき、主治医も駆けつけられる。
予約をいれた日時に、大学病院の受付に紹介状を渡し、診察の順番を待つ。
お決まりの視力検査、眼圧検査から始まり、角膜の形状検査、知覚検査などを行い、現在の左目の状態をくまなく調べる。
厚さわずか0.5ミリの5層構造の角膜の一番奥に角膜内皮細胞がある。
内皮細胞の奥に水晶体があり、この両者の間の空間は白血球の1種である、リンパ球を含む房水に満たされている。
この細胞は角膜全体の水分調節を行う重要な細胞だが、傷ついた場合に自己修復しない細胞である。
つまり、傷ついたら数が減ってしまうのだ。内皮細胞がある一定数より減ってしまうと、水分調節を行うポンプ機能を失ってしまい、水泡性角膜症、という移植の必要な状態に陥ってしまう。
幸い、私の角膜の白濁はこの内皮細胞までは及んでおらず、実質の深い部分で終わっていた。
実質部分の浅いところで白濁が終わっていれば、レーザーで白濁部分を焼き切るという治療もできるが、私の場合は深い位置にあったのでやはり移植しかないだろう、という判断だった。
「深部表層角膜移植、という術式を取ろうと思う」と主治医。
「それは・・・どういう手術ですか?」と聞く私に、主治医が応える。
当時、多く行われていたのは全層角膜移植という術式で、ドナーから提供された角膜を、内皮細胞まで含めて移植する。
この術式だと、リンパ球を含む房水に接することになる内皮細胞がドナーのものに置き換えられるので、拒絶反応を起こす可能性が出てくる。リンパ球は免疫を司る白血球なので、ドナーの内皮細胞を他者と感知し、攻撃を加えてしまうからだ。
全層角膜移植を受けた患者さんのおよそ3割で、拒絶反応が発症する。
一方、深部表層角膜移植の場合、実質の深いところまで白濁した角膜を除去し、ドナーから提供された角膜上皮・実質を移植する。
内皮細胞は移植を受ける側(レシピエント)の生まれ持った細胞のままなので、房水中のリンパ球から攻撃を受けることはない。
この術式の場合、拒絶反応はほとんど起きない、と言われている・・・。
という主治医からの説明を聞き、「拒絶反応が起きにくいならそのほうがいいです」と私も応えた。
「あと・・・子供の頃かかっていた眼科の先生に、白濁の原因になった感染がなんだったか、聞けたら聞いておいて。もし、角膜ヘルペスだったら、移植が引き金になって再発したりしたら大変だからね」と主治医。
主治医が「白濁、見てみる?」と聞いてきたので、見せてもらった。
A4の大きさに、私の左目のドアップが映されている。
黒目のど真ん中が真っ白に白濁し、「確かにこれだと見えるわけがない」と妙に納得してしまった。
黒目の下の方には同じように白いすじ。
「なんだろうね、このすじ・・・。」と主治医。
この時は私もまだ思い出していなかったのだが、あれこそ、目に入った砂粒がつけた傷跡だったのだ・・・。
こうして、主治医と出会った年の秋。
10月に入院と移植手術の予定が組まれたのである。
日帰りの場合は、手術後、医院の近くのホテルに泊まり、翌朝術後検査をする、という手はずになっていた。
これなら、地方から東京まで移植のために上京する患者さんの経済的負担も軽くすることができる。
術後の定期検査は地元のかかりつけの眼科で行い、異常があれば再度上京して執刀医の診察を受けることもできる。
しかし、主治医は私の移植手術を大学病院で入院させて行う、と決めた。
私が喘息持ちだったからだ。
万一、手術日の夜に手術を受けたことがストレスになって喘息発作などを起こしてしまっては、縫合した角膜にどんな影響がでるかわからない。
入院させていれば、すぐに内科や呼吸器科の医師が対応でき、主治医も駆けつけられる。
予約をいれた日時に、大学病院の受付に紹介状を渡し、診察の順番を待つ。
お決まりの視力検査、眼圧検査から始まり、角膜の形状検査、知覚検査などを行い、現在の左目の状態をくまなく調べる。
厚さわずか0.5ミリの5層構造の角膜の一番奥に角膜内皮細胞がある。
内皮細胞の奥に水晶体があり、この両者の間の空間は白血球の1種である、リンパ球を含む房水に満たされている。
この細胞は角膜全体の水分調節を行う重要な細胞だが、傷ついた場合に自己修復しない細胞である。
つまり、傷ついたら数が減ってしまうのだ。内皮細胞がある一定数より減ってしまうと、水分調節を行うポンプ機能を失ってしまい、水泡性角膜症、という移植の必要な状態に陥ってしまう。
幸い、私の角膜の白濁はこの内皮細胞までは及んでおらず、実質の深い部分で終わっていた。
実質部分の浅いところで白濁が終わっていれば、レーザーで白濁部分を焼き切るという治療もできるが、私の場合は深い位置にあったのでやはり移植しかないだろう、という判断だった。
「深部表層角膜移植、という術式を取ろうと思う」と主治医。
「それは・・・どういう手術ですか?」と聞く私に、主治医が応える。
当時、多く行われていたのは全層角膜移植という術式で、ドナーから提供された角膜を、内皮細胞まで含めて移植する。
この術式だと、リンパ球を含む房水に接することになる内皮細胞がドナーのものに置き換えられるので、拒絶反応を起こす可能性が出てくる。リンパ球は免疫を司る白血球なので、ドナーの内皮細胞を他者と感知し、攻撃を加えてしまうからだ。
全層角膜移植を受けた患者さんのおよそ3割で、拒絶反応が発症する。
一方、深部表層角膜移植の場合、実質の深いところまで白濁した角膜を除去し、ドナーから提供された角膜上皮・実質を移植する。
内皮細胞は移植を受ける側(レシピエント)の生まれ持った細胞のままなので、房水中のリンパ球から攻撃を受けることはない。
この術式の場合、拒絶反応はほとんど起きない、と言われている・・・。
という主治医からの説明を聞き、「拒絶反応が起きにくいならそのほうがいいです」と私も応えた。
「あと・・・子供の頃かかっていた眼科の先生に、白濁の原因になった感染がなんだったか、聞けたら聞いておいて。もし、角膜ヘルペスだったら、移植が引き金になって再発したりしたら大変だからね」と主治医。
主治医が「白濁、見てみる?」と聞いてきたので、見せてもらった。
A4の大きさに、私の左目のドアップが映されている。
黒目のど真ん中が真っ白に白濁し、「確かにこれだと見えるわけがない」と妙に納得してしまった。
黒目の下の方には同じように白いすじ。
「なんだろうね、このすじ・・・。」と主治医。
この時は私もまだ思い出していなかったのだが、あれこそ、目に入った砂粒がつけた傷跡だったのだ・・・。
こうして、主治医と出会った年の秋。
10月に入院と移植手術の予定が組まれたのである。