夏休みではなかったが、海に出かけた。

海に向かう車の中で、ビキニを着て海で遊んだOLさんが、出勤日に会社に現れず、不審に思った同僚が訪ねたところ、亡くなっているのが発見された、日焼けをしすぎてショック死していた、というニュースをラジオで聞いたのも覚えている。

車を運転していたおじに、「日焼けってコワイんやね」と従兄弟と一緒に聞き、おじが「火傷と変わらんもん。コワイんやで~」と答えてくれたのも覚えている。

海に、従兄弟とおじと遊びに行った。
私がこの日の出来事を覚えているのは、この車の中、までである。

その海で、砂が目に入り、気にしてこすった。
その際に、角膜に細菌感染を起こしてしまった。

翌日、目が真っ赤に充血していた私を慌てた母がとりあえず家にあった目薬をさし、学校に登校させた。
授業が終わる頃を見計らい、母が学校に迎えに来て、そのまま近所の眼科に向かった。

その時にはもう、左目は真っ赤に充血し、角膜はひどい炎症を起こし、視力は低下してしまっていた。
一夜にして、左目がほとんど見えなくなってしまっていたのである。

実は、私にはこの時の記憶がほとんどない。
従兄弟とおじと海に行った記憶があるのに、そこから先の記憶がない。

想像して欲しい。
目にゴミが入れば相当な痛みを感じると思う。
まして、そのゴミが目の中で動けば相当な痛みのはず、である。

しかし、その記憶がすっぽりと抜けてしまっている。
まだ7歳だった私は、一夜にして目が見えなくなってしまったという恐ろしい記憶を、すっぽり忘れ去ることで自分の心を守ろうとしたのだ、と思う。
無意識に働いた自衛意識。

視力をほぼ失ったきっかけは、今の主治医が移植手術を引き受けてくれることになり、その時に「白斑の原因が角膜ヘルペスじゃないか、確認とれるか?」と聞かれ、父やおじに聞いて確認したのである。
そうでもなければ、一生忘れたままだったかもしれない。

こうして、視力を回復させるための通院治療が始まったのだった。