『月とライオン』


  スーパームーンの日だった。


  真二は福山駅に付いて周りを見回した。広島県東部の中核都市と言われているのに平日の夜は人気があまりない。汗ばんだブルーのストライプのワイシャツの腕を捲り上げて、紺のネクタイを少し緩め喉元にもう5月の夜風を入れてみた。


「少し腹ごしらえするか」


誰に言うでもなく、呟いてみて誰かに聞かれたかしまったと辺りを見回し人が居ないのを確かめてホッとした。

最近、妻は出来たばかりの第二子の長女の世話と家事にあけくれ、たまにベッドに誘っても眠い、疲れた、そればかりでまだまだ若い盛りの男性としては悲しさとやるせなさが混じる。そうかと言ってプロの女性とという気も起きない。出会い系サイトは興味あるもののそこに入ってまでと変なプライドが思い止まらせている。


  駅の近くの焼き肉店で、簡単に食事をすませた。腹はくちた、ビールも飲んだ、後は風呂と……



(そうだなあ、1週間後はロンドンか、日本には半年帰れないな。ロンドンに行く前に今までした事のない事をしてみようか


した事のない事、それはナンパである。なぜかそれはしてはいけない事でレベルの低い人間がする事と上から目線で考えていたからである。


ちょっと不良してやろう、ナンパして妻との間の欲求不満が解消されたら、スッキリとロンドンへ旅立てる。ロンドンはロンドンで何とかなるだろう。


いわゆる優等生で来た真二は会社もそのままである。



駅から東の道を月の光に照らされながらそぞろ歩いて行った。予約してあるビジネスホテルも東だからちょうどいい。同僚達は出張先ではデリヘルを呼ぶなど不潔だなと思う。そんな真二である。デリヘル嬢を呼ぶ事は頭にはない。

   単に欲求の解消だけじゃないんだ。そこに意味のある交わりでないと、などと理由付けしていっている真二がいた。


(なんだ、この街はゴーストタウンなのか??人が歩いてないじゃないか!駅からまだ200mも歩いてないぞ!今夜はこれじゃ獲物はないよな


月を見上げたり、道路に目を落としながら東に向かって歩いた。



すると30mくらい前に髪に月の光が映えている中年女性が歩いているのを見つけた。スタイルも悪くない。こんなところで20代女性を望む方がおかしいとやはり理由付けして、ターゲットに決めた。


なんだろう、この高揚感、生まれて初めて、ドキドキする。

もう、アドレナリンが出てるのかも知れない。



少し足早に近づいていき、その女性を通り越して振り向き、顔も確認した。案外、可愛らしい顔立ちだった。

今度は速度を緩めて彼女が自分に追い付き、横に並んだときに

「ちょっといいですか?私、静岡から来たものです。お一人ですか?」

やはり待ち合わせとかあるといけないので一応尋ねてみた。


続く…