ふくのこと9 | 千葉 市川 行徳 ヘアサロン 野武屋本店 ヘアケア 理容 美容 ブログ

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世界で一番可愛子ちゃんのふくへ



あれから五日が経つよ


事態が急変したのはお前がこの世を去る前日だったよ


もちろんそれまでも数年前から血小板減少症という決して侮れない病気と診断されてからは薬の量を調整しつつ体調は常に一進一退を繰り返してはいた


いや  今考えれば容態は緩やかな右肩下がりだったな

 

そしてあの入院で

↓↓↓

二泊三日の

新たに慢性リンパ性白血病が発覚

抗がん剤治療が始まってからは目に見えて辛そうな時間が増え その様子はすでに緩やかとは言い難いほど悪化の一途を辿っていったんだ


数日前から段差を嫌がり玄関の登り降りすら躊躇する姿は見ていて痛々しかった


それでもなっちゃんお手製の下半身をサポートするためのハーネスを装着さえすれば前脚だけで前へ前へと歩いた


後ろ足に力が入らず自力では歩くことはおろか立ち上がることすら難しくなったのは二日前


そして前日の朝にはその前脚すら全く力が入らずダラリとし身体全体を完全に支えていなければ自分の脚では立っていることすら全くできなくなったんだ

 

その姿は俺にある覚悟を決めさせたよ


チャオの時と同様 どんな状態になろうとも絶対に諦めず毎日散歩に行き必ずやまた歩けるようにしてやる


という決心な


お前ならそれができるはずだ  俺はそう信じた


チャオは超高齢だったから元の大きさはお前とほぼ変わらなかったがその身体は軽かった


なっちゃんでもヒョイと持ち上げられるほどに痩せ細っていた


でもお前は10歳という若さ


ずっしりと重くなっちゃん一人で抱きかかえ外に連れ出すには体重がありすぎる


幸い あの日は集が夜までフリーの日だった


朝一でなっちゃんと二人で病院に連れて行ってくれるということで俺は安心して仕事に向かった


あの日 お前も大好きな理学療法士のマキちゃんの予約が入ってたんだ 


いつも優しく声をかけ優しく撫でてくれたマキちゃんな


彼女は俺となっちゃんの身体のメンテナンスをしにいつもああして我が家を訪問してくれてたんだよ

極度の人見知りのお前がまるで「次はワタシの番よ」と言わんばかりに毎回隣で待つ姿はおかしくもあり実に興味深かった
動物は専門外のはずの彼女は来るたびチャオの身体もこうして触ってくれてたっけね
マキちゃんに触ってもらう時のお前は実に嬉しそうで見ているこっちが恥ずかしくなるくらい身悶えしていたっけ

俺は彼女の髪を切っている最中 事の顛末を全て話し この先しばらくはまたなっちゃんの負担も増えるだろうからしっかりメンテナンスしてやってほしいと強くお願いした

そしてお前の身体もじっくり診てもらうよう別途頼んだんだよ

マキちゃんは深く理解し快く受け止めてくれた

「では 明日お伺いしますね」そう言い残し帰っていったよ





それからほんの数時間後だった






滅多な事では仕事中に電話をかけてこないなっちゃんからの着信だった


その時俺はあの日のラストのお客さんの施術に取り掛かったばかりだった


身体に悪寒が走った


どうか 今夜の晩御飯がどうとか そんなどうでもいい話であって欲しいと願った


でも 一瞬にして生まれその後無理矢理頭引っ込めたはずの悪い予感はまんまと的中した


電話が繋がった瞬間 その声は俺の心と体をバラバラに引き裂いた


大きな声で泣き叫んでいたよ


チャオのときあれだけ冷静に受け止めたあのなっちゃんがだ


まるで少女が駄々をこねているかのような大きな声だった


結婚してから25年間 一度も聞いたことのない大声で電話の向うのなっちゃんは本当に叫んでいたんだ


ありったけの声で叫んでいた


少女どころではないな


何かを言っているのはわかるが全く言葉になっていない狂気にも似た絶叫だった


とても話せる状態ではなかったし俺も何も言葉が出なかった


あの通話はいったいどのくらいの時間だったのか全く思い出せない


とにかく全身の力が抜け

「おいおい 悪い冗談はやめてくれよ」という変に冷めた幼稚な現実逃避の思考が何度も何度も浮かんでは消えた


とても受け答えのできる状態ではないなっちゃんからの電話はある瞬間何の前触れもなく突然一方的に切れた


ここでまた俺は途方に暮れた


思考は完全に停止し今自分はどこにいて何をしている最中だったのかを思い出すのに数秒を要した


施術に戻り一番最初に口から出た言葉は

「犬が死んじゃったんだよ」

だったと記憶している


それを聞いたミホちゃんは言葉を失くした


彼女もまた10年前に愛犬との悲しい別れを経験していた


「のぶさん! 私 このまま終わりでいいから今すぐ帰ってあげて!」


カラーリングのお薬を中途半端に塗られた状態のミホちゃんは真顔で しかも力強く俺に言った


そんなわけにはいかない


だって俺はプロだからね


「のぶさんごめんなさい… こんな時にやってもらうなんて 本当にごめんなさい…」


ミホちゃんは何度も何度も申し訳なさそうに謝った


誰も悪くない ミホちゃんは何も悪くない


でも 出てくる言葉は

「いやいや大丈夫だよ」

だけだった


気の利いた返しは何一つできなかった


こっちが謝りたくなるくらい恐縮するミホちゃんに

「のぶさん どうか気をつけて帰ってくださいね」

と見送られ俺は車に乗り込んだ



家までのことは何も覚えていない


次の記憶はヨガマットの上にいつものように横たわるお前の姿だった

ほーらね やっぱり寝てるだけじゃん


この期に及んで俺の頭の中にはつまらない現実逃避が充満した


俺はお前が目に入り側まで歩み寄りしゃがみその頭を撫でるまで努めてゆっくり静かに動いた


これまでの数日 常にハアハアと苦しそうな呼吸をしていたお前がせっかく静かに眠っているんだから起こしたらいけないと思った


でもお前のことだからきっとすぐに気配に気づきゆっくりと顔を持ち上げ俺を見つめ立ち上がれなくなった身体でもシッポで俺の帰宅を喜ぶ気持ちを表してくれると思った


でも






現実はそうではなかった












ごめん



















つづきはまたにする














 

【野武屋本店】

 

住 所 千葉県市川市湊新田2-1-18-103

電話番号  080-2014-0544

  

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