亡くなる数ヶ月前から具合が悪くなっていたが、
生きとし生けるものすべての摂理なのか、
歩けなくなった途端に、死へ加速していった。
でも、あいちゃんがいたおかげで、
心はずいぶん救われたけど。
そして、その年のクリスマス。
知っている人は知っているが、
毎年、僕は毎年クリスマスにオリジナルのクリスマスストーリーを
作って、友人や知人に送っている。
もう、14~5年になるだろうか。
で、その年に書いた話は、マルの話だった。
もう3年以上も前の話になるし、
クリスマスでもなんでもないけど掲載しよう。
ちょっと長いかもしれないけど、
時間がある人は、つきあってください。
======== maru Smile =====================
マルチーズのマルは、ときどき、後悔することがあります。
それはあいちゃんを生んでしまったことでした。
あいちゃんは、いつもいたずらをします。でも、家の人に怒られるのはマルも一緒です。
あいちゃんは、いつもマルが眠たいときに「遊ぼう!」 と駄々をこねます。
それでいて、じぶんが眠たかったりすれば、マルが誘っても応じ ません。
マルは四匹子犬を生みました。そのうちの一匹があいちゃんです。
他の3匹はマリリンを除いて、名前すらマルは知りません。
もしかしたら、とマルは考えます。もしかしたら他の子どもたちだったら、
こんな思いはしないかもしれない。
もっと、おか あさんである私を大事にしてくれるかもしれないと。
その事件は、クリスマスイブに起きました。
ずっと雨が続いていて散歩にもいけない日々が続いていたため、
マルもあいちゃんもイライラしていました。
そんなこともあって、お父さんやお母さん、
リクが買い物に言っている間にあいちゃんがそのイライラを
爆発させてしまったのです。ごみ箱をひっくりかえして、
座布団も破ってテー ブルに乗り、いろんなものを壊してしまったのです。
「困ったことになったわ」とマルは考え込みました。
「また、怒られてしまう」と。
時間がたち、玄関の開く音がしました。
いつもなら競って迎えにいくのですが、マルは今日は恐くていけません。
でも、ノー天気なあいちゃんはいたずらをしたことも忘れて、
喜びの表情をいっぱいに玄関まで迎えにいったのです。
当然、怒られました。 昭和風に言えば、「こっぴどく」。
もちろん、家の人はどちらがやったのか判らなかったので、
マルも一緒に怒られます。マルは仕方がない、と思いながらも、
何か理不尽な気持ちになっていました。
その日の夜。マルはいつものようにお母さんの布団へ潜り込もうとしたときです。
先に入っていたあいちゃんが、「ウウッ」と威嚇するのです。
さすがのマルもそれを聞いて、堪忍袋は切れました。
すごすごと布団から出たものの、怒りは収まりません。
ちょっと離れた所で丸くなりながらマルは
「今日はクリスマスイブだわ。サンタクロースが願いを叶えてくれる日。
よし、サンタさんにあいちゃんを消してくださいって、お願いしよう。
ついでに、あいちゃんが悪いのに、いつも私を叱るみんなも消えちゃええ」と、
とんでもない願い事を、部屋にあるサンタの人形に向かってお願いしました。
クリスマスの朝。目を覚ましいつものように前足で伸びをしたとき、
いつもと違うことに気づきました。家にあいちゃんの気配がしません。
いや、あいちゃんだけでなく、家の人もいなくなってしまったようです。
マルは思い出しました。昨日の夜、サンタさんに「あいちゃんも
みんなも消えろ」と願ったことを。
サンタさんは、叶えて くれたのでしょうか?
家に残った生き物は、マルと水槽にいる熱帯魚たちだけでした。
マルの自由な時間が始まりました。マルはゆっくりご飯を食べて、
ホットカーペットのスイッチを入れ、そこにごろごろ寝ころびました。
それから牛のツメを思う存分 噛み続け、噛み終わったあともほっぽりっぱなし。
いつもなら、あいちゃんに取られてしまうので、隠さなければいけないのですが、
もう大丈夫。だって、あいちゃんは いないのですから。
その後も、テレビを観たり、部屋の中を走ってみたり、
熱帯魚に話しかけたり、一 匹の時間を楽しみました。
でもだんだん一匹でいることにも飽きてきました。
走っても楽しくないし、熱帯魚たちは言葉が判りません。
退屈なので、マルは眠ることにしました。
マルは夢を見ています。それはマルがペットショップで
売れ残っていた頃の夢でした。ペットショップでの暮らしは、
昼間はいろんな人たちが、ガラス越しに「かわいい」と
笑ってくれていたので楽しかったのですが、夜は嫌いでした。
電気が消えて誰も人がいなくなり、
他の犬や猫たちの寝息しか聞こえない時間が嫌いでした。
また、夜になると、意地の悪い猫が囁きます。
「ねえ、マル、知ってる。この檻からでるときは、
食べられちゃうんだって。
みんな私たちをガラス越しに見ていつも言ってるでしょう。
(まあ、おいしそうなワンちゃん)とか(うまそうな、猫だなあ)って。
この前売れた柴君は今頃はきっと…」そんなささやきに
マルは「みんな、(かわいい)って言っ てくれているわよ」と反論します。
すると猫ははケケケと笑って「バカね。あれはおいしそうって意味なのよ。
そんなことも知らなかったの」「でも、みんな食べられちゃうなら、
どうして毛を切ったり洗いにきたり、おしゃれをするの?」と
マルはまたまた反論します。「あれはね、食べやすいように毛をきったり、
おいしく食べるために洗ったりしてるの。マルは世間知らずなんだから」
夢はそこで覚めました。思い出したくない昔のことを
夢で見てしまったマルは、それを忘れるために
「うぉぉぉぉ」と吠えました。
食べられるとは今では信じていませんが、急に寂しくなりました。
夜になって暗くなった部屋は、檻がないにせよ
あの頃のことを思い出させます。
食べられるんじゃないかと、怯えていた日々。
このまま朝が来ないかもと考えた夜。
昔なじみが売れて、去っていったときの寂しさを、
一匹になって思い出したのです。
そして「あいちゃんを消してくれ」とサンタさんに
お願いしたことを後悔しました。
マルにはあいちゃんが必要です。唸ったり、悪さをするけれど
マルはあいちゃんがいてくれた方がいいと思いました。
そして、今日はまだクリスマスだから間に合うかもしれないと、
「あいちゃんを、返してください」とお願いしたのです。
「うぉお おお~ん」と、声を上げて。
マルは願いが叶うまで、ずっと声をあげつづけるつもり でした。
疲れて、知らないうちに眠ってしまったマルは、
掃除機の音で目を覚ましました。
机の下を見ると、あいちゃんが神妙な顔でうずくまっています。
これは、あいちゃんが怒られたときのいつもの姿です。
その周りで、リクやお母さんが散らかったゴミを 片付けています。
マルは考えます。
これって昨日と同じ?あれは夢?とマルが不思議に思っていると、
部屋の隅にある サンタの人形が小さく咳払いをしたのです。
その音は掃除機にかき消されマルにしか聞こえませんでした。
そして、サンタさんの人形を見上げると、
その人形はマルにウィンクをしたのです。
それを見て、マルはすべてを悟ったのです。
サンタクロースが、マルの願いを叶えてくれたことを…。
クリスマスイブの夜、マルは牛のツメを無心に
噛んでいるあいちゃんを微笑みながら見つめています。
いたずらっ子でも、わがままでも、許してあげなくてはと思いな がら。
だって、あいちゃんは、今マルのそばにいる、
たった一匹残った子ども、そしてかけがえのない家族なのですから。
MERRY CHRISTMAS 2006
