群馬県立歴史博物館で開催されている「すばらしき群馬の埴輪」展ならびに「縄文の技~千網谷戸遺跡・耳飾の世界~」展を見た。古墳時代の埴輪と縄文時代の耳飾、共通点はないように思えるが、意外な共通点があった。それは、卓越した技術力と芸術性だ。

 

 まず、塚廻4号墳から出土した「跪座の男子」をみてみよう。両足を爪立てて正座した姿勢から両手をそろえて前でつき、顔を少しあげ、うやうやしく見上げたポーズの男子像である。振り分け髪の毛は線刻で一本ずつ表され、接地した両手には力がみなぎる。さらに注目されるのは腰に下げた刀子だ。把頭は鹿角製だろうか、段がある。刀身が入ってやや膨らんだ鞘は、周囲の紐綴じの跡まで丁寧に表現されている。

 次に大刀をもつ女子像をみてみよう。右手に大刀を持ち、左手は腹あたりに置く正装した女子像である。耳環や首飾りなどの装飾品が丁寧に、詳細に作られている。さらに卓越しているのは、左手の表現である。各指先を細く、丁寧かつ写実につくっている。ほっそりとした指先には色気さえ感じられる。

 最後に装飾馬具をつけた馬形埴輪をみてみよう。顔は単なる円筒ではなく、くりぬかれた目のまわりを少し盛り上げ、立体感がある。口にはf字形鏡板付き轡をはむが、鏡板の周囲には帯状の粘土と鋲が付けられ、実物の鏡板をよく観察し、写されている。

 鞍の凹凸、手綱の重なり、尻がいの円形辻金具、五鈴の鈴杏葉の表現など、きわめて立体的、かつ写実的に作られている。これらを見ただけでも塚廻4号墳出土の形象埴輪は、丁寧さ、写実性、そして芸術性において抜きんでた存在であることがわかる。

一方、千網谷戸遺跡出土の耳飾はどうだろうか。こちらは、耳につける装身具で、縄文時代晩期につくられた。大型でみごとな透かし彫りによって渦巻き形などの複雑で美しい文様がつけられている。おそらく粘土塊からヘラ状の工具によって耳飾の形と文様を削り出していったと思われるが、適切な粘土の乾燥状態を見極め、その上細かく、かつ丁寧に文様を削り出した制作者の技術力には、敬服する。

 塚廻4号墳出土の形象埴輪、千網谷戸遺跡出土の耳飾、制作された年代は違えども、共に東毛地区の遺跡から出土し、技術力、芸術性双方ともに同時期の他の遺物を圧倒している。両者が共にみられる貴重な機会をつくってくれた群馬県立博物館の関係者に深く感謝いたしたい。