光る君へ第24回あらすじ&感想後編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第24話「忘れえぬ人」後編




その日のうちに

定子は職御曹司に入った。


職御曹司は内裏の東に

隣接していた。


僅かな距離ではあったが

天皇が職御曹司へ行くには

いちいち輿に乗らねば

ならなかった。


だが、帝にとっては

定子に会えるならば

そんなことは、

些細なことだ。


「会いたかったぞ、定子…」


「お上…」


赤子を抱いた定子が

帝を迎え入れる。


帝はゆっくりと赤子に

近づく。


「脩子にございます」


赤子を抱いた帝は

満面の笑みを浮かべた。


「脩子…父であるぞ」


赤子はニコリと笑う。


「愛らしいのう。

中宮によく似ておる」


「お上にも」


「よく生まれてきてくれた。

もうさみしい思いはさせぬ。

健やかに育てよ」


近くで控えるききょうにも

帝は声をかける。


「少納言」


「はっ」


「中宮が世話になった」


「もったいなきお言葉に

ございます」


苦難の日々を思うと、

ききょうも涙ぐむ。


この出来事が帝にとって

我が子のためにも、

定子のためにも政に

邁進せねば…と、

なってくれたらよかったのだが…


この日から一条天皇は

政務もなおざりで

連日、定子のもとに

通い続けた。



愛を交わす2人であるが

当然ながら宮中の女たちは

快い思いはしない。


「どの面下げて戻ってきたの?」


「自ら髪を下ろしたくせに」


「ずうずうしい、ずうずうしい」



「やり手でおいでだ、帝も」


「前代未聞、空前絶後、

世にためしなし!」


実資などは怒りを隠そうとも

しなかった。



越前国内の巡察から

為時が帰ってきた。


「お帰りなさいませ」


「うん、今戻った。

はあ…そなたのおかげで

さきの介からも話を聞けた。

ありがたいことだ」


大野国勝が


「国守様がどうしてもと

仰せなので致し方なく

取り計らいました」


と言うと為時もにこやかに答える。


「氣比宮の宮司も

親切であったな」


「あれは官位が欲しくて

こびを売っていただけに

ございます」


「そうなのか…」


源光雅は謹慎中であるが

大野国勝とはすっかり

打ち解けたようだ。


「大掾様、父がお世話になりました」


「私は越前の生まれですので

当然にございます」


「すっかり打ち解けられて

ようございました」


「うむ」


「国守様。

こちらを」


溜まっていた文を差し出す。


「うむ」


「それでは失礼いたします」


為時は文を手にとった。


「お前にだ」


まひろ宛の文があり、

為時はそれを渡す。


まひろはその文を開いたが…


「はっ…」


つい、声をあげた。


「いかがいたした?」


「さわさんが、

亡くなられたそうでございます」


為時の顔が曇る。


文にはさわからの歌が

添えられていた。


「ゆきめぐり

あふをまつらのかがみには

たれをかけつついのるとかしる」


つい先頃は結婚した、と

報告の文が来ていたのに…


だが、この時代は病にかかれば

治す手段にも乏しく

長生きできるかは運次第でもあった。


「お前にまた会いたいと

思いながら亡くなったのだな…」


為時にとっても、

愛した女性の忘れ形見で

あっただけに胸が痛む。


「この歌を大切にします」



力を落としたまひろは、


「都に戻って宣孝様の妻に

なろうかと思います」


と父に告げた。


「うん…ん?

い…今、何と申した?」


「さわさんのことを知って

ますます生きているのも

むなしい気分で…」


「うん、むなしい気持ちは

よう分かるが、

それで何故宣孝殿の妻になるのだ?」


「先日、宣孝様が妻になれと

仰せになりました」


「なんと!うう…」


振り向いた為時の腰が

鈍い音を立てた。


「どうなさいました?」


「ああ…腰が…」


「父上、あっ!」



為時はぐったりと横たわる。


「ああ…」


「はい」


「宣孝殿はわしの大事な友だが

いくら何でもお前とは

釣り合わぬ。

何を錯乱したのであろうか」


普通に考えたらそれはそうだろう。


「私も驚きました」


まひろは為時の腰を揉む。


「都に帰って婿を取るなら

それもよい。

わしも国守となったゆえ

以前よりはよい婿も

来るやもしれぬ。

されど宣孝殿は…」


友に娘をくれてやる、

など為時からしてみたら

想像もつかない話だ。


「父上が不承知なら

やめておきます」


「いやいや、不承知とまでは

言うておらぬが

あいつは年寄りながら

いまだに女にマメゆえ

お前がつらい思いを

するやもしれぬぞ」


宣孝が女にモテることは

為時も知っていた。


年の差以上にそれも

心配なのだ。


「されど私ももうよい年ですし…」


「まあそれはそうであるが…」


「宣孝様は仰せになったのです。

ありのままのお前を丸ごと

引き受ける。

それができるのはわしだけだ。

さすればお前も楽になろうと」


「うまいことを言いおって」


「そのお言葉が少しばかり

胸にしみました。

思えば道長様とは向かい合い過ぎて

求め合いすぎて

苦しゅうございました。

いとおしすぎると嫉妬も

してしまいます。

されど宣孝様だと

恐らくそれはなく楽に暮らせるかと」


それもさんざんな言われようだが、

気楽でいられるのは事実だろう。


「幼い頃から知っておるからな、

あいつは」


「誰かの妻になることを

大真面目に考えない方が

よいのではと

このごろ思うのです」


「え?」


「子供も産んでみとう

ございますし」


「いたたたた…」


悲鳴をあげる為時。


「殿様、松原客館から

宋の薬師が到着いたしました」



【国守様、周明の師が来ました】


周明は先日のことを気にしてか

今日はきていないようだ。


「周明殿の先生だそうで

ございます」


説明しながらもまひろは


【周明殿は?】


と尋ねる。


【生まれ故郷を見たいと

出ていきました】


と朱は答えた。


生まれ故郷…といっても、

家族もいないのに…


【早速療治を】



為時の腰の治療が終わると

朱は腹を割って為時と

話し込んでいた。


【日本との交易が

認められないなら

我々は帰らない。

我々が帰らなければ

二度と博多の津に船は着かない】


これまでと違い、

頑なな態度の朱を為時は見る。


「二度と船が着かない…。

なぜだ?」


【なぜ船は来ない?】


まひろが宋語で質問する。


朱は宋語で答える。


「望みは宋と日本との交易だと…」


「それは無理だ」


朱は怒った様子で

宋語で何かをまくし立てた。


【宋の品が入ってこない】


「それは脅しか」


為時が寂しそうに尋ねる。


朱はこたえなかった。



館に戻ると朱は周明と

語らっていた。


【お前はここを出て行ったと

言っておいた】


元気そうな周明をみると

とくにお咎めなどは

なかったのだろう。


「シェシェ」


【本当にそれでよかったのか?】


朱は気遣うように尋ねる。


【入りこめませんでした。

あの女の心に】


朱は周明を叱るでもなく、

むしろ彼を見て微笑んだ。


「ヂョウミン」


【お前の心の中からは

消え去るとよいな】


朱には分かっていたのだ。


周明がまひろのことを

本気で好きになって

しまっていたことが。


【はい】


周明が見上げると

カモメが一羽飛んでいった。



「宋と脅しに屈してはならぬ。

彼らが今越前に持ってきている唐物を

朝廷でことごとく買ってやればよい。

さすれば諦めて帰るであろう」


帝は簡単にそう道長に述べる。


「恐れながら朝廷に

そのようなゆとりは

ございませぬ」


「ならば公の交易を始めたらよい」


宋の脅しに屈するな、

と言いつつもあっさりと

前言を翻してしまう。


それには理由もあった。


「太宰府では藤原が交易の

うまみを独り占めしておるゆえ

越前を朝廷の商いの場と

すればよい」


藤原の独占に対して

帝はだんだんといらだちを

募らせているのだ。


「恐れながらそれは

危のうございます。

越前と都は近うございます。

万が一、宋の軍が越前に押し寄せ

都に攻め上りでもしたならば

ひとたまりもありませぬ」


帝もそれは一理あるか…と

考えこむ。


「宋との正式な商いとなれば

彼の国は我らを属国として

扱いましょう。

そのようなことこそ、

断じて許してはならぬと

存じます」


帝は改めて座った。


「分かった。

この件は左大臣の思うようにいたせ」


「はっ」


だが、帝はさらに

道長に願いを託した。


「越前の唐物の中に

おしろいと唐扇があれば

中宮のために求めたい。

それだけは差し出させよ」


結局、交易をせよ、

などと言ったのも定子のため、

なのだ…


道長は


「承知つかまつりました」


と答えたがそんな帝に

危ういものを感じている。



為時は文を見てため息をついた。


「左大臣様は何と?」


「このまま様子を見て

時を稼げと仰せだ」


「はあ…」


国勝もため息をつく。



まひろは宣孝からの文を

手に開いていた。


「早く都に帰ってまいれ」


宣孝のあの明るい声が

聴こえるような気がして

まひろは笑った。


「フフフ…」


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結局、定子は職御曹司に

住まうことになったのだが、

職御曹司は普通は

中宮の世話をする者が

待機する場所となったり、

穢れが発生したときに

帝や中宮が避難的に

使う場所でもあった。


扱いとしてはこれまでの

中宮の立場を考えると、

決して良いものでもないのだが

なにせ職御曹司は、

内裏のすぐ隣にあるために

体裁にさえこだわらねば

帝にとっても定子にとっても

都合のよい場所ではある。


とはいえ帝が残念だったのは、

聡明であるにも関わらず

昔から詮子が心配していたように

さらに定子一辺倒に傾いてしまい

政務さえ疎かになってしまった

ことであろう…


斉信の立ち回りに騙されて

しまった感もあるのだが、

道長は必要以上に厳しい処分を

中関白家に対して行ってしまった。


そのときは帝も頭に血がのぼり、

むしろ道長以上に積極的な

処罰に傾いてしまったのだが…


結局は隆家は少なくとも

院の命までは狙っていないこと、

また詮子や道長への呪詛は

噂にすぎなかったことが

帝に伝わったことで、

帝は道長への信用を

落としてしまってもいる。


そして引き離された期間が

長かったぶん、

帝の定子への想いはもはや

止められないくらいに

大きなものとなってしまった。



さわの死は残念である。


さわ、というキャラ自体は

オリジナルのようだが

モデルとなったのは筑紫の君、

のという紫式部の友人とのことだ。


筑紫の君も紫式部に会いたい、

と手紙を送りながらも

会えないまま肥前国で

亡くなっていたことからも

こうしたエピソードを

盛り込んだのだろう。


なぜ、亡くなったのか?


というのはよくわからないが、

この時代の医療というのは

外科手術もほとんどなければ

抗生剤などもない。


たとえ若くても、

病気になってしまうと

治せる手段に乏しかった。


道長の周りの貴族たちは

それでも長生きも多いけれど

兄の道隆や道兼などは

30〜40代で亡くなっているし

さわも20代後半としても、

現代の年齢とは

感覚が違うので、

その若さで亡くなってしまうことは

充分にあり得た。


また、こういう状況であるからこそ

同じく20代後半あたりであろう

まひろが宣孝との結婚に、

より心が傾くことも無理はない、

ということはわかる。


あの元気なさわが死んでしまう

わけなのだから、

自分だっていつ突然、

そうなるかはわからない。


未婚のままでいるよりも、

子供も産んでみたい、

何より道長との時のような

苦しい恋愛ではなくて

癒やされる関係の夫がほしい。


そう思うこともまた、

時代背景を思えば自然な

ことでもあるのだ。



ま、とはいえ父の為時からすれば

腰を痛めるほどに驚くのも

無理はないのだが…


しかし宣孝に対しては

半分呆れながらも、

為時自身がそのことに

積極的に反対、とまでは

言っていないのもわかる。


やはり現代とは違うのだから

年の差が離れた結婚も、

そんなにおかしなことでは

なかったのだろうし、

人となりを知っている宣孝なら

道長のような超権力者だけれど

よく知らない若者よりは、

親としたら安心…という

思いもあったのだろう。


通説では宣孝のほうが

しつこすぎて紫式部は

乗り気ではなかった、とも

言われているのだが、

その真相などはよくわからない。


そもそも道長との恋愛も、

ドラマのフィクションの一部だし

若くて才能があるうえに

高貴な生まれで対等に

付き合うことが難しい道長と、

もはや初老に入っているが

頼りがいもあって

心を開きやすいラクな宣孝、

という対比は面白いと思う。



朱と周明の関係はとても良かった。


下手をすると周明は、

処分されてしまうのでは?


と心配だったのだが…


朱という人物もあくまでも、

宋の国からの命があるからこそ

時には強く振る舞っているだけで

一人の人間としては、

若い周明の思いにも気遣いを

見せてやれるだけの、

大人の男性だったということだ。


周明の出自を考えたとき、

お前は何か大きな功績を

残さないとみんなに認めて

もらえないぞ…


というのは事実だったのだろう。


だからこそ左大臣の女かも?


と、見ているまひろに取り入ることを

周明に命じはしたものの、

おそらくはまひろのことを

本気で好きになってしまって

いるであろう周明にとって

その任務が辛いものであることは

朱には、わかっていた。


その辛さを乗り越えてこそ、

評価できたのかもしれないが

失敗してしまったなら、

してしまったでもいいではないか、

と思ってやれるだけの度量が

朱にはあった。


宋の国自体が良いところなのかは

わからないにせよ、

朱という人物そのものは

決して悪人なわけではなかった。



越前編は短い話に

なりそうなのだが、


「完全な善人もいないが

完全な悪人もいない」


ということを意識して

描いていたと思う。



宣孝もそうなのだが、

朱という人もまた、

仕事のうえでは厳しい顔を

使い分けながらも

迷える若者の心への理解のある

素敵な男の一人だった。