光る君へ第24回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第24話「忘れえぬ人」前編




長徳三(997)年。


まひろは唐突に宣孝から

妻になれ、と告げられて

驚きを受けていた。


「戯れではない」


「では何でございますか?」


なにせ幼い頃から、

父の友人として家に来ていた

身近な存在であって、

異性として意識する

相手ではなかったのだ。


「あの宋人と海を渡ってみたとて

忘れえぬ人からは逃げられまい」


「何を仰せなのか分かりませぬ」


「とぼけても顔に出ておる」


「何が顔に出ておりますか?」


まひろは突っかかるように聞いた。


「忘れえぬ人と言われて

途端に心が揺らいだ。

そうであろう?」


「いいかげんなことを」


まひろは目を反らした。


「都人は心の内を顔には

出さぬがお前はいつも出ておる」


まひろは怒ったように尋ねる。


「それは私が愚かだということで

ございますね」


「愚かなところが笑えてよい」


と、宣孝は否定しない。


「わしの心も和む」


一瞬、沈黙が流れる。


「宣孝様は分かっておられませぬ。

私は誰かを安心させたり

和ませたりする者では

ありませぬ」


「自分が思っている自分だけが

自分ではないぞ」


その言葉はまひろの胸を打った。


「ありのままのお前を

丸ごと引き受ける。

それができるのはわしだけだ。

さすればお前も楽になろう」


まひろは少し呆れたように


「忘れえぬ人がいても

よろしいのですか?」


と聞いた。


「よい」


まひろの言葉が終わらぬうちに

宣孝は肯定した。


「それもお前の一部だ。

丸ごと引き受けるとは

そういうことだ。

都で待っておる」


笑顔をみせると


「道中、楽しみに食そう」


いつものように去っていく宣孝。


まひろは戸惑いながら、

見慣れたその背中を

見送った。



「自分が思う自分だけが

自分ではない…」


宣孝に言われた言葉を

まひろはつぶやいてみた。


「まひろ様、

周明殿がお見えにございます」



「戻ってきたのね」


周明はいつになく寂しそうだ。


「どうしたの?」


「俺は今、宋人でもなければ

日本人でもない」


「居場所がないの?」


まひろは隣に座った。


「ああ…。宋人は他国の者を

信用しない」


まひろの心に付け入るために

寂しい自分を演じている周明だが

その言葉には幾分、

本当の思いも含まれている。


信用されないから、

こうして国守の娘に

取り入れるか?と

試されているのだから。


「周明は日本人であったことを

隠していたわけではなく

宋人として生きようと

していたのでしょ」


「分かってくれるのは

まひろだけだ」


いつもと違う様子の周明を

思わず見つめるまひろ。


「朝廷が交易を許せば

皆の心も穏やかになる」


「朝廷はたやすくは

考えを変えないと思うけど…。

でもなぜ宋との正式な貿易を

嫌がるのかしら。

私はもっと宋ののとを

知りたいのに」


「宋の国を見たいか?」


「ええ、見たい」


「望みを果たし帰る時が来たら

一緒に宋に行こう」


つい先ごろ、

宣孝から都に来い、

妻になれと言われたばかりなのに

今度は周明から宋に行こう、

と誘われている…


「そのためにはもっともっと

宋の言葉を学ばねば」


周明は微笑んだ。


「あ…」


「フフ…」


まひろもにこりと笑った。



まひろは夜になっても

宋語を書いている。


筆を止めると、

ふと外に出てみた。


月が雲に隠れて小さく

見えている。


道長様には私は

どう見えていたんだろう…。


宣孝の言葉がどうしても

頭から離れないのだった。




同じ頃、道長も月を眺めに

外へ出ていた。


都から見た月は、

大きく半分が欠けている。


「殿」


と、倫子が声をかけてきた。


「ん?」


「女院様が殿をお呼びで

ございます」



詮子は病に臥せっていた。


前回とは違い今度は本当の

病のようである。


「姉上…」


「道長…道長」


詮子は弱々しく声をあげる。


「今、伊周がそこに立って…

恐ろしい形相で私をにらんでいたの」


「姉上…晴明に邪気ばらいを

させますゆえご安心ください」


「伊周に殺される…

苦しい…息が…」


伊周を追い詰めたのは

詮子の策略…とはいえ

罪悪感からか詮子は

心身を壊していた。



安倍晴明が祭文を読み上げながら

邪気ばらいを始めるのを、

道長は見つめている。


「うう…」


という詮子のうめき声が

聴こえてきた。


倫子は不安げに道長を見る。



一条天皇は


「女院様の病をお治しするべく

大赦の詔を下す」


と告げた。


「はっ」


「常の恩赦では赦免しない者も

ことごとく赦免する。

伊周、隆家を都に召還すべきかどうかに

ついては皆の考えを聞きたい」


皆、押し黙る。


「直ちに陣定を開き

大赦の後、伊周と隆家を

都に召還すべきか論議いたしまする」


道長は答えた。



さっそく陣定が始まる。


「罪をゆるすべきことは

明らかであるが、

召還については勅定による

べきである」


と、源俊賢が述べた。


斉信は


「両人の罪はゆるすべきだが

召還については明法家に

勘申させるべきである」


と慎重だ。


続く公任は


「罪はゆるすべきであるが

なお本処にとどめるべきである」


と言った。


学識高い実資は


「罪をゆるすべきことは

明らかであるが

召還については先例を

調べるべきである」


あくまで先例にこだわっている。


道綱は…


「あ…同じです」


と同調した。


藤原公季も同様に


「罪はゆるすべきであるが

召還については先例を尋ねる

べきである」


と同意する。


顕光は


「両人の罪はゆるすべきだが

召還については勘申させるべきである」


と述べる。これもつまり

先例を調べよ、ということだ。


「うむ。皆の考え、これより

帝にお伝えしよう」



道長は帝に皆の言葉を伝える。


「そなたの意見はないのか?」


「お上のお心と同じに

ございます」


「太宰権師藤原伊周、

出雲権守藤原隆家の罪をゆるし

速やかに召還せよ」


「はっ」


帝は後悔していた。


「朕が愚かであった。

冷静さを欠き伊周、隆家、

そして中宮を追い詰めて

しまったこと

今は悔いておる」


道長は黙っている。


「あの時、そなたに

止めてほしかった」


帝の声は怒りをはらんでいる。


「後に聞けば伊周が

その方と母上を呪詛したというのは

うわさにすぎず

矢も院に射かけたものではなく

車に当たっただけであったと

いうではないか。

その方は知っておったのか?」


道長は黙っている。


「知っておったのか?」


「そもそもは院が何者かに

射かけられたとのことで

ございました」


「大赦のこと速やかに行え」


「はっ」


いつになく帝は厳しく

道長に命じた。



道長は明子のもとに向かうと、

あの夜のことを思い出していた。


「俺は斉信にしてやられたの

かもしれぬ」


「え?」


「あの夜あいつははっきりと

言ったのだ。

先ほど一条第で院が何者かに

射かけられたと」


道長は疲れたように

明子の膝枕に頭を乗せる。


「う〜ん…」


ため息をつく。


「院のお体を狙うのと

御車を狙うのでは

罪の重さが全く違う。

それなのにあいつは…」


珍しく道長は友のことで

ぼやいていた。


「確かに伊周の席が空いたことで

斉信が公卿となった。

人はそこまでして上を

目指すものなのか…」


出世欲に乏しいままで

上に立ってしまった道長には

よくわからないのだ。


斉信は出世を望んだが、

彼のこともちゃんと考えるが

もう少し待ってくれ、と

道長は伝えたものだが

斉信は待てなかった。


「人を見抜く力をおつけになって

すばらしいことにございます」


明子は褒めてやった。


「幼い頃からのなじみなのに

俺はあいつのことを

分かっていなかった。

斉信が上手であった〜」


扇子で道長は額を叩く。


道長が偉いのはそれでも

決して斉信を恨んだりは

していないことだろう。


「上に立つ者の周りは

敵なのです。

父の高明はよい人すぎて

やられてしまいましたもの」


明子の言葉には実体験が

こめられている。


「斉信に限らず誰をも

味方にできるような器がなければ

やってゆけぬな」


恨みを糧に生きてきた

明子は


「殿らしいお考えだこと」


そう言うと微笑んだ。



「隆家が帰ってきたそうではないか。

出雲から空でも飛んできたのか?

普通なら20日はかかろう」


顕光が苦い顔をする。


「不可解なり」


実資がぼそりと言う。


顕光も道綱も


「不可解なり」


と声を揃えた。



隆家はさっそく

道長に挨拶にきていた。


「出雲の土産に干しシジミを

どっさり持ってまいりました。

酒のあとによいのです。

酒、飲まれますよね?」


その表情は明るく、

流罪にされていた恨みなど

まったくないようだ。


「うむ」


「だまされたと思って

これを煎じるかそのまま

食べてください。

是非とも」


「伊周ももう太宰府を

たったであろうか」


道長は尋ねるも意外にも

隆家は淡々と


「兄のことは知りませぬ」


と答える。


「私と兄は違います。

兄は恨みをためる。

私は過ぎたことは忘れる。

左大臣様のお役に立てるのは

私にございます」


微笑みながら語る隆家。


「あの時、院の御車を射たのは

お前か?伊周か?」


「矢を放ったのは私です。

兄はビクビクしておりました。

されどとんでもない大ごとに

なってしまって、

驚きましたよあの時は」


まったく悪びれる様子もなく

屈託ない笑顔を見せる隆家…。


「院を狙ったのではない

御車を狙ったのだと

なぜあの時申し開きしなかったのだ」


「何を言っても信じて

いただけそうにありません

でしたからね。

ハハハ…」


隆家はそう言って笑う。


「ほう…」


道長は感心していた。


隆家は自分にそこまでの

非はないと分かっていたのに

わざわざ罪をかぶったのだ…


と、同時に隆家から見た時

道長という人は、

申し開きをしても

聞いてもらえそうにない、

という印象でもあったのだろう。


「シジミ、是非試してごらん

ください」


「うむ」



【私は子供の頃よく

嘘をつきました】


【嘘?】


【ありもしない物語を

作って話しました】


【とんでもない子供だな】


【はい、とんでもない子供でした】


まひろは宋語ですらすらと

周明と会話している。


【今もとんでもない大人かも

しれません】


周明は吹き出す。


「大人(ダーレン)だ。

まひろは今、打人(ダーレン)と

言った。

それではとんでもない大人ではなく

とんでもなく殴ることに

なってるぞ」


2人は笑う。


「ダーレン…」


周明は真顔になって訴える。


「早くまひろと宋に行きたい」


まひろは周明を見つめ、

周明はそっとまひろを

抱きしめた。


「このままではいつまでたっても

宋には行けない。

左大臣に手紙を書いてくれ」


その言葉を聞き、

まひろはさっと身を離した。


「2人で宋に行くためだ」


と周明は髪を撫でる。


そして口づけようとしたが

まひろはそれを手で遮った。


「あなたはうそをついている。

私を好いてなぞいない」


まひろは周明の目を見つめながら

確認するように言った。


それでも周明はまひろを

もう一度抱きしめる。


「好いている」


「抱き締められると分かる」


まひろは再び周明を拒絶した。


「あなたは違うことを考えている。

私を利用するために。

そうでしょう?」


賢いまひろは気付いてしまったのだ。


周明は立ち上がると、

陶器を床に叩きつける。


そして床に散らばった、

鋭い破片を手にした。


それをまひろの首元に

差し向ける。


「来い」



周明はまひろに無理やり

左大臣…道長への文を

書くように要求する。


「書け。

左大臣に文を書け。

左大臣が決意すれば

公の貿易がかなうのだ。

書け」


「書きません」


「書かねば切る」


「書きません。

書いたとて左大臣様は

私の文ごときでお考えを

変える方ではありません」


頑なに拒否するまひろに

周明は


「書け!」


と叫ぶが


「書きません」


まひろはさらに拒んだ。


「書かねば…お前を殺して

俺も死ぬ」


まひろは周明を見た。


「死という言葉をみだりに

使わないで。

私は母が目の前で殺されるのを見た。

友も虫けらのように殺された。

周明だって海に捨てられて

命の瀬戸際を生き抜いたのでしょう?

気安く死ぬなど言わないで!」


まひろを脅していたはずの

周明のほうがいつの間にか

叱りつけられていた。


「言っておくが宋は

お前が夢に描いているような

国ではない。

宋は日本を見下している。

日本人なぞ歯牙にもかけておらぬ。

民に等しく機会を与える国など

この世のどこにもないのだ」


それはそうなのだろう…


周明がこんな行動に出ているのも

きっと命令され追い詰められて

いるのだから。


「つまらぬ夢など持つな」


周明は刃を置くと、

立ち去った。



まひろは懸命に練習していた

宋語を書き記した紙に

火をつけようとしたが…


なぜかそこまでは出来なかった。



「姫様。

姫様が夕げを召し上がらないと

下女が申しておりました」


庭から乙丸の声がする。


「お加減でもお悪いのですか?」


まひろは答えない。


「すいません。

お邪魔しました」


乙丸は立ち上がる。


「乙丸」


まひろが呼び止める。


「お前はなぜ妻を持たないの?」


唐突に聞かれて乙丸は


「えっ!」


と驚く。


「そんなに大きな声を出さなくても」


「な…何故そのようなことを」


「ただ聞いてみたかったの」


答えにくそうな乙丸に


「もういいわ」


とまひろは言う。


「妻を持とうにもこの身一つしか

ありませんし…。

あの時…私は何もできません

でしたので」


「あの時?」


「北の方様が…

お亡くなりになった時

私は何も…」


まひろはハッとした。


乙丸はあの時、

ちやはを庇うことも

助けることも出来なかった…


そのことをずっと

悔やんで生きているのだ。


「せめて姫様だけは

お守りしようと誓いました。

それだけで日々、

精いっぱいでございます」


だからこそこの身一つしかない、

と言っているのだ…。


「そう…乙丸はそんなことを

考えていたのね」


「はい。

あっ、余計なことを申しました」


「ううん。こんなにずっと

近くにいるのに分からないことばかり。

私はまだ何も分かっていないのやも…」


「周明様と何かおありに

なったのですか?」


「ううん…あの人も精いっぱい

なのだわ」


だからこそ、周明はきっと

不本意でもまひろを

脅すようなことをしたのだ…。



帝が詮子の見舞いに

訪れている。


「病の身をわざわざお見舞い

あそばされるとは

かたじけない限り。

うれしゅう存じます」


「お加減はいかがで

ございますか?」


「大赦のおかげでようなりました。

お上のおかげにございます」


詮子は笑顔を見せる。


「ようございました。

母上、ご存じとは思いますが

朕もようやく父になりました」


「おめでとうございます」


「この上ない喜びにございます。

母上にもお知らせできて

うれしゅうございます」


「お上のそのような

晴れやかなお顔、

初めて拝見いたしました」


帝は笑う。


「姫を内親王といたします」


聞いていた道長と行成が、

ハッとして、顔を上げる。


「お上、今日お上の幸せそうな

お顔を拝し長い間、

この母がお上を追い詰めていたことが

分かりました」


病のせいか、

詮子にはいつもの勢いがない。


「申し訳ないことに

ございました」


詮子は頭を下げた。


「いえ。

こたび親となり朕が生まれた時の

母上のお気持ち、

分かったような気がいたします。

おわびなどなさいませぬように」


「お上…」


「ついては中宮を内裏に

呼び戻します」


それはまずい、道長と行成は

目を見開く。


「娘の顔も見ず中宮にも

会わずにこのまま生き続ける

ことはできませぬ」


「お待ちください!」


思わず道長は声をかける。


「分かっておる。

公卿たちが黙ってはおらぬ。

内裏に波風が立つと

申すのであろう。

波風など立っても構わぬ」


帝の決意は固い。


「中宮を追い詰めたのは朕である。

今ここで手を差し伸べねば

生涯、悔やむことになろう。

これは私の最初で最後の

わがままである」


帝は母を見た。


「道長、お上のお望みを

かなえてさしあげてよ」


帝の決意を汲んだ詮子は

道長にそう命じた。



「行成はどうおもう?」


「帝がお幸せなら

よろしいのではないかと

存じます」


「皆の心が帝から離れてもか」


「実資様などは厳しいことを

仰せになりそうですが…」


「実資殿の言葉には

力がある。

皆が平然と帝を批判する

ようになれば、

政はやりにくくなる。

やはり出家した者を

内裏に入れるのは…」


道長はため息をついて座る。


「難しいと思う」


「ならば職御曹司では

いかがでございましょう」


「ん?」


「内裏ではありませぬが

職御曹司ならば帝が

お会いになることも

かないましょう。

それでしたらほかの女御様方の

お顔も立ちましょう」


「なるほど。

ではそのように

帝を説きまいらせよ」


「私がでございますか?」


「行成が申せば帝も

素直にお聞きになるであろう」


「いや〜…それは…」


「頼む!」


「はっ!」



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宣孝おじさんの告白は

なかなかさすがであった。


全国のおっさんたちが

希望を持ってしまいそうだが

あくまで佐々木蔵之介である…!


ちなみに佐々木蔵之介は

56歳である…!!


これ…劇中の宣孝様よりも

さらに実年齢が上だろうに


「ありのままを受け入れる!」


なんて台詞がそのまま

大人の魅力として爆発しているのだ。


宣孝は女好き、妻もたくさんいる、

これはまひろが幼い頃から

描かれてきたことだが

単なる女好きのエロジジイ

なんかではなくて、

やはりこういうふうに

女性の心をつかめるだけの

魅力ある人なんだなということが

今回の台詞に込められていた。


これが単なる若い女、

それも親友の娘でもあり

幼い頃から知っている女性に

ハマるおぢ、

になってしまうと

観ているほうも気持ち悪いが…


いや、客観的にはそうなんだから

本当は気持ち悪いと思われても

仕方ないのだが…

佐々木蔵之介はそうならない!


さらに言うなら佐々木蔵之介だから

かっこいいだけではなくて、

これまでのまひろと宣孝との

自然な関係性を描いてきたので


「お互いにラクでいられる相手」


ということは伝わってくる。


良い告白だったと思う。


また、恋愛のことだけでなく


「自分が思う自分だけが

自分ではない」


というのはこれからのまひろの

人生にも影響しそうな言葉だった。



たとえば周明はまひろを

裏切った。


では本当にまひろが感じたように


「好いていなかったのか?」


好いていたと思う。


人には様々な面があり、

周明はまひろのことは

本当に好きだったのだが、

それでも朱のために

まひろを脅すようなことを

しなくてはならなかった。



いつも近くにいてくれる

乙丸のことだって、

まひろは本当の意味では

理解していなかった。


これは観ている我々も

驚きだったわけだが、

乙丸が独身なのは


「姫様の母を守れなかった、

だから姫様だけは守る、

そのために妻を持つような

余裕がない」


という理由だ…


つまり


「守るべき人」


は乙丸には一人で充分だし、

一人であっても守ることは

困難なことだとも理解していて、

だから妻をもたないのだ。


もはや姫に仕える従者の鑑だろう。


あの気弱な雰囲気の乙丸に

こんなかっこいい設定を

設ける脚本も素晴らしい。


男のかっこよさというのは、

何も見た目や「俺についてこい!」と

オラオラ系な引っ張る強さ、

だけではない。


乙丸のようにそっと、

見守る…そういうかっこよさも

男にはある。



今回のタイトルは


「忘れえぬ人」


である。



これがまひろにとっての

道長を意味していることは

当然のこととして、

まひろは簡単に死ぬという

言葉を使う周明に対して

母と直秀のことを語った。


2人はまひろにとって

「忘れえぬ人」であるし

こんな形で仲が壊れてしまった

まひろ、という存在は

周明にとっても

「忘れえぬ人」になるだろう。


乙丸はそのまひろの母、

ちやはを守れなかったことを

ずっと抱えていて

それが「忘れえぬ人」である。


親となった帝は

「忘れえぬ人」である中宮を、

どうしても内裏に呼び戻したい、

と譲らない。


そしてもうそれは、

詮子には止めることも

出来なくなっている。


詮子自身が


「親であるから」


自分の思いを通してきた。


親となった我が子の思いを

どうして止められるだろうか…


詮子がかわいそうなのは、

自分の夫であった円融天皇とは

仲が良かったわけではなく

「忘れえぬ人」とまでは

言えないことだろうか。



さて、


「忘れる人」


もいる。


隆家である…!!


隆家の帰還があまりに

速すぎることを

実資らは訝しんでいたが

通説によれば隆家は

出雲に入るのを嫌がって、

仮病を使って但馬で

とどまっていたらしい。


但馬は都(京都・山城)からは

北に丹波を越えたら

もうすぐそこである…


出雲のシジミ、を

わざわざ用意したのは

単に但馬にとどまりながら

出雲は神西湖のシジミが

有名だから、

出雲にいたふりをするため

取り寄せたのだろう…


「忘れる人」あるいは

「忘れえる人」にとっては

もはや兄のことすらも、

どっちでもよくなっているが

そこにイヤミがないので

実にさっぱりしている。


本当なら院を狙ったわけでも

ないのだろうが、

言い訳すらしなかった。


その場限りで生きているから

どうでもよかったのだろうし


「申し開きしても聞いてもらえないと

思った」


これも、事実なんだろう。


道長、という人はそんな人では

ないのだけれど、

これぞ宣孝が言ったように

自分が思う自分だけが、

自分ではない…というやつだ。


少なくとも隆家から見たら

道長叔父さんは兄の政敵であり

自分のことも嫌ってるでしょ?と。


でも、当の隆家はべつに

そんなに道長を嫌っていた

わけでもないのだ。


まひろが、周明や乙丸のことを

心から理解していなかったように

道長もまた隆家という人を

誤解していたし、

隆家も誤解していた。


人間なんてのは考えてみたら

そんなもんである。


深いストーリーだったと思う。