光る君へ第17回あらすじ&感想前編 | NobunagAのブログ

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光る君へ

第17話「うつろい」前編



正暦五(994)年。


まひろは無事に回復し

朝の空気を胸いっぱいに吸い込む。


「姫様!

お庭を眺めるまでに

ご回復されてようございました」


「ありがとう」


乙丸に礼を述べるまひろ。


「姫様のお声がまた聞けるなんて…」


乙丸は喜びと安堵に咽ぶ。


「心配かけたわね」


「とんでもないことで

ございます」


乙丸は恥ずかしいそうに

庭を掃きはじめる。


悲田院で気を失う直前、

道長様の姿を見たような

気がするのだけれど…


まひろはそんな不思議な

疑問を感じている…。


そんなまひろが気の毒で

乙丸は呼び止めた。


「姫様!

殿様も仰せにならないことを

私がお伝えするのは

いけないことかもしれませぬが…」


「どうしたの?」


「姫様がお倒れになった日、

姫様を助けてこの屋敷まで

お連れくださったのは

道長様にございます。

一晩、寝ずに姫様の

看病をされて翌朝、

お帰りになりました」


思い切って乙丸は

真実を話した…



まひろの頭の中に、

朦朧としていたあのときの

記憶が甦ってくる。


「すまない」


「まひろ」


「逝くな、戻ってこい!」


そんな道長の声があらためて

脳裏に響いた。


道長はあの別れから…


おそらくは真っ当に

政の道を歩み続けて、

悲田院のようすを見に来るような

志のある人になっているのだ。


志を持ち続けてくれたからか、

それとも自分のことを

救ってくれたからか…


まひろは少し微笑んだ。



道長はあらためて道隆に

民の様子を伝えにきている。


「悲田院はもう用をなして

おりません。

空いておる土地に

救い小屋を建てて病人を入れねば

いずれ疫病は内裏にも

及びましょう」


だが道隆の表情は暗い。


道隆にとって気になるのは

民のことではなかった。


「お前と道兼は何のために

そんな所に2人そろって

参ったのだ」


「都の様子を知らねば

疫病への策は講じられぬと

思ったからにございます」


「これまで幾度も疫病は

はやったが内裏に及んだことはない。

放っておけばいずれ収まる」


道隆は楽観視している。


「救い小屋なぞ設けずともよい」


しきりと水を飲みながら

道隆は話す。


「そのようなゆとりは

朝廷にもない。

火事に遭った弘徽殿の

修理だけでも大変なかかりだ。

ああ、水を持て!」


注いでいた水が切れると

道隆は苛々して声をあげた。


「はっ!」


道隆は立ち上がるが、

道長は必死に訴える。


「放っておけば都の民は

死に絶えますし、

その害は我々にも迫ります」


「大げさなことを言うな」


道隆はあらたな水を手にする。


「救い小屋を作りたければ

お前の財でやればよい。

朝廷は関わらぬ」


水を飲むと道隆は

こちらのほうが大事、

とばかりに尋ねた。


「お前と道兼は何故手を組んでおる?

不可解極まりない」


確かに兄の道隆から見れば、

道兼と道長は幼い頃から

いがみ合ってきた。


「まさか私を追い落とそうと

いうのではあるまいな」


心を入れ替えて真っすぐに

歩みだしたもう一人の兄と比べ、

疑心暗鬼になる長兄の言葉に

道長は落胆する。


「追い落としたければ

こんな話いたしません!」


道長は怒鳴りながら

立ち上がった。


「お前になくても

道兼にはあるやもしれぬ!」


生来、大人しく道隆に

敵対するようなことはなかった

道長に比べれば道兼は

何度も父に取り入ろうと

してきたことを道隆は知っている。


しかし…


「疫病の民を思うなぞ

あいつの考えることではない!」


実の弟である道兼のことを

そこまで見下す道隆に、

道長は言葉を失った。



明子は無事に男の子を

出産していた。


「では兄上とお話がありますから

あちらで」


赤子を侍女に預ける。


明子の兄、俊賢は

笑顔で赤子を見て


「お前も次は娘を産まねば

ならぬのう、なっ」


と赤子をあやしながら

明子に言った。


明子は少し寂しそうに笑う。


「近頃はお見えにならないわ。

お見えにならなければ

みごもることはできませぬ」


「お忙しいのであろう。

お見えになったらせいぜい

励んで娘をみごもれ。

そして入内させるのだ」 


跡取りとしての息子が

重視された後の世と違い、

平安時代はいかに娘を作り

帝の后にするかで、

家の命運が決まった。


「そういうことしか

お考えにならないのね、

兄上は」


明子は柔らかい表情で

俊賢をからかう。


かつては明子のほうが

野心に満ちていたのに、

もはやその面影はない。


「ハハハ…男の人生とは

そういうものだ。

もし次の関白が道兼様なら

道長様は左大臣やもしれぬ。

まあどちらにしても、

右大臣は堅い」


「偉くなれば妬む人も出るゆえ

心配でございます」


かつては自分たち兄妹も、

道長の父を恨んで生きていたのだ…


道長のことを案じる明子に


「すっかり心を持っていかれておるな…」


そう呆れながらも、

俊賢は恨みを捨ててくれた

妹のことが可愛いのか、

顔は笑っている。


「兄上がお望みになった

ことですわ」


明子はそう言うと微笑んだ。



自らの財で救い小屋を作れ…


そう言われた道長は倫子に

相談していた。


「私の財もお使いくださいませ」


倫子は惜しげもなく、

道長に答える。


「まことか!」


「私は殿を信じております。

思いのままに政をなさいませ」


「…すまない」


道長は深々と頭を下げる。


「嫌ですわ。

私が渋るとでもお思いでしたの?」


倫子は笑う。


「いや、されど…

そこまで太っ腹とは

思わなんだ」


「オホホホホ…」


倫子はさらに声を立てて笑った。


平安時代の夫婦は別財産で

この夫婦の場合は倫子の方が

多くの財を持っていた。


かつての関白、兼家の息子とはいえ

三男坊の道長よりも

左大臣、雅信の娘である

倫子のほうが裕福だったのだ。


「それより殿…」


「ん?」


倫子は酒を注ぎながら

さりげなく尋ねる。


「悲田院にお出ましになった日

どちらにお泊りでしたの?

高松殿ではありませんわよね」


「うん、高松ではない」


が、まひろの看病をしていた、

とはなぜか道長は言えなかった。


「内裏に戻って朝まで仕事を

しておった。ハハ」


軽く笑う道長。


「さようでしたか。

お許しを」


「うん」


倫子は微笑んだが…


心中穏やかではないだろう…


酒を飲む道長を見つめて、

もう一度微笑んだ。



廊下を歩く道長は、

ふとまひろのことを

思い出す。


まひろはよくなったであろうか。



そのまひろは荘子に

目を通している。


「よいか?」


為時が訪ねてきた。


「はい」


為時は言いづらそうに

ため息をつくと


「大納言様とお前の間は

どうなっておるのだ?」


と尋ねる。


「どうもなっておりませぬ」


「されどお前の看病をする

道長様のまなざしは

ただ事ではなかったが…

これをご縁にお前の世話を

していただくことは

できぬであろうか…」


自らも高倉の妾を

最期まで看病していた

為時だからこそ、

道長がまひろを想っていることに

気づいたのだろう。


「父上」


「どうでもよい女子の看病を

あのようにするとは思えぬ」


「それはないと存じます。

あの時、もし私をお気に召したのならば

今頃、文の一つくらい届いて

おりましょう」


「これから来るやもしれぬ」


なぜかまひろを励ますように

為時はそう言うが


「お望みどおりにならず

申し訳ございません」


まひろは頭を下げると笑った。



どこか得心がゆかぬまま

為時が部屋へ戻ろうとすると


「おお…」


いとに引きずり込まれる。


「あれは偽りでございますよ」


「聞いておったのか」


為時はため息をつく。


「女の私には分かります。

姫様と大納言様は間違いなく深い仲。

私の目に狂いはございません」



道長は書を読みながら、

何気なく百舌彦に命じた。


「明日、まひろの様子を

見てきてくれ」


「あの…様子などお知りに

ならない方が…」


すでに終わったはずの

恋である…


「頼んだぞ」


「え〜…」



百舌彦はトボトボと

歩いていく。


為時の屋敷につくと

掃き掃除をしている

乙丸の姿が目に入った。


百舌彦は犬の鳴き真似をする。


「百舌彦殿!」


乙丸は嬉しそうに駆け寄る。


「ども…」


「いかがされたのですか?」


「ん〜…」


言いづらそうにする百舌彦。


「道長様の命とか…」


「そうなのよ」


「もうおやめくださいと

そちらの殿様に申して

くださいませ」


乙丸も困ったように言った。


「誰?」


2人の話し声が耳にはいった

まひろが屋敷から出てくる。


百舌彦は慌てて塀の影に隠れる。


「野良犬にございます」


「百舌彦ではないの?」


まひろはじっと塀を見る。


「お久しゅうございま〜す…」


仕方なく百舌彦は

姿を現した。


「お前も悲田院で私を

助けてくれたの?」


「な…な…何のことで

ございますか?」


とぼける百舌彦だが、

まひろは


「ありがとう」


と礼を述べた。


「ほっつき歩いておりましたら

乙丸にバッタリ会いまして

懐かしくて話し込んで

おりました。

ハハハハハ…」


わざとらしく笑う。


「本当に懐かしいわね」


あの頃のことを思い出し

まひろは笑顔を見せた。



「疫病の救い小屋で

ございますが、

人手が到底足りませぬ」


そんな報告を聞いて道長は


「都に働き手が足らぬなら

近国から召し出せば

よいではないか」


と答えた。


「疫病のまん延している都に

誰も参りませぬ」


道長は自分に言い聞かせるように


「されどやらねばならぬ」


と言った。


「高くついてもよい。

急ぎそうせよ」


「は…」



なぜあの人が悲田院に?


まさか7年前の約束を?


まひろは思い悩む。



「地位を得て

まひろの望む世をつくるべく

精いっぱい努めようと

胸に誓っておる」


そんなあのときの

志を果たそうとしているのか…



道長が救い小屋の件で

励んでいる頃、

一方の道隆は酔っ払い


「ああ…ああ、貴子」


と、貴子の膝に頭を乗せて

横になった。


「ああ〜」


「子供たちの前でございますわよ」


貴子はたしなめるが


「父と母が仲がよいことは

子供の頃から知っておる。

のう」


そんな道隆の言葉に伊周と隆家は


「はい。どうぞご遠慮なく」


「ああ」


と答えた。


どこか懐かしそうに

道隆は昔を思い出した。


「貴子を見染めたのは

内裏の内侍所であった」 


「そうでございましたわね」


「うん」


再び道隆は酒をつぐ。


「殿」



伊周は父と母を残して

退室していく。


「兄上!どちらに?

京極の女ですか?堀川の?

あっ、西洞院」


「さきの太政大臣、三の君だ」


「光子様。ハッ…それはまた…」


隆家は大げさに驚く。


「また、何だ?」


「かりそめの女子にしては

大物だなと」


「家に帰ると子が泣いて

うるさいのだ。

致し方あるまい」


「よし俺も出かけよう。

あんな父上見てらんないもんな」


隆家は負けていられない、

とばかりに帰っていった。



内裏の中をききょうが歩いている。


「なぜ返歌をくれぬのだ?」


現れたのは斉信である。


「あら、そうでしたかしら?」


他人のようにききょうが答える。


「とぼけるな。

俺をこけにするとはけしからん」


斉信はききょうの胸を触るように

着物の中へともみじをいれる。


「深い仲になったからといって

自分の女みたいに言わないで」


ききょうは冷たくそう返した。


いつの間にやら、

どこかで2人は関係を

結んでいたのだろう。


が、今のききょうは

定子一筋になっており

斉信にかまっている暇はない。


「男が出来たのか?」


少し寂しそうに斉信は

ききょうの背に問う。


「前の夫とよりを戻したのか?」


ききょうは花を活けると


「だったらどうなの?」


と返した。


「…そうなんだ」


斉信は自信をなくしたように

ぼそりとつぶやいた。


「そうじゃないけど

そういうことをネチネチ聞く

あなたは本当に嫌」


斉信の顎をつかんで

見上げるようにしながら

ききょうは冷たく答えた。


斉信よりもききょうのほうが

上手である…


斉信はそれでも口づけしようとするが


「そろそろお越しになるわ」


と、ききょうは身を離した。



道隆が帝らの前で、

笛を披露しているが

途中で咳き込み、

うまく吹けずにいる。


「いかがされたのであろう」


公任が行成に話しかける。


「さあ…」


道隆の笛の音はかすれ、

咳き込む。


道隆は笛から口を離して

眩しそうに外の光を

見ながらよろよろと立ち上がり…


手を伸ばしながら突然、倒れた。


「関白様!」


と周囲から声が上がる。


「薬師を…」


道隆の急変に帝は定子を

気遣うように見た。


定子も目を丸くしている。



倒れた道隆の元には、

兼家のときと同様に

安倍晴明が呼び出された。


「失礼いたしまする」


意識はあるようだが、

暗い部屋に道隆のうつろな

声が響く。


「水を…水を…」


道隆は水を受け取ると

浴びるように飲み、

咳き込んだ。


晴明はその様子を

訝しげに見守る。


貴子が道隆の背を撫でている。


「目がかすむ…手がしびれる…

喉が乾く…。

これは誰ぞの呪詛に違いない。

どうじゃ」


と道隆は、言うのだが…


「どなたかお心当たりでも

ございますか?」


晴明が尋ねると道隆は怒鳴る。


「心当たりはありすぎる!

道兼、詮子…道長とて

腹の中は分からぬ!

皆、わしの死を望んでおる」


しかし占星術に限らず

あらゆる知識を持つ

晴明には分かっていた。


「それは呪詛ではございません。

恐れながらご寿命が尽きようと

しております」


道隆も貴子も言葉を失い

晴明を見る。


道隆は


「晴明!」


と叫んでふらふらと立った。


「殿!」


貴子の手を払うように

道隆は歩くが倒れ込んだ。


「お前の祈祷でわしの寿命を延ばせ!」


「難しゅうございますが、

やってみましょう」


それだけ答えると、

晴明は淡々と去っていった。



「お帰りなさいませ」


従者の須麻流が出迎える。


「関白の病の平穏、

祈っておけ」


「私がでございますか?」


関白ともあろう方の祈祷を

自分でいいのか?と

須麻流は気にした。


「お前でよい。

もう関白は何をしても

助からぬ」


晴明は冷たく答えた。


「はっ」


「せめてお苦しみが和らぐよう

ご祈祷いたします」


そういうことには慣れているのだろう、

須麻流も意図を汲んだ。


「あ〜、疲れた…」


と、晴明はつぶやいた。


「病の者の穢れをもらった。

いけない、いけない」


晴明は道隆のためではなく、

己のためのまじないを

かけるのだった。



正暦六(995)年、正月。


疫病で傾く世の流れを止めるべく

道隆は改元を進言した。


「新しき元号は

長徳がよろしかろうと

存じます」


帝に上奏する道隆の声には

もうかつてのような覇気がない。



長徳元(995)年、二月。


「チョートク…チョートク…」


実資が何度も口に出している。


長徳への改元は、

貴族たちの不興を買っていた。


平惟仲が


「どなたがお決めになったので

ありましょうか」


と尋ねる。


「関白に決まっておろう」


雅信の弟にあたる源重信が答えた。


「チョートク…何が悪いのだ?」


藤原顕光が尋ねると、


「チョートク…チョートク…

チョードク」


実資が答えた。


「チョードク!?

チョードク?

チョー…長〜い毒ですよ!」


気づいた道綱が驚く。


「はあ…」


「疫病は長引くでありましょう」


「あっ…」


「帝も関白様の言うことを

お聞きになり過ぎだ。

まだまだお若いのに心配だ」


実資が遠慮なく述べた。


花山天皇は関白どころか

公卿の言うことも聞かないので

悩まされたものだが、

関白の言いなりでも、困るのだ。


「もはや関白様は物事の

是非のお見分けもつかぬの

であろうか」


「御病もこの改元で

悪化してしまうやも…」


重信が心配を口にする。


帝は…そんなやりとりを

隠れて聞いていた。


「帝は未熟。

はなはだ未熟であられる!」


実資の辛辣な声が聴こえてくる。


俊賢が


「帝は我々でお支えいたしましょう」


と庇うが実資は続けた。


「いくらお支え申しても

断を下すのは帝である。

心配であるのう…、

心配である。

長徳という世になれば

禍も多くなろう」


帝はたまらずその場をひっそり去った。



「父が病で倒れてから

一人でいると心細うございます」


そんな定子は帝はどこか

寂しそうに見ると


「会いたければ二条第に

行ってもよいぞ」


と答えた。


「朕がよいと申せばよい」


それは心外とばかりに定子は


「私はお上のおそばに

いとうございます。

父を見舞う間でも離れるのは

嫌にございます。

兄を呼んで父の様子を

聞いてみますので」


と答える。


「定子は朕が守るゆえ

好きにいたせ」


帝はいつものように

優しく伝えた。


「はい、お上…」



道長と道兼は、

道隆の容態と今後について

詮子に相談にきている。


「そんなに悪いの、関白は」


ここ数年は反りが合わずにいた、

とはいえ実の兄である。


詮子は固い表情で聞いた。


「飲水病であろうと

薬師が申しておりました」


「浮かれすぎたから

罰が当たったのね」


突き放すように言う詮子だが


「お若い頃は優しい兄上だったのに」


やはり昔の仲が良かった

日々を思うと悲しくもあった。


道長もそこは同意である。


詮子の言葉に少し俯いた。


「次の関白は道兼兄上で

あるべきよ」


詮子は唐突に本題に入った。


「なんと…」


思わぬ言葉に道兼は驚く。


関白の座などは父に

後継者から外されていまは

一人の貴族として、

民を思う政治を道長とともに

目指していただけの道兼には

そんな野望はなく、

意外な展開であった。


「だってそれがまっとうな

順番でしょう。

だから今日、道長に一緒に

お連れしてと言ったのです」


当たり前、とばかりに詮子は言う。


「今宵はそういう話だったのか」


「私は道兼兄上のことが

昔から好きではありません。

されどあの出過ぎ者の伊周に

関白になられるのはもっと嫌なの。

だから道兼兄上を後押しするわ」


詮子らしい言葉で、

道兼の支援を約束した。


「女院様にお助けいただく

身になるとは不思議な気がする。

また道長に借りを作ったな」


素直にそういう道兼。


道長は気にするな、

今のあなたは関白になるに

相応しい男なのだ、と

ばかりに頷いた。


「では姉上、帝にお話いただけますね」


道長が詮子に確認した。


「内裏に行くのは嫌」


「え?」


「定子に首ねっこつまれてる

ような帝、見たくないもの」


「え…ならばどのようにして

道兼兄上が…」


「ほかの公卿を取り込んでおくわ。

そもそも大納言も中納言も参議も

公卿は皆、伊周が嫌いだから

そこは私が一押しすれば

うまくいくはず」


「お〜…」


と、道長と道兼が同時に

声をあげた。


詮子は反撃の機会がきた、

とばかりにほくそ笑んだ。


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まひろが道長に助けられたことを

思い出しながらにんまりと

笑う様子は女子こえー!と

思ったのだがよく考えてみると

まひろは恋愛感情として

喜んだのではなくて、

道長が志を持って悲田院に

来ていたことに喜んだのでは

ないかと気づいた。


道長がまひろへの恋に

浮かれていたあの頃も

まひろはどちらかというと、

その志こそを伝えようと

願ってきたからだ。


だからこそそれが

あやふやなままで、

道長に抱かれたときに

嬉しいのか悲しいのか、

わからない涙を流していた。



為時もようやく道長とまひろは

現在進行形かはわからないにせよ

何らかの関係があったのだ、と

気づくきっかけになったのは

まひろを必死に看病している

道長の姿を見たからだろう。


本当にうまく練られた脚本だな、と

唸らされたのは、

その為時自身が高倉の姫を

必死に看病してきた人だったからで

その経験があったからこそ、

道長の思いに気づいたのだ。


あの高倉の姫と為時の

エピソードというのは、

為時の優しさを伝えたり

さわとの出会いのきっかけに

なる場面だっただけではない…


こうして為時が道長を

理解するためのシーンとして

後に機能することを意図して

描いたのだとしたら、

非常によくできている。



さて、斉信はかつて

ききょうが人妻でもいいとか、

自分好みであることを

語っていたものだが…


いつの間にやら大人の関係を

築いていたようで。


が、ききょうのほうが

何枚も上手であって

斉信は子供のように

あしらわれている。


好きな男ができたのか?


それとも夫とよりを戻したのか?


と気にしながら


そうなんだ…


と、勝手に落ち込むところなどは

斉信のほうが可愛くもあり

そんな斉信にそういうことを

ネチネチ聞くあなたは本当に嫌、

とトドメをさしつつも

色気を出してくるところが

Theオンナ!!

という感じでききょうの

大人の良い女感がすごい。


斉信と清少納言との繋がり、

というのは逸話としても

残されてはいるので、

今後の2人の行方も楽しみになった。



長徳…チョートク…

チョー毒、長い毒…!?


そんな元号駄目だ!


というのはくだらない

ネタのようではあるが

実際、この時代の人は

縁起をかついだので、

なかったとも言えない。


そしてここは後のドラマで

描かれるだろうけれど

長徳という元号の間に

様々な出来事が起こり

多くの者達の運命を

左右するような状況が

起きていく…



一条天皇は聡明ではあるが、

花山天皇のような行動力、

という点では劣る面もある。


しかしこれは一条天皇が

無能ということはまったくなく

優しいし人徳があるゆえに、

定子やその兄の伊周、

父の道隆を可能な限り

立てなくてはいけない…


と、物心つく頃から

縛られてしまったことにもよる。


それゆえ一条天皇は、

この先、一人の政治家としては

優秀な判断を下せる帝へと

成長していくのである。



道隆は…無念だったろうとは思う。


飲水病というのは今で言う、

糖尿病のことだ。


ドラマでは若い頃は優しくて

兼家のような剛腕ではなく、

文化的で知性を感じさせる

やり方で人脈を広げる

道隆のことが描かれてきた。


それが兼家が死んだ途端、

人が変わったように

権力にこだわり息子ばかり

優遇するようになってしまい、

キャラ変したかのように

書いていた人もいたが…


実は糖尿病と認知症とは

深い関連性があるので

今の感覚なら笑いとはいえ

当時の40代はもう、

高齢者の部類であったので

判断力が著しく衰えて

しまった可能性がある。


糖尿病により血糖のコントロールが

うまく出来ないと認知症に

なりやすくなるし、

認知症になると血糖のコントロールが

うまくいかなくなる、

という負の連鎖があって…


実際に自分が仕事で対応している

方々の中には両方併発する人が

たくさんいるのだが、

道隆もそういう状況に

なってしまったのでは

ないだろうか。


いまでこそどちらの病も

薬である程度ならば

軽症に抑えることは出来るが

当時はそうではなかった。


具合が悪いところがあれば、

薬師といっても医療は

発達していなかったから

まともな薬は少なかったろうし

おまけに何か悪いことがあると

まずはドラマのように、

呪詛を疑った時代である。


そんなことをしてるうちに

どんどん進行してしまうのは

無理もなかったのだろう。


道兼は挫折を経験し、

それでも見捨てないでくれた

道長のおかげで、

まるで劇場版ジャイアンか

綺麗なジャイアンのごとく

頼れる男へと生まれ変わったが…


優しかったはずの道隆のほうが

誤った道を歩むようになって

しまった。


しかし兼家が言っていた


「政とは家を守ること」


を実践していたのは確かで、

その意味では兼家の紛れもない

後継者ではあるのだろうし、

とはいえ兼家の亡霊になって

しまったのだとも言える。


安倍晴明は淡々と寿命です、

と伝えていたけれども

とはいえまだ40代前半…


諦めきれない思いも、

あっただろう。


実は道長含めてその周りの者は

比較的、長生きはしているので

当時の平均寿命は長かったのでは?

と思われてしまうんだが、

30代で死ぬ人すらたくさんいた。


戦国時代も人間五十年、

にも満たないくらいの

ものだったのだが、

あれは年中いくさをしていて

いつ命を落とすかわからない

時代であったから仕方ない。


でも平安時代はあまりいくさもないのに

30代、40代で亡くなる人が

たくさんいた時代だ。


自分に許されている時間が

短いことをどこかで

感じていたからこそ、

道隆が権力に固執して

息子のことばかり

気にするようになってしまったのは

無理もないかもしれない。