どうする家康
第37話「さらば三河家臣団」後編
三成と別れ陣に戻った家康と本多正信。
「おっ、きおったな」
集まってくる家臣らを見て
正信が言った。
「一同に集まってもらったのは
他でもない、
殿より大事なお達しがある。
落ち着いて聞かれよ」
家康は静かに話し始めた。
「関白殿下の命により
国替えと相成った。
北条領を賜る代わりに
我らの領国を…
関白殿下に差し出す」
家臣らは落ち着いて
聞いてはいるものの、
表情は暗い。
「三河も…手放す」
遠江、駿河、甲斐、信濃も
惜しいことではあるが
やはり皆にとってもっとも
大切なのは故郷である三河だ。
だが、皆、複雑な顔で
押し黙っていた。
「一同これより各々、
新たな領国へ移る。
天下静謐、日ノ本の安寧のため
誉れ高きことである!」
家康の言葉を補足するように
この国替えは決して、
屈辱的なものではないことを
強調した。
「国をたつ前に伝えなかったのは
混乱を避けるためである。
異論は…認めぬ」
「殿!」
と、たまらず平八郎が
声をあげた。
「異論は認めんぞ!平八郎!」
家康は厳しく返したが
平八郎は再び声を上げた。
「殿!!」
しかし平八郎は意外なことを
口にした。
「関東も良いところに
相違ござらん」
「平八郎…?」
「殿、我らはとっくに
覚悟ができており申す」
小平太もそう言った。
直政が続ける。
「新たな領国を治めるのも
また、大いにやりがいがあること。
腕が鳴りまする」
と肩を回して見せる。
鳥居元忠もそれを見て微笑み
「故郷にはちゃんと
別れを告げて参りました」
と家康を見た。
家康は目を丸くする。
皆、反対すると思ったのに…
「皆、知っておったのか…?」
「実は国をたつ前に忠世殿から…」
平岩親吉がそう言うと、
大久保忠世がフッと笑った。
「わしはただ…正信に頼まれただけで。
国替えは避けられぬであろうから
皆にうまく伝えておいてくれ、と…
はぁ、まったく…
こんなときばかり頼られる」
と、忠世は己の頭を叩いた。
実際には家康が予想していた通り、
家臣達は怒り狂っていた。
「ふざけたことぬかすな!
断じて受け入れられん!」
忠世から国替えの件を告げられた
平八郎は掴みかかった。
「そうじゃ!」
と、元忠は忠世を突き飛ばし、
忠世は庭に転がる。
「弱腰にすぎる!
いくさじゃ、いくさ!いくさ!」
立ち上がった忠世に、
直政が飛びかかる。
「馬鹿にしおって!」
温厚な親吉ですら怒り
「何のために今まで
やってきたのか!」
と、小平太も叫ぶ。
忠世が悪いわけではないのだが
「何か申せ!」
と直政はさらに詰め寄り
「わしらの国じゃぞ!」
元忠も迫る。
平八郎も叫んだ。
「家族はどうなるんじゃ!」
「わしらの国はどうなるんじゃ!」
平八郎と元忠にも詰め寄られ、
忠世はそれを受け止めるしかない。
やがて…
「わし…わしらの…ハァハァ…
もう駄目、もう駄目じゃ…」
日が暮れる頃には、
忠世はボロボロになり
元忠が床にはいつくばり
荒い息をついた。
「気は済んだか?」
と忠世。
「ああ、彦殿…泣くな、彦殿!」
平八郎が声をかけた。
「忠世兄ぃに言い聞かされちゃ
従う他ねえわ」
元忠は思い出し笑う。
「おかげで故郷の山河に
皆、別れを告げることが
でき申した」
親吉は吹っ切れたように言う。
「毎度ながら勝手なことを
いたしまして」
と、涼しげに正信が言って
頭を下げる。
家康は皆に内緒にしろ、
と命じたのだが、
それでは後になって
家康が責められるだけ。
正信はあえて皆から
慕われている忠世に、
家康の代わりに皆の思いを
ぶつけられる役目を頼んだのだ。
家康のことを思うがゆえ。
そして皆を心配し、
忠世のことを見込んでいるがゆえ。
ただの知恵者なだけではない、
まさに家臣団の一人として
頼れる軍師の姿がそこにある。
「まったくじゃ…」
家康はそう言いながらも
「だが…礼を言う」
「どういたしまして!」
と、事もなげに正信は
頭を上げた。
家康は立ち上がった。
「皆…本当は悔しかろう。
無念であろう…
このようなことになり…
すまなかった。
この通りじゃ」
家康は地面に膝をつくと
家臣達に深々と頭を下げて詫びた。
慌てて直政が駆け寄る。
「おやめくだされ!
なぜ謝ることがありましょうや!
また一から始めればよいだけのこと」
「その通り、この乱世を
我らはこうして生き延びたのですから。
…それで十分」
と、小平太が言う。
「そうじゃ…我らは生き延びたんじゃ…
信じられるか?
今川、武田も滅び、
織田も力を失った乱世を…
我らは生き延びたんじゃぞ…?」
平八郎はまるで昔のように、
家康にそう問いかけるように訴えた。
脳裏には今川義元、
武田信玄、そして
あの強かった織田信長の姿が
浮かんでくる。
このいくさにかけては、
並ぶ者のない平八郎とて
全てが命がけだった。
そして、家臣の多くはこうして
生き延びたからこそ、
いまここにいるのだ。
「貧しくてちっぽけだった
わしらがなあ、
信じられんわ!」
元忠が懐かしそうに笑った。
「しかも、あの弱虫な殿のもとでじゃ!」
と、親吉は家康の若き日を
思い返した。
元忠と親吉…彦と七は、
家康の幼なじみでもあるのだ。
家康と一緒に悩み、
ここまで走り抜けてきた。
「これ以上何を望みましょうか」
天下の覇権は秀吉が
握っているとはいえ、
家康は諸国の大名の中では
秀吉に次ぐ勢力を誇り、
今川、武田、織田が
滅びていく中で今や
燦然と輝く大名家になったのだ。
「殿…殿のおかげでござる。
ありがとうございまする」
忠世が平伏すると、
皆もそれに続いた。
「こちらこそじゃ…」
家康はこの頼れる男たちを
改めて見渡した。
「こんなわしに…
ようついてきてくれた…
よう支えてくれた…
皆のおかげじゃ…」
心からの感謝をこめて
家康はもう一度彼らに
頭を下げる。
男たちのすすり泣く声が
あたりに響く中、
ふいに酒瓶を置く音が聞こえた。
「かーっ!!ハハハハッ!!」
「正信!いつの間に…
まったく、気が効くのう!
おう!湿っぽいのはやめじゃ!」
と、元忠が立ち上がった。
正信は皆が平伏しあってる間に
祝杯をあげるために、
酒を用意していたのだ。
「わしらには笑ってお別れが
お似合いじゃわ」
と、親吉も明るく言うと
そうじゃ、と皆も続いた。
「そうじゃな、先のことを
話しましょうぞ。
殿、我らはどこを所領に
いただけるので?」
と、直政が前向きに発言する。
家康も嬉しそうに
「ああ、皆、城持ち大名になるぞ、
正信伝えてやれ」
と声をかけた。
「はっ…井伊直政殿…
上野箕輪!」
と発表し皆から歓声があがる。
箕輪は西への抑えにもなる
重要な土地で領土も広い。
「直政、信濃と越後の抑え、
そなたなら上手くできよう。
が、調子に乗って無茶はするなよ」
「はっ」
家康は直政との出会いを思いだす。
女のふりをして自分を
襲撃してきたほどの度胸はあるが、
危なっかしい奴だ。
「榊原康政殿、本多忠勝殿!
上野館林、上総万喜」
「小平太、千切れ具足を
まとっていたお主が
大名じゃ。これからも励め」
昔は小姓として仕え、
ボロボロの鎧で
平八郎のあとをくっついていた
小平太もいまや欠かせぬ重臣だ。
「はっ」
「平八郎、主君と…」
平八郎との出会いの際は、
主君などと俺は認めぬ!と
さんざんだった。
「認めてもらえるとよいのう」
と家康は笑う。
「はっ!」
平八郎も笑って頭を下げる。
「鳥居元忠殿!平岩親吉殿!」
と仰々しく正信が
読み上げていく。
「下総矢作、上野厩橋」
「もったいないのう!」
と元忠が喜ぶ。
「彦、そなたならきっと
領民に慕われよう」
家康は若い頃からともに
歩んできた元忠の姿を思い出す。
「ははっ」
「喧嘩っ早いのは直せよ、おい」
と忠世がからかう。
「七、離れ離れになっても
泣くでないぞ」
かつて岡崎を任せたときは
家康と離れたくなくて
泣いていた親吉は
「泣きませぬ!」
と泣いていた。
「泣いとるではないか…」
忠世が突っ込むと一同が笑う。
「さて、こうなると難しいのが
相模小田原を誰に任せるかじゃ…」
家康はもったいぶる。
禄の大小はともかく、
この小田原こそが北条が
本拠地としていた最大都市。
北条征伐の一番の要所であり、
ここを誰がもらうかが、
このいくさの最大の功労者、
ともいえた。
半蔵が、きたか…と笑う。
「皆が納得するのは
一人しかおられぬかと」
期待を隠せない半蔵…ではなく
正信は忠世の前に進み出た。
「わしが三河を追放されとる間、
我が妻子の世話をしてくれたこと、
感謝しても、仕切れん…」
珍しく正信は真顔で
礼を述べる。
「何をいまさら昔のことを…
小っ恥ずかしいわ!」
正信を家康に推薦してくれたのは
この大久保忠世であり、
その正信が一向宗につき
家康に追放されたときに
妻子を預かってくれたのは
他ならぬ忠世だった。
「我らがここまでやってこられたのは
わしの知らぬところで
そなたが陰ひなたとなって
この暴れ馬どもをつないで
くれておったからじゃ」
家康も改めて忠世の日々の貢献を
褒め称える。
「へへ…もったいなきお言葉」
家康は、その忠義にいまこそ
応えてやった。
「大久保忠世。
小田原を与える」
忠世は驚いて固まるが、
他の家臣達は異論なしと
ばかりに忠世を見つめている。
「…隠居間近の老体には
いささか大仕事が過ぎまするが…
残りの命…小田原の安寧に
すべて捧げる所存。
謹んでお受けいたしまする!」
忠世は覚悟を決めて
そう誓った。
三河一の色男、と
自称していた忠世だったが
まさに男たちから支持され
認められていた、
家臣団の兄貴分でもあり
親父役をずっと果たしてくれたのだ。
「うん!小田原は相模一の
色男にお任せあれ!」
と忠世は相模小田原、と
書かれた札を地図の真ん中に
ドン、と置いた。
「して、殿はいずこを…」
最大の戦果である小田原を
忠世にということは、
家康はどうするのか…
「おう…」
「殿は、江戸」
と、正信が答えた。
「江戸?」
「そのようなところでは…」
江戸は交通の要ではあったが
当時、ほとんど発展していない
難しい場所だということを
多くの家臣も知っている。
「よいのじゃ、今はぬかるみだらけだが
わしはかの地を大坂をしのぐ街に
してみせると決めておる」
と、家康は力強く語る。
おお…と家臣団は
家康の決意に声をあげた。
家康は新しくこの東国に
都を作っていく気なのだ。
「吹きっさらしの粗末な城も
作り直すぞ!」
「では次、集まる時は江戸ぞ!」
と、平八郎が皆に声をかけた。
「おう!」
と皆が応じる。
「いざ!」
家康が声を上げようとすると、
「ととと、と…」
半蔵が慌てて割って入る。
「ハハハ…いまだ名を呼ばれぬ者が
一人おります」
皆が固まる。
「ハハ…わしゃどの地を頂けるので?
…指折り数えてみたが、
もう、残ってない気が…
わしはなんで呼ばれたんじゃろう…」
確かにこの場へ呼んだのに、
皆が称賛される様子を
ただ見せられているだけでは
半蔵にも家臣がいるのに
何の立場もない…
「半蔵は…」
正信が申し訳なさそうに言う。
「呼ばなくてようございましたな…」
「いや…」
嘘だ、とばかりに
正信は声高に笑った。
「半蔵」
「はっ」
「わしと共に江戸へ行こう」
と家康は誘った。
お〜…と皆が声をあげる。
何も城持ちになるだけが
評価なのではない。
これから江戸を支える側近も
家康には必要なのだから。
「どこかやるさ」
「うんうん、どこかだ、うん」
しかし半蔵にとっては
これも誉れ高い褒美だ。
そして半蔵にとって
大切だったのは己のこと
だけではない。
「江戸…服部党も皆、
正真正銘の武士として
取り立ててくださいますか」
「もちろんじゃ、お主らに
何度命を助けてもらったと
思うておる!」
あの伊賀を越えられたのは
間違いなく半蔵のおかげ。
半蔵は誇らしげに
家康の横に立つと
「方々、それぞれの所領、
しかと治められませ!
我ら徳川家中、離れ離れになっても
心は一つじゃ!」
と言った。
「心はひとつじゃあ!」
皆、声を揃えると乾杯をあげた。
「まだまだ隠居できぬか!」
と、忠世が嬉しそうに叫び
「なあ」
「江戸じゃ、よいではないか」
と、皆も半蔵を祝した。
大坂、羽柴秀長の屋敷。
病で、すっかり変わり果て
寝込んでいる秀長のもとへと
福島正則が飛び込んでくる。
長年、秀吉とともに
いくさを戦ってきた
秀長はすでに病で
余命も尽き始め、
小田原攻めにも
参加できずにいたのだ。
「秀長様!!
秀長様…天下一統相成りまして
ございまする!!」
「そうか…」
よろよろと立ちあがる秀長を
夕陽が照らす。
「とうとうやりなさったな、
兄様…
これ以上の欲は…
張りなさんなよ…」
秀長は祈るような気持ちで、
そう言った。
しかし…
天正十九年(1591年)八月五日。
祈祷の声が響く中…
恐ろしいことが起きていた。
秀吉、最愛の息子、
鶴松…病没。
まさかの出来事に
あの茶々も呆然とし
寧々は涙に暮れている。
秀吉がでんでん太鼓を鳴らすと
祈祷が止んだ。
「…ハハハ…ハハハッ…
ハッハッハッハッ!」
秀吉は狂ったように笑うと、
手を伸ばす。
その先には三成がいた。
「次は…何を手に入れようかのう」
大切なものを失った苦しみ…
三成には何も言えない。
殿下が間違えたときには
自分が止める、と家康には
約束した…
だが…。
「ハッハッハッハ…!」
秀吉の乾いた笑いが響いていた。
天正二十年(1592年)、正月。
家康の江戸の街作りは
順調に進んでいる。
内政官の伊奈忠次が
「こちらをご覧ください、
次は日比谷入り江をどうするか。
江戸に人を多く集めるには
土地が足りませぬ。
そこで良案がございます。
こちらの神田山を削り、
その土で日比谷入り江を
埋め立てまする」
「ほう〜」
「途方もない試みじゃな」
家康も正信も感心している。
「我らにお任せあれ」
「おう」
と、正信は相変わらず
飯を食いながら答える。
「大いにやるがよい。
しかし町を一から作るとは
楽しいもんじゃな」
家康が笑うと阿茶局も
笑顔になる。
しかしそこへ
「御免!御免!」
と急ぎの知らせがきた。
「関白殿下より朱印状が
参りました」
家康は手紙を受け取る。
読むうちに家康の顔が曇る。
「いかがなさいました?」
と、心配そうに尋ねる阿茶。
「いくさじゃ…」
伊奈忠次も正信も、
手を止めた。
「朝鮮を従え…民国をとると…」
__________________
北条征伐後の論功行賞は、
面白かった。
井伊直政が任された
箕輪城は信濃や上杉への
要となる拠点であり
かつては長野業正という
勇猛な武将が、
信玄を何度も撃退した
甲斐に対する防衛線でもある。
ここを直政に任せるのは、
かなりの抜擢であり
実は石高としては12万石と
一番大きい場所だ。
小平太、平八郎は10万石。
やはり四天王のうちの
三人だけあって、
大きな加増となっている。
他の者たちも3万から、
4万石くらい与えられており
大久保忠世の小田原は、
4万5千石。
これは石高そのものよりも、
関東支配の象徴として
不落の名城、小田原を
任されたというのは
また、大きい。
結局のところ、
石高の大きい土地というのは
いざいくさとなれば
それだけの動員が求められるので
大規模な土地は戦闘が
得意な者に与えるのは
当然でもある。
その反面、半蔵は
江戸行きを命じられ後に
そこで8千石を得るが
これが冷遇されたのかといえば
別にそうではなく…
半蔵は伊賀同心という、
伊賀者たちをまとめる
頭目に任じられており
江戸城の警護を担当する。
いわば家康のための、
親衛隊長のような役割であり
忍びたちのような
少数の精鋭を指揮することに
長けた半蔵だからこその
任命だといえる。
もっとも伊賀者たちは難しく、
自分たちは家康に従っただけで
服部家の家来ではない、と
反発された模様…w
だが半蔵にとっては、
栄誉ある仕事だったろう。
いま残る「半蔵門」とは
服部半蔵からきている。
本多正信なんかも、
1万石なのだが彼は
領地の支配よりも
家康の側で支えるのが
役目なのだから、
あまり広大な領地を
もらっても困るだろう。
この辺はやはり
その人物の才能に応じて
適材適所していると思われる。
前編にも少し書いたが、
家康の江戸への移封は
単に秀吉の嫌がらせとは
言えない面もある。
この頃、奥州の伊達政宗は
小田原征伐のときにようやく
秀吉に臣従した。
政宗は遅れてきた天才、
あと数年早く生まれていたら
天下を狙えた、とも
言われているほど
恐ろしい速さで奥州を
制圧していた男だ。
いくさの才能でいえば、
秀吉や家康に匹敵する
英雄の一人。
この政宗がいつ反旗を翻すか
わからないというのが、
この頃の秀吉政権の
不安定さではあったし、
内紛で弱まったとはいえ
上杉家の存在も侮れなかった。
関東方面に家康がいることで
彼らの抑えになることを
秀吉が期待してもおかしくない。
もちろん家康が
彼らと結べばアウトだし
事実、後年はそうなって
しまうわけだが…
少なくともこの時点では
秀吉が西は自分、
東は家康が抑えてくれれば
天下は安定すると考えたとしても
間違ってはいない。
実は足利幕府も、
京にある足利将軍家とは別に、
鎌倉公方という、
関東を支配するもう一人の
将軍に準じる組織を
作っていた。
これは仮に京の将軍家に
間違いがあったなら、
それを糾す、というような
役割もあった。
昔の人達といえど、
権力を握ったからといっても
万が一を考えて、
自制するようなシステムを
考えていたことがわかる。
もっとも戦国期では
その鎌倉公方も機能せず
分裂したうえに、
最終的に関東の支配権は
関東管領となった上杉家、
は結局越後にあったので
北条家が支配していた、
というような背景がある。
これらを意識したかは
定かではないにせよ、
秀吉から見たときに
家康が東に勢力を持つことは
過剰に警戒はしなかったのだろう。
家康はこれにより、
広大な土地を得たうえに
家臣達の多くも城持ちとなり
これまでの苦労が報われたので
秀吉を恨む、というより
感謝する者も多かったかもしれない。
かつて、瀬名が語った
東国の独立国というのは
ドラマのアレンジだが、
家康は結果的にはこうして
ようやくその地盤を得た。
それにしても、
鶴松の死の影響は大きく、
晩年の秀吉のやり方は
あまりにひどかったが、
これはその前年に
秀長も亡くなった事が大きい。
ドラマでは途中から登場し、
秀吉を補佐しながらも
性格は温和なタイプで、
家康とも親しくしていた秀長。
おそらく秀吉政権下でも
彼を慕っていた者が多かっただろう。
秀吉が間違えたときには
自分が止めると言った石田三成も、
しょせんはまだ若い。
鶴松を亡くした心の隙間を
埋めるように朝鮮出兵を目指し、
そこに生きがいを見出した家康を
おのれ一人で止めることは
さすがに難しいだろう。
おそらく次回は、
さすがに家康と共に
止めようとする、
くらいはあるかもしれないが…。
家臣団が離れ離れになる、
とはいってもまだ、
この先の関ヶ原の合戦は
多くの家臣も参戦するので
完全なお別れではない。
むしろここで各自が、
城持ち大名としての
経験を積むことも
後の江戸幕府に生きていく。
本作は家臣団の成長も
ひとつのテーマなので、
彼等が前向きに別れるシーンは
とても良かった。
松本潤さんは本当に、
中年期以降の家康のほうが
いきいきしている。
本当の家康は実は
こんな感じだったのでは?と
思いながら見ている。
野心は多少残しつつも、
相手を立てることを重視し
いくさになれば、
優秀な家臣団がサポートしてくれる。
秀吉とは違った意味での
人たらしであり、
信長のように凶暴なわけでもない。
非常にバランスに優れた感じがする。
そうした繊細な強さを
松本潤さんは、
しっかり演じている。
クライマックスに向けて
あともう少しである。
ジャニーズ問題で周りは
うるさいけれども、
最後まで頑張ってほしい。
自分にとっては、
どうする家康は間違いなく
名作のひとつだ。
おそらくはあと数回で
ついに秀吉の命も
尽きるのだろうが…
信長のときとはまた違う、
「戦友」との別れを
描いてくれると期待しているし
松本潤さん、ムロツヨシさんが
それをどう演じるのか楽しみである。
