どうする家康
第29話「伊賀を越えろ!」前編
天正十年(1582年)
六月二日。
本能寺で信長が討たれる。
秀吉は家康がいずれ立ち、
信長を討つものと
信じていた。
ところが謀反を起こしたのは
明智光秀だという。
「あ…明智…?
んじゃあ、徳川殿はどこに?」
秀吉は秀長に尋ねる。
「僅かな連れと堺見物だとか」
「こりゃ死んだな」
と、秀吉は笑った。
「徳川殿、大勢で逃げれば
目につくばかり。
ここからは別々に逃げましょう」
穴山梅雪が家康に提案する。
「ご無事を祈ります」
「徳川殿も」
梅雪は頭を下げ去っていく。
「一同、誰も死ぬな、
いくぞ!」
と家康は力強く家臣に命じる。
駆け始めた家康一行の
無事を願って茶屋四郎次郎は
深々と頭を下げて見送った。
本能寺にて織田信長を討った
明智光秀は瞬く間に京を制圧。
手際よく天下人への
足場を固めようとしていた。
「上様!お呼びでしょうか!」
すでに部下らには、
「上様」
などと呼ばせている
光秀の姿がある。
「家康の首を持ってきた者には
褒美の金に糸目はつけんと
日ノ本中に触れ回れ!
天下人!惟任日向守光秀の
命だとな!!」
苛つきながら報告にきた
家臣を蹴り飛ばすと
光秀は叫んだ。
いつも冷静だった光秀が、
こうなってしまうのが
「天下人」の魔力なのか…
いや、光秀は信長の首を
挙げられていない。
せめて恨みのある
家康の首くらい取らねば
天下に自分の武も大義も
示せなくなる。
信長を討ったとはいえ、
首がなければ、
その死が確実なものだとは
世間に伝えられないのである。
煮物に箸を突き刺しながら
「逃げる三河の白兎が!
焼いて食おうか、
煮て食おうか…
皮をはいで塩茹でか…!!」
と光秀は家康への怒りを
口にする。
焦りと怒りが綯い交ぜになり、
もはや常軌を逸していた…
織田の重臣たちはいまだに
各地に散らばっており
統制がとれない。
光秀にとっての目下の敵は
家康だけであった。
少なくとも光秀は、
そう思っていた。
山中を走り続けていた
家康一行であったが、
皆ほど若くない石川数正は
だんだんと体力が尽き、
倒れ込んでしまう。
「数正!」
慌てて家康が起こしてやる。
「殿…かたじけない…」
そこへ追っ手が襲いかかってきた。
いち早く気づいた万千代が
即座に応戦。
四方からくる相手に、
平八郎も槍を振るい、
家康も刀を抜いた。
何人かを斬り倒したが、
体勢を崩されてしまう。
「殿!!」
「殿ォ!!」
それぞれに敵を抑えつつ、
平八郎と万千代が家康を
案じて叫んだ。
危うし…というところで
横から一陣の風のように
黒装束の男が現れ、
相手を切り裂いた。
即座に背後に回り
もう一太刀とどめを
浴びせる。
見事な刀捌き。
「殿!!」
服部半蔵である。
大鼠も敵を斬り伏せると
「服部党、参上」
と短く告げた。
「こちらへ!」
半蔵が走り出す。
「半蔵に続け!!」
家康が命じると、
家臣らも急いで駆けだした。
堺の地から三河・岡崎までは
今の距離に換算すると
250キロある。
一世一代の逃避行の
始まりであった。
浜松。
異変を聞いた於愛が
「まことですか!?」
と駆け込んでくる。
「信長様が討たれました」
大久保忠世が答えると、
於愛は目を丸くした。
「まさか…我が殿が本当に
おやりになるとは…」
狼と兎はどちらが強いか、
などと言っていたのは
そのことだったか、と
於愛は笑みを浮かべる。
「いやいやいや…」
忠世、平岩親吉、
鳥居元忠が同時に否定する。
「うちの殿ではありません。
やりおったのは明智光秀のようで…」
「明智殿?
…どうして明智殿…?」
「さあ…」
元忠は返答につまる。
「…やれたから、
やった…までのことかと」
忠世がそう答えた。
確かにそれが一番、
核心を突く答えなのかも
しれない。
実際は家康の仕掛けた罠で、
光秀を追い出すつもりが
凶事を招いたのだが…
家康との戦いならば、と
警備を甘くしていた信長、
そこに光秀の恨みが重なり、
やれる瞬間ができてしまった。
だが、於愛は光秀の顔を思い出す。
「…あれはそんな顔よね」
さすがに光秀も
これではとばっちりだろう。
「じゃあ、うちの殿は?」
「わかりません。
明智は殿のお命を狙いましょう」
家臣らにとっては、
誰が信長を討ったかよりも
家康の身の安全のほうが
懸念すべきことであった。
家康ら一行は、
それでも家康を慕ってくれる
民らの支援は受けつつ、
木津川を通り抜け
野伏りの襲撃を退け、
朝宮のあたりまで
たどり着いていた。
これでもまだ78キロ、
というところである。
もはや金も尽き、
すでに疲労困憊、
満身創痍となっていた。
六月三日。
すでに一日が経過している。
開けた場所で、
一息つく家康一行。
「こんなもんしか…」
半蔵と服部党が、
付近から手に入れてきた
野菜や果物を差し出す。
「ありがたい…」
と、家康は大根に
かじりついた。
かたじけない、と
数正らもそれを受け取る。
家康は自分が一口食べた大根を
すぐに小平太に渡してしまう。
それを見た大鼠は、
殿に腹を空かせぬように、と
さらに野菜を差し出したが
家康はそれを見ると、
ただ一言、
「食え」
と命じた。
大鼠は驚き家康を
まじまじと見つめた。
かつて瀬名が自分に
誉ある介錯を任せて
くれたように、
この殿は自分たちのことを
差別などしていないのだ。
大鼠は自分も一口食べると、
あとは他の忍びたちに
分けてやった。
「殿…伊賀越えで参りましょう」
と半蔵が進言する。
「伊賀?」
「それが一番早うござる」
それを聞いた数正が、
懸念を口にした。
「大丈夫なのか?
あそこは織田様とのいくさで
ひどい有様と聞いておるが…」
「伊賀国は我が服部家の故郷。
こやつらの親や祖父母の故郷で
ござる。
伊賀に入れば安心…」
半蔵は希望を抱き、
そう断言した。
「伊賀越えか…」
酒井忠次のため息を
つくような声がする。
もはや疲れ切って
しまっているのだ。
「途中、夜を過ごせるところは
あるか?」
と、小平太が尋ねた。
「はっ…この先の小川城なら…」
「…多羅尾殿か?」
家康が尋ねる。
多羅尾…その名に大鼠が
身構えた。
「多羅尾って…?」
万千代が聞くと忠次が答えた。
「多羅尾光俊…甲賀衆の親玉じゃ。
何度かいくさを手伝って
もらったことがある」
縁はある相手…だが、
甲賀衆も、忍びだ。
今は情勢がすこぶる悪い。
「今度も力を貸すとは限らん」
平八郎が危険性を指摘した。
服部党の面々も、
俯いている。
「甲賀者と伊賀者は
忍び同士。
困ったときは助け合う」
半蔵はそう言うが、
服部党の者達は
驚いたように半蔵を見ている。
「…そうなのか?」
「…事もある…」
半蔵の不安な答え方に
家康は眉をひそめるが、
「頼るしかない」
と立ち上がった。
「参ろう…」
服部党と家臣らも立ち上がり
歩き始める。
しかし、忠次と
数正は動かなかった。
「殿、追っ手を欺くため
三手に別れましょう。
私は信楽の近江路を」
忠次がそう言う。
続いて数正が
「私は桜峠を」
と続けた。
慌てて半蔵が止める。
「近江路は遠回り。
桜峠は人目につく。
危のうござる!」
「それでよい」
わざわざ言わせるな、
とばかりに数正は言う。
家康も彼らの意図を
理解してしまった…
「…お前たち…囮になる気か?」
「囮は俺と小平太で!」
と平八郎が名乗り出る。
いざというときの
戦闘力という点でも
若い彼らのほうが
まだ切り抜けられるはずだ。
小平太も平八郎に同意する。
「左様、左衛門尉殿と
数正殿はなくてはならんお方。
殿のお側に…」
「いやいや…打ち明けて
しまえばな、
我らはもうお主らほど速く
山中を走り抜けることは
できん。
足手まといになろう」
半ばは本音でもあり、
半ばは若い者達をこそ
逃してやりたい、
という思いもあっただろう。
「半蔵、頼りにしてるぞ。
服部党、一世一代の大仕事と
心得よ」
忠次が半蔵らを励ます。
「やり遂げれば服部党、
末代までの誉となろう!」
数正もそう言ってやった。
半蔵、そして忍びらは
頭を下げた。
苦い顔をしている家康。
これでは…三方ヶ原のときと
同じになりかねない…
が、この場ではこうした
冷静な判断が必要だ、
ということに今の家康は
気づいている。
「殿、どうかご無事で」
「殿、これまで長い間…」
覚悟を口にしようとする
数正を家康は止めた。
「そんなことは言うな!
死んだら許さんぞ。
いずれ白子の浜で待つ。
必ずや落ち合おうぞ」
「はっ、では!」
忠次と数正は、
別の方角へと歩いていった。
彼らのやりとりを聴いていた
大鼠は思い詰めた顔で
「これが…俺の最後の仕事と
心得る…!」
と決意を口にする。
半蔵はそんな大鼠を
心配そうに見たが、
大鼠は
「行こう!」
と力強く言った。
半蔵も
「ご一同、参ります」
と促すのだった。
近江・小川城は小さな
山城である。
「徳川様〜、ようおいでなすった!
どうぞ、城にてお休みください!
どうぞ〜」
城主でもあり甲賀忍びの
親分ともいえる多羅尾光俊が、
木陰に潜んでいる家康らを
招いている。
城は皆が歓待している様子で
綺麗な女たちまで揃えている。
「ありゃ、まずいでしょう」
「胡散臭い…罠だ」
「引き上げましょう」
不自然ともいえるあまりの
歓迎の様子に家臣らは
警戒を強めた。
大鼠は一人の男に目をやる。
「あいつ…!」
眼帯をつけた片目の男が
こちらを見ている。
「あいつ、知ってるのか?」
「昔、上ノ郷を攻めたとき
共に戦った甲賀の者でござる。
なんという名だったか…」
と半蔵が答える。
当時、上ノ郷を治めていた
鵜殿長照を攻めた際、
本多正信は半蔵らだけでなく
甲賀の忍びたちにも
助けを求めていた。
そのとき甲賀衆を
率いていたのが、
眼帯の男だ。
伴与七郎。
結局、鵜殿長照は
彼らによって討たれている。
「あんときの手柄を
全部持っていきやがった…!」
大鼠は思い出し悔しそうな
顔を浮かべる。
「ご案じなさるなー!
炊きたての赤飯で
ございますぞー!」
与七郎は呼びかける。
女達が赤飯を握っているのが
見える。
「さあ、冷めないうちにー!」
半蔵の腹が鳴った。
「た、炊きたての赤飯とは…!」
万千代が飛び出しそうになる。
もう数十キロを走り、
ろくなものを食べていないのだ。
「卑怯者め!」
と小平太が毒づく。
「干しイチジクも
たあんとありますぞ!!」
服部党の忍びらが
浮足立つ。
万千代がまた
「干しイチジク!!」
と声をあげる。
「なんと卑劣!」
平八郎がつぶやき、
腹が鳴る。
「わしが毒見をして参ります。
何か不穏な動きがあれば
すぐにお逃げくだされ」
半蔵が申し出た。
「ああ…」
家康はそれを許可する。
「わしじゃ!
服部半蔵じゃ!」
半蔵と大鼠の二人が、
進み出ていく。
「おお!半蔵殿!
久しぶりでござる!
さあ!どうぞ」
与七郎は嬉しそうに迎えた。
大鼠は赤飯の握り飯を
受け取ると一口食べた。
それを見ると半蔵も
食べる…
二人は次々と頬張り、
半蔵は汁まですすりだした。
服部党がポカンとした顔で
それを見つめる。
家康家臣らも、
不思議そうに見ている。
半蔵と大鼠はどんどん
食べ始める。
戻ってくる気配は…ない…。
「…毒見って…あんなに
食うもんでしたっけ…」
万千代がつぶやくと、
服部党の大山犬が、
ブンブンと首を横に振る…
「徳川様〜!
なくなりますぞー!」
一同の腹が一斉に鳴り始める…
戻ってくる様子すらない、
半蔵と大鼠。
「行こう」
と家康は号令した。
「全部食うなあ!!
残しておけえ!!!」
家臣らが殺到していく中、
家康もゆっくりと
近づいていった。
夜、改めて城中に招かれた
家康らは丁寧な歓迎を
受け続けていた。
久しぶりのまともな食事に
一同の手は止まらない。
「いやいやいや、
まだまだありますぞ、
どうぞ、どうぞ、
はいはい、はいどうぞ」
人の好さそうな笑みを浮かべ、
多羅尾光俊自らが
追加の食事を運んできてくれた。
「かたじけない」
と家康は受け取る。
「しかし、如何なもん
じゃろうなぁ、
伊賀を越えるというのは」
多羅尾は伴与七郎と共に、
家康らと今後の方針について
話し合いを始めた。
「いけませんか?」
と家康が問う。
「お勧めしませんなぁ…」
多羅尾は心配そうに言う。
「我が服部家は伊賀の名家。
我が父は彼の地の名士でござる」
半蔵は自信を持って言った。
「半蔵殿、伊賀に行ったことは?」
与七郎が尋ねると、
半蔵は答えなかった。
「…え?ないのか?」
家康が驚く。
「大鼠、お前らはあるのか?」
平八郎が大鼠に聞くが
大鼠は暗器を削りながら
「お父の代に捨てた」
と興味なさそうに言う。
「わしらもねえです」
と、大山犬…。
「あそこは元々、
めちゃくちゃなところ。
それが織田様とのいくさで
さらにめちゃくちゃになって
ござるぞ」
与七郎が伊賀の状況を
説明すると多羅尾も
続けた。
「皆、織田様を心底
憎んでおるな…
腕利きの軍師を雇って
いくさに備えておるそうじゃ」
「軍師?」
「いくさをする気満々でござる」
「そんな中に織田様の
お仲間である徳川様が
入り込めばどうなるか…」
家康は押し黙るしかない。
「我が殿は伊賀から
逃れた伊賀者を数多く
匿いなさった。
その御恩が…」
半蔵が反論すると、
多羅尾は笑った。
「御恩…?はははっ!
伊賀にそんな言葉があるかのう。
悪いことは申さぬ…
伊賀を避け信楽を目指しなされ。
そのほうが安全。
私らがしかとお守りいたしまする」
「明日は皆様、これに
お着替えなされ。
山伏の装束でござる。
大勢で旅をしていても
怪しまれんでしょう」
与七郎は変装用の
衣装まで用意してくれていた。
会談が終わると、
家康は家臣らと
話し合いを始めるが、
時折、外から多羅尾と
与七郎がこちらを見ている。
「半蔵…」
家康が呼びかけるが、
半蔵からの返事がない。
半蔵は疲れたのか、
座ったまま寝ていた。
平八郎が小突くと
半蔵は飛び起きる。
「半蔵、どうだ?」
家康が尋ねる。
「…どうも親切がすぎるかと」
「と、言うと罠だと?」
平八郎が言う。
「信楽に明智方の手勢が
待ち受けており
山伏の装束は…目印…」
「本当にただの親切かも…」
「忍びという連中のことは
わしが一番よく知っておる。
…長居は無用」
と半蔵は答えた。
家康が外に目を向けると、
多羅尾と目が合った。
多羅尾はにこやかな顔だ。
家康は頭を下げたが、
考え込むのだった。
翌朝。
「徳川様!?」
自らも山伏装束に着替えた
多羅尾らが家康を連れに
訪れたが…
「ん?」
誰もいない部屋の中には
一通の手紙と手つかずの
山伏装束が残されていた。
「…三河にたどり着いたら
褒美をくださるそうじゃ」
「たどり着けましょうや!」
与七郎は悔しそうに言った。
「伊賀に行ったんなら…
無理じゃろう!」
多羅尾も残念そうに答える。
与七郎は床を蹴った。
彼らは本当に親切だったのだが、
家康らの疑心が危険を増す
方向へと向いてしまっていた。
六月四日。
御斎峠へと家康らは
たどり着く。
「ご一同、ここが御斎峠。
この先が伊賀でござる」
半蔵が案内する。
当時の伊賀はまとめられる
一定の領主がおらず、
織田とのいくさの影響から
いまだに六百を超える
砦がひしめく、
修羅の地の様相を呈していた。
そこにいる者達は、
皆、織田の殲滅戦を生き抜き
逃げ延びた猛者たちばかりだ。
「ここを抜けるのか、半蔵」
「平野を避け、
山間を抜けましょう」
「…要はこのわしに
徳があるかどうかじゃ…
わしに徳あらば、
天が我を生かすであろう」
運を天に任せる、
といったふうに家康は
そう口にしすると、
空を見た。
「いざ、ゆかん」
一同は伊賀へと突入していく。
伊賀の山中を歩く、
家康たち…
疲労が重なっている
小平太がよろけてしまい、
慌てて大鼠がそれを支える。
「すまん…」
と、そのとき半蔵が
なにかの気配に気づいた。
大鼠、そして服部党が
それぞれ家康を守るように
円を組んで陣を敷く。
大鼠は父の形見の傘から
苦無を取り出した。
…しかし、誰も襲ってこない。
「殿、参りましょう」
と半蔵が促す。
再び歩を進める一行だが
その姿を何者かが、
頭上から監視していることに
彼らは気づかない。
少し開けた場所に
たどり着くと、
草むらから音がする。
半蔵は警戒し、
あたりを探る。
もう一度音がする。
「殿を守れー!!」
半蔵が叫ぶと同時に、
破裂音がし辺りが
煙幕に包まれた。
それを利用するように
多数の忍びが斬り掛かってくる。
「待て!服部じゃ!
わしは服部じゃ!」
半蔵は必死に呼びかけるが、
相手は聞く耳を持たずに
襲いかかってくる。
「退け!退け!!
服部半蔵じゃ!」
次々襲いかかる伊賀者に、
服部党も負けじと応戦。
家康も変わらずの強さで
体勢を崩されたのを利用し、
素早く足払いで相手を転ばすと
横から斬り掛かる相手の
腹を貫いた。
さらには大鼠を襲う相手を
斬り伏せ助ける。
信長に教え込まれた、
戦闘の技術は家康の中に
生きているのだ。
複数の敵を槍で抑え込んだ
平八郎が叫んだ。
「半蔵!殿を連れて逃げよ!!」
「ここは我らに任せよ!」
家臣らは家康を守るため、
奮戦している。
彼らの決意を無駄にはできない。
「殿!」
「すまぬ!」
大鼠と共に半蔵に続いて
駆け出す家康。
横道からさらに一人が
襲ってきたが、
家康はこれも刀で防いだ。
頭上から見ている男が
「伊賀の山中で我らから
逃げられるか…」
と不敵に呟いている。
なかなか逃げ切れない家康を
さらに敵が襲い、
大山犬が怪力を活かして
体当たりで相手を
突き飛ばす。
が、さらにもう一人が
家康を襲う。
応戦する家康。
だが、ついに刀が折れてしまう。
慌てて家康を守るため、
前に立つ半蔵だったが
背後から足に投げ縄をかけられ
ついに家康は捕らえられてしまった。
即座に両側から
刀が突きつけられる。
いつの間にか頭上にいた男が、
地に降りてきていた。
家康の眼前に刀が
差し出された。
こうなれば降伏する他ない。
ついに家康たちは、
囚われの身となった。
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伊賀越えの行程というのは
なかなかすごいものがある。
信長が討たれたと知ってすぐ、
家康らは一日で78キロを
走り抜いた。
自分は60キロくらいを
走ったことがあるが、
正直、めちゃくちゃつらい…
足には豆ができるし、
三河までそれでもまだ
170キロもあるとなると
途方に暮れる距離だ。
おまけに彼らは武士、
刀を置いて逃げることは
出来ないのだから、
その重みというのも
かなりの負担になる。
おまけにその途中では
何度か野伏の襲撃を
受けて応戦しながら、
なのだから相当に
厳しい道のりだったはずだ。
そこへ来ての、
多羅尾光俊の歓待というのは
危ぶみながらも、
有り難かったのは間違いない。
ドラマの中では、
甲賀衆の多羅尾のことを
信じられずにそのまま
伊賀へと突入してしまった
家康なのだが、
普通にいいひとだった
多羅尾光俊。
通説においては、
ドラマのように疑われた、
ということはなく
息子らを家康の護衛に
つけてくれたという。
忍びの実態というのは、
わかっていない部分も多いが、
多羅尾光俊自身が
忍びというよりも、
一人の国人であり
六角氏や信長にも
仕える形を取っていた。
半蔵のような立場に
近いと言えるのかもしれない。
ドラマでは家康らは
多羅尾を置いていって
しまったわけだが、
褒美をやると約束したのは
ちゃんと守っている。
1584年には多羅尾に
山城や近江に
領地を与えてやっている。
この先多羅尾光俊は
秀吉に仕えることになるのだが
孫娘を秀次の側室にしたことで
秀次事件に連座させられ
多羅尾家は改易されてしまう。
ところが家康は、
伊賀越えのときの助力を
よほど感謝していたのか
多羅尾の息子を徳川の旗本として
迎え入れている。
ドラマではちょっと不遇な
お人好しになってしまったが、
実際も実直な人柄であったの
だろう。
このところ、
家康の個人的な戦闘力が
目立ってきているが
これは主人公補正とか
嘘なわけでもない。
家康は奥山流剣術の
使い手でもあり、
後年は柳生新陰流も
学んでいることから、
個人の武勇も意外に
高かったはずだ。
ドラマでは信長から
鍛えられた、という
ふうに描かれているけれども
もちろんドラマなので
それでいい。
あの戦闘力抜群の信長の
愛弟子ともいえるのが
家康なのだから、
こうした立ち回りの回は
あったほうが面白いだろう。
某レビューで、
本能寺の変が起きた6月に
大根が採れるのはおかしい、
大根は冬野菜じゃないか!
という指摘がされていた
ようなのだが
(サイトは嫌なので
読んでないから聞きかじった話)
6月にも大根は採れる、
それどころか8月の今も
自分は大根を収穫してる、
と家庭菜園のほうの記事に
記しておいた。
もちろん現代に出回っているのは
品種改良されたものなのだが、
戦国時代の当時に、
夏大根がなかったかというと、
そんなことはないと思われる。
毛利輝元上洛日記、
の中に秀吉から受けた
歓迎の内容として、
1588年の7月に
大根を使った料理を
出されていることが
記されている。
大根というのは、
元々、様々な品種があるから
当時も夏場に採れる大根が
あったはずである。
大根は日持ちもするので、
当時の武士たちには
好まれていたとする話も
たくさん残っている。
毎度、思うが調べないのに
批判をするからいつも
こうなるのである…
さて、伊賀突入に関しては
甲賀衆を残していったのは
ドラマのアレンジだが、
後半の展開を見ると
甲賀衆の護衛が
いなかったからこそ
家康らは知恵を問われることに
なったので…
ドラマなのだから、
この程度のオリジナルは
許されるべきであろう。
本来の通説はどうなのかは
先ほど書いた通りだが、
本当の史実というのは
実際は100%はわからない。
逃走経路すらも、
諸説あるくらいなのだから
目くじらを立てることもない。
別の記事として書いたが、
今回はとても面白かった。
本能寺の変の後の回を、
面白いものにする、
というのは上手くいったと思う。
後編に続きます。
