最終回「報いの時」前編
最終回の感想は長くなって
しまいそうなので、
2回に分けて書いていこうと
思います。
鎌倉よりもはるか未来、
1564年…一人の青年が
吾妻鏡を熱心に読んでいる。
彼は後の徳川家康。
頼朝と同じく将来、
坂東に幕府を開く男。
家康は吾妻鏡の愛読者だった。
政子の演説を受けて、
活気づいた鎌倉の御家人たちで
あったが、
いざ本当に官軍と戦うとなると
内心では怖気づく者も多い。
平六はそのことをよく
理解しており、
「できれば皆、
戦いたくないのだろう」
とつぶやく。
二階堂行政は小四郎の妻、
自分の孫でもあるのえに
「どうして婿殿をお止め
しなかった!
このままでは朝敵だぞ!」
と怒りをぶつける。
のえは太郎と次郎に
何かがあれば自分の息子が
跡取りになる…とうつろに
述べる…
しかし行政は
「バカもん!その時は
この鎌倉が灰になっておるわ!」
と立ち去った。
政子を中心に戦略を練る
小四郎たち。
全軍を率いて一気に
こちらから京まで
攻め上るか?
あるいは…
泰時は御家人たちが
鎌倉を離れたがらないことを
危惧する。
しかし大江広元は、
平家の失敗は速やかに
追討軍を送らなかった
ことだとし、
積極策を推す。
小四郎は自分が
総大将となり、
全軍を率いて出陣する、
と意気込むのだが
広元は小四郎には
鎌倉にいてほしいと言う。
これには政子も
「敵はあなたを狙っているのですよ。
ここにいなさい」
と引き止める。
そこへ三善康信が現れ、
「一刻も早く出陣すべきです」
と広元と同じ積極策を述べた。
一同の腹はすわった。
小四郎は泰時を総大将に
任命する。
それも率いる兵は18騎。
かつて頼朝がそうしたように
少ない兵で自ら立ち上がる姿を見せ
後に続く者に期待するつもりだ。
頼朝様のように
うまくいくか…危ぶむ泰時に
小四郎は
「鎌倉の命運…」
息子の肩を力強く叩き
「お前に託した」
と告げた。
小四郎の元へのえがきて
なぜ自分に伝えてくれなかったのか
問いかける。
言ったら反対した…
と言う小四郎だが…
「嘘…
忘れていただけでしょう?」
と指摘する。
「悩む末に言わなかった
みたいな物言いは
やめてほしいわ」
事実を突かれた小四郎は
すまぬと謝るしかなかった。
「執権の妻が
こんな大事なことを
人から聞くってどういうこと…」
のえの声が冷たく響いた。
泰時が出陣したことを
長沼宗政から聞いた平六は
泰時の元に集まる兵は
せいぜい2000程度だと踏む。
自分たちも出陣するが
「合流すると見せかけて
木曽川の手前で背後から攻める。
泰時の首を手土産に
京へ入る」
と画策していた。
しかしそんな平六の
読みは大きく外れた。
泰時のもとに次々と
集まった兵は、
瞬く間に膨れ上がり
その数19万…
上皇の元にも
報が届けられ驚愕させる。
泰時の軍勢は木曽川で
藤原秀康が率いる官軍を
打ち破るとそのまま
上京を続けた。
そして京の最終防衛線
とも言える宇治川に
到達する。
しかしさすがに守る
官軍も橋板を外して
渡河できないように
細工をしていた。
川に阻まれて進撃できない
泰時らのもとに、
裏切る機会を逸した
平六が現れる。
彼も源平合戦からの
歴戦の勇士である。
「いくさの経験のない者は
これだから困る」
と言う平六に朝時が
「ジジイ、うるせえんだよ」
と罵声を飛ばすが、
幸いにも御家人が
何人も集まっているため
誰が言ったかはわからない。
平六は流されることを見越して
もっと川上から渡ればいい、
と進言するが朝時が
「わけわかんねえんだよ、ジジイ」
とまた罵声を浴びせた。
進まぬ軍議の中で
泰時の腹心である
平盛綱が
「やはり、あれしか
ないんじゃないか…」
と泰時を促す。
泰時の作戦はかつて、
和田合戦のときに戸板で
盾を作ったときのように
あり合わせで構わないから
いかだを作って、
渡河することである。
ただし懸念はまっすぐに
いかだで向こう岸を
目指さねばならないこと。
つまりはいかだを押す者が
必要となる。
当然、いかだを押す役の者は
鎧を脱がなければならない。
犠牲が出ることは
確実だった。
しかし泰時は決心し、
作戦を実行した。
いかだに乗って渡河する
泰時軍に官軍は容赦なく
矢を放ってくる。
鎧を着ない者たちが
倒れていくが、
やがていかだは
向こう岸に到達し始める。
「迎え撃て!!」
藤原秀康が号令をかけ、
陸上での決戦が始まった。
鎌倉では小四郎が
泰時から返された
頼朝の形見の仏像を
握りしめて、
泰時の勝利と無事を
祈っていた。
政子も実衣も二人で
勝利の祈祷を行う。
裏切ることを前提に
動いていた平六と長沼だったが
泰時軍のあまりの強さに驚く。
しかし上皇自らが
陣頭に立つことがあれば
流れは相手に傾く。
官軍に加わっている弟の
胤義を通じて上皇の出馬を
促そうとしていた。
武将クラスにありながら
自らも鎧を脱いで
いかだの押し手に
加わっていた盛綱の肩を
官軍の矢が貫く。
それを見た泰時は、
幼馴染の名を叫び駆け寄る。
「鶴丸!!!」
しかし盛綱は友に叫んだ。
「お前は総大将なんだ!
兵一人やられたくらいで
たじろぐな…
俺にかまわず行けえーっ!!!」
泰時は涙をこらえながら
全軍に
「進めー!!」
と号令し切り込んでいった。
鎌倉方の猛攻を聞き、
上皇はうろたえていた。
「義時の首をとるだけで
良かったのだ…!」
藤原秀康、三浦胤義が
御所に助けを求めにくる。
藤原兼子は
「お会いになることは
ありません」
と御簾で上皇を隠す。
秀康、胤義は上皇直々に
出陣してくれれば、
形勢逆転できると訴える。
上皇もその気になるが
藤原兼子は必死に止める。
「わしは武芸にも秀でておるわ!」
そう言う上皇だが
兼子は
「後白河院のご遺言を
思い出されませ!
あのお方が必死に
守り抜いたものが
この世からなくなっても
よろしいのか!」
とさらに引き止めた。
上皇は幼き日のことを
思い出す。
そして、出陣しないことを決めた。
この瞬間、勝敗は決した。
政子の元へ小四郎が
報告にきた。
「太郎がやってくれました」
「あの子はそういう子です」
京入りした泰時軍。
自らが罰せられるはずがないと
思い込んでいる上皇は、
蹴鞠を通じて親しくなった
時房を飄々とした様子で
出迎えていた。
が、時房の表情は浮かない。
上皇を待ち受けていたのは、
逆輿に載せての隠岐への流罪。
逆輿とはすなわち、
罪人の扱いであった。
そして、隠岐からの迎えには
かつて罰せられた文覚が
待ち構えていた。
文覚に噛みつかれながら
上皇は隠岐へと送られていった。
小四郎は鎌倉へ戻ってきた
泰時、時房と食事を
とっている。
時房は
「素晴らしい総大将ぶりでした」
と泰時を称える。
しかし泰時は浮かない。
上皇の処罰はあれで
良かったのか、と
気に病んでいた。
「世のあり方が変わったことを
西の奴らに知らしめる。
これしかなかった」
と答える小四郎だが
「しかし我らは帝の御一門を
流罪にした大悪人に
なってしまいました…」
と危惧する。
「大悪人になったのは私だ。
お前たちではない。
案ずるな」
と小四郎は答えた。
場の空気を変えようと
時房は京でかつての義母、
りくと会ったことを話す。
りくは時政と離れて以来、
京で生活していた。
時政のことを聞かれ、
9年前に亡くなったことを
話したのだったが…
相変わらず空気の読めない
泰時は時政は亡くなるときにも
若くて可愛くて気立ての良い
女性が側で気遣ってくれていたと
りくに伝える。
りくは半ば呆れつつも
かつての夫が幸せに
旅立てたことに、
どこか安堵しているようだった。
そんなりくの話で
盛り上がり
「あの人は変わらないですね」
と時房が笑った瞬間、
小四郎がガシャンと、
椀を落とした…
政子と実衣は身寄りのない
子供たちを招いて、
食べ物を与えていた。
そこにトウが呼び出される。
政子はトウに
「あなたにお願いがあるの。
あの子たちに武芸を教えて
ほしいのよ」
いくさのない世に向けた
新しい仕事に、
トウの顔に笑みがこぼれた。
しかしそんな一同のところに
時房が小四郎が倒れたことを
告げにやってくるのだった。
見舞いにきた政子と実衣に
小四郎は
「ちょっと目眩がしただけだ」
と笑って見せる。
そこへのえが薬草を煎じた、
という薬を持ってきた。
「これを飲みだしてから
具合が悪くなった気がする」
とこぼす小四郎だが、
しぶしぶそれを飲み干した。
政務に復帰した小四郎。
大江広元から、
廃位された先の帝を
復権させようという動きが
京で出ているという
報告がなされる。
先の帝とは流罪となった
上皇の孫にあたる。
帝が復権すれば
上皇もまた権力を
取り戻す可能性がある。
「懲りぬ奴らよ…」
小四郎はつぶやく。
広元も
「災の芽は…摘むのみ」
と首をはねることを
示唆するように
扇子で自分の首を叩く。
小四郎はそれを見て
「大江殿は老いても強気だな」
と笑った。
「そうしよう」
しかしいつものように
泰時が幼い先帝の命を
奪うつもりか、と
反対の声を上げる。
案の定、二人は口論になる。
「また始まった…」
と時房は呆れた。
しかしいつもと違っていたのは
「都のことは私に任せてもらいます。
新しい世を作るのは、私です」
と堂々と告げて出ていった
ことだった。
追いかけてきた時房に
泰時はやっていいことと
悪いことをはっきりと
示す必要があることを話す。
それはつまり誰にでもわかる
法の成立を意味している。
「良い、とても良い。
新しい世がくる音がした」
と時房も賛同を示す。
「父上がしてきたことを
無駄にしたくないだけです」
泰時は決意するように
微笑むのだった。
泰時が進む道は、
だんだん形になりつつあった。
まずはいきなりの
松本潤さん演じる、
徳川家康が吾妻鏡に
熱中する様子から、
最終回が始まった。
これには非常に驚いた。
以前から別の記事の中で、
鎌倉殿の13人は吾妻鏡であり、
その吾妻鏡は来年の主役、
徳川家康の愛読書だったことを
述べてきた。
最終回の案のひとつとして、
義時が亡くなったところで
場面が切り替わり、
徳川家康が本を読み終えたところで
幕を閉じる…
そんな終わり方があっても
良いのではないかと
思ってきた。
歴史というのは、
ぶつ切りなのではなくて
この鎌倉時代の熾烈な争いがあり
そこから戦国時代の武将たちは
何かを学び、
自分たちの時代を駆け抜けて
いったのである。
だから本当ならば、
全ては繋がっていても
まったくおかしくはないのだ。
だがそれには高いハードルが
存在する。
鎌倉殿の13人とどうする家康。
この2つの話は同じ
大河ドラマではあるけれど
脚本家も違えば制作スタッフも
違う人が担当している。
例えば最終回に、
松本潤さん、家康が
登場するとなると
そこに視聴者が集中して
しまうことにもなりかねない。
そうなってしまうと、
ここまで47回も好演を
重ねてきた鎌倉殿の
出演者たちの頑張りを
無駄にしてしまう恐れもある。
逆に鎌倉殿のファンが、
どうして来年の登場人物を
わざわざ出すのか!と
不快に思う可能性すらある。
とくに鎌倉殿の評価は、
これまでの大河ドラマの中でも
群を抜いて高いものがある。
そのドラマの中に、
別のドラマの設定を組み込むのは
勇気がいることだったろう。
これまで、だからこそ
こういう形であっても
友情出演のような形を取るのは
難しいことであると
思われてきた。
……だが、ついに鎌倉殿は、
その作品と作品の間にある
高い垣根をも取り払った
ことになる。
これは大英断であり、
これまでまったく
成し得なかったことだ。
これを思いついた
三谷幸喜氏もすごいし、
徳川家康の出演をOKした、
どうするのスタッフや
松本潤さんも、
素晴らしいと思う。
また、事前にアナウンスを
しなかったことも、
良かった点だろう。
このドラマはあくまでも
鎌倉殿の13人。
そこは絶対に外しては
いけない部分である。
どうする家康のファン向けに
徳川家康を出演させるのは
先ほど書いたように、
鎌倉殿の出演者やファンに
失礼になる。
あくまで吾妻鏡の愛読者、
という物語としての必然性を
しっかり描いたうえで、
オープニングを徳川家康に
飾らせた。
脱帽である。
頼りなかった泰時は、
大きく成長した。
自分も親であるので
小四郎の気持ちを思うと
感慨深いものがある。
まぁ、小四郎の場合には
泰時を叱りつけてばかりで
泰時自身も大人になっても
反抗期のような状態が
ずっと続いていたわけだが…
平六は相変わらずというか、
あの政子の演説を受けてなお
状況は冷静に分析し
最後まで自分の寝返りの芽は
残していたところが
彼らしい。
しかしかつて
「じいさんはやめて
おきましょう」
などと言っていた彼も、
もう立派なジジイなのである。
若く見えるだけであって
本当に若い者たちの勢いには
もうかなわなくなっている。
泰時だけでなく、
盛綱や朝時といった
若者たちにバトンが
渡されていく…
そんな承久の乱だったと思う。
18騎で鎌倉を飛び出し
19万騎に達したというのは、
記録でもそう残っているが
事実はどこまでなのかは
わからない。
が、官軍を圧倒するだけの
凄まじい勢いだったのは
確かだろう。
官軍がこうも一方的に
負けるということは
例が少なく、
政子の演説や泰時の
指揮能力がどれほど
絶大であったのか驚かされる。
盛綱と泰時…すなわち
鶴丸と太郎。
八重を通して紡がれた絆が
ずっと続いていることも
感動的だった。
あえて八重が命を落とした
川の中で重傷を負う鶴丸だが
「お前が総大将なんだ!」
とタメ口で太郎を励ます鶴丸は、
本当に素敵なキャラクターとなった。
最初は架空の人物として
登場しつつも、
やがて史実でも泰時を支えた
平盛綱へと育つ鶴丸。
これぞドラマの妙である。
トウは政子の自害を
止めて以来、
彼女に仕えたのだろうか?
描かれてはいないが、
そうなった可能性がある。
小四郎は昔、
兄の宗時が善児に
殺されたことを知っても
彼を咎めなかった。
小四郎自身が人を殺すことの
恐ろしさも辛さも、
よくわかっているはず。
源仲章の暗殺に
失敗してしまったことを
考慮もしつつ
「これからは姉上が
馬鹿なことをしないように
見張ってくれ…
いや、いっそ今後は
姉上に仕えてやってくれ」
と暗殺稼業から抜けさせた
可能性もある。
まぁ、できればそうで
あってほしい。
政子のもとで笑顔を見せる
トウは魅力的だった。
のえと小四郎とは、
やはり小四郎のほうにも
かなりの落ち度があったと思う。
結局、小四郎の中に
いつまでも妻として
存在していたのは、八重…
八重が産んでくれた
泰時こそが小四郎にとって
かけがえのない存在であり
後妻であるのえや、
その子のことはほとんど
ないがしろにして
しまっていたと思う。
2番目の妻であった比奈のことは
それでも彼女の献身的な姿勢から
小四郎も大切にしていたことは
観ていてもよくわかった。
が、のえは…
単にきのこが好き、
ということに惹かれて
なんとなく結婚して
しまった相手だ…
しかもそのきのこ好き、
というのも元を正すと
子供の頃に平六がついた
下らない嘘が一番の
原因なのだが…
それを思うと小四郎の運命は
結局は平六に左右されて
しまったとも言えるから
罪深いものはある。
それについては、
後半の感想で述べようと思う。