【お】

・贈り物【おくりもの】

例えば、誕生日の真ん中に喧噪があって。
立ち入り禁止のプールに突き落とされても、
沸いた歓声と笑顔がプールサイドに並んで居れば
それは憤りや恥ずかしさより、やはり嬉しさ。
濡れてショートする携帯電話とびしょ濡れの財布。
データが飛んでもポイントカードのハンコが滲んで消えても、
水の奥で曇って鈍く伝わって贈られる歌い声が心地良くて、
僕達はずぶ濡れのまま浮遊する。


計画を持たず、無鉄砲に一人で飛び込むことは実に難しい。
最低限のルールと少しはみ出す無鉄砲さの曖昧な境目。
その背中を押す事ははきっと些細な贈り物だけれど、
心に染み付いて取れない甘酸っぱい思い出になる。


計画に計画を重ねて実行に移る人も居るとは云え、
告白なんかはやっぱりそうなんだと思う。
背中を押す何かが必要なんだ。
思い切りの悪い背中のスイッチを押して貰うと、
ただそれだけで少年達は我武者らに無鉄砲になってしまう。

夕方に通り過ぎる高校のグラウンドは部活に勤しむ球児が居て、
でもそのずっと向こう、西陽射す校舎の渡り廊下では
どれだけの数の無鉄砲者の勇気が振り絞られただろう。
その背中を隠れて見守る親友達の顔はどれだけあるだろう。
それとも、今時そんなうぶな告白は現実的ではないのだろうか。

高校生の時、幼馴染みの同級生を
皆で寄ってたかって焚き付けて、
別のクラスの女の子に告白させたことがあった。
彼は恋多き男だったから、さぞや器用なのかと思えば、
やがて急に吹っ切れたのか、
二階の廊下の隅で突拍子なく息を吸い込むと
ホームルームが長引くその子のクラスに向かって
その名前と無鉄砲な三文字を叫んだのだった。
あまりの無鉄砲さとそのシンプルさに
呆気に取られるより先に、すぐさまを逃走するその後ろ姿を
僕達は皆で笑いながら必死で追い掛けた。

息を切らしながら辿り着いた階段の踊り場には
小さく踞まる彼が居て、
今にも押し潰されて泣き出しそうなその姿はなんだかいじらしく、
導火線に火を点けて背中を押したのが僕達なことも忘れて、
無鉄砲さを勇気と取り違えて褒め讃えたのが懐かしい。

無鉄砲さの底に勇気がくすぶると
夕陽も仲を取り持つ協力はしてくれる訳もなく、
何事も見届けず沈んで暮れていく廊下の中、
彼をただ励まし続ける僕達の姿があった。

それから少し経ってからようやく、
二階の廊下を仲睦まじく歩く二人の姿は当たり前になって居て
胸撫で下ろす安堵感と自分の事のような幸福感、
そして、無鉄砲の効力を皆で確かめ合ったものだった。

もう大人になって僕達が皆で集まると思い出話には事欠かない。
ふとその思い出話を振り返って笑ってみたら
当の彼女いわく、
多分クラス内が騒がしかったし告白も何も聞こえて居なかった、
そんな出来事があったこと自体知らなかった、だそうだ。

あたかも青春グラフィティ映画の一コマのような
あの放課後のドラマが伝わって居なかったのは残念だけれど、
視聴者の僕達には思い出す度にいつも甘酸っぱさをくれる。


夕陽が零れて落ちる廊下で告白を見守った一年後の年末。
僕は景色もさして変わらぬ一つ上の階の三階の廊下に居て、
毎日変わるはずのないと思い込んだ夕陽の廊下を見て居た。

でも、来年は僕だけがもう四階の廊下に居ないことが決まると
理科室や手洗い、屋上階段へと続く廊下があまりに特別に思えた。

十七歳で無鉄砲に役者の仕事を始めて
校則と云う最低限のルールからはみ出した僕には
曖昧な境目などもう用意されて居なかった。
多忙な父も何度となく学校に出向いてくれたけれど、
選択肢はもうたった一つになって居て、
唯一残された自由と云えば
黙って首を縦に振るか、
声に出して、はいと答えるかぐらいしかなかった。
僕は上擦りそうな震える声で、はいとだけ云うと押し黙って耐えた。

学校は既にひけて居たけれど、父を先に帰して廊下に残ってみると
夢や目標のためとは云えども、今更に何もかもが愛しくて、
当たり前の日常から皆より一足早く去ることはただ悲しかった。

来年度からの転校が決まった、と先に帰宅した友人に報告すると
返信は想像して居たよりもずっと静かな口調の文体で、
翔べ、とだけ書いてあった。


計画を持たず、無鉄砲に一人で飛び込むことは実に難しい。
最低限のルールと少しはみ出す無鉄砲さの曖昧な境目。
その背中に掛ける言葉はきっと些細な贈り物だけれど、
心に染み付いて取れない甘酸っぱい思い出になる。


夕陽射す三階の廊下はもう静まり返って居て、
十一年間通い続けた学校を去る悲しさや寂しさより、
その静かで力強い文体の強さに貰うものには涙が出そうで、
僕は、
去年の幼馴染みの彼より速く廊下を走った。





と云う訳で、「お」です。贈り物。
今日が母の誕生日なのは偶然で
なんだか素敵な午後の晴れ間をゆっくりと過ごしてます。

先日、次の舞台のスチール撮影でMORITAさんと一緒になり
お馴染みゆえに僕も慣れた口をきいて
メイクルームで世間話をして居たら、
「どこまで続けんのアレ」と云われてしまいました。
毎度ゆっくりペースですが
タナカが飽きそうもないので勿論続きます。
どこかかしこで皆さんの思い出や記憶の片隅の情景とリンクしたら
とても嬉しいです。

そう云えばいつだったか、
「タナカドリル」って
工事で使うドリルなのか、勉強に使うドリルなのか、
と聞かれた事がありましたが、
ようやく
その両方のイメージを持って貰いやすくなったかと思います。
タナカを掘り進めるタナカ学習帳、みたいな感じが正解です。

それにこう云う形式はもともと好きみたいです。
だから勿論続きます。
長丁場のお付き合い、宜しく御願いします。


そして、そう。
そうなんです。
次の舞台なんです。
「灰とダイヤモンド」の公演にゲスト出演する事になりました。

久し振りの健ちゃんの背丈にびっくりして来たいと思います。
割と背丈の高い役者さんと一緒の機会も多いにもかかわらず、
健ちゃんのスタイルの良さには毎回驚かされるので
多分また驚く事になりそうです。
お馴染み植ちゃん、成松君と一緒なのも、
今回初共演のお二人もご活躍を頻繁に聞くお名前なので楽しみ。


再演作品に新メンバーとして参加するのは初めてなので
緊張感も多々ありますが、
頑張って新しい風になってきたいと思います。

今回は「回変わりゲスト3人」×「結末3パターン」での9公演。
1人1パターンではなく、必ず3パターンずつ演るので、
毎回違う演者での違う結末が観れると云う
いつになく変則的もとい、特別な編成には
キャスト陣もスタッフも多分ドキドキです。
勿論、皆様にもドキドキしてもらえたら嬉しいです。


「灰とダイヤモンド ~mission in dark night」

出演:進藤学/成松慶彦/椎名鯛造/植田圭輔/林野健志
   &Guest 田中伸彦/田井和彦/MORITA

劇場:ワーサルシアター(最寄駅:京王線「八幡山」駅・徒歩1分)

日程:2011年2月16日(水)~20日(日)
 16日(水) 19:30★C*
 17日(木) 19:30▲B*
 18日(金) 19:30●A*
 19日(土) 13:30★B/16:30▲A/19:30●C
 20日(日) 12:30★A/15:30▲C/18:30●B
  ※結末3Ver:★SURVIVE/▲SHOCK WAVE /●FLASH
  ※Guest:A/田中伸彦 B/田井和彦  C/MORITA
  ※*印:平日終演後、“ポスト・パフォーマンス・トーク”開催。
  ※開場は各開演30分前。

全席指定・前売¥4,800(税込)/当日¥5,300(税込)
  ※Special Ticket:¥14,000(税込)
  “通しチケット”は下記3パターンございます。
   ①平日(16日・17日・18日)
   ②土曜日(19日)
   ③日曜日(20日)

http://www.bewith-gogo.com/ashes_and_the_diamond/

少しややこしいですが、僕が出演するのは
18日(金)19:30公演
19日(土)16:30公演
20日(日)12:30公演、の3公演です。
劇場でお待ちして居りますよ。
是非是非御来場くださいねー。




さてさて、今日は
福山聖二君主演、愛しの成松君も出演舞台を観劇してきました。

灰ダイでもご一緒予定の椎名鯛造さんも居らして居てご挨拶をば。

ホントに良い刺激貰ってきました!
滅法面白い「sweets」は
23日まで高円寺駅から歩いてすぐの座・高円寺にて公演中です。
痛くて辛いけれど怪しくて素敵な作品でした。
感情移入の出張先が沢山ある作品は好きなんです。

灰ダイとともにどうぞご贔屓に。

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