ふたつのくにがありました。
とてもとてもなかがわるくて、ずっとずっとけんかしていました。
ふたつのくにのあいだにはおおきなおおきなかべがありました。
あるひ、ひとりのわかものがかべのまえにたっていました。
おおきなおおきなかべです。
わかものはかべがきらいでした。それはかべのむこうのけしきがみられないから。
わかものはかべをみあげました。
くもがながれていきます。わたりどりがかべのうえをとんでいきます。
わかものはいいことをおもいつきました。
「そうだ。たんぽぽをかべのそばにうえよう。わたげはきっとかぜにふかれてとんでいく。
そしてたんぽぽのわたげにおねがいしよう。ぼくのかわりにかべのむこうをみてきておくれと」
それから、かべのそばにたんぽぽをうえはじめました。
かべのそばにはなをうえるなんて、しかもたんぽぽみたいなはなをうえるなんて・・・
みんなはわかものをわらいます。
でも、わかものはそんなことおかまいなし。わかものはたんぽぽをうえつづけます。
たんぽぽのきいろいはながわたげになって、かぜにふかれるのをみあげました。
「さぁ、まいあがれ!とんでいけ!!ぼくのめとなって、ぼくのはなとなって、ぼくのみみとなって、かべのむこうのことをおしえておくれ」
わかものはたかいたかいかべをみあげていました。
わかものはたかくたかくまいあがるわたげをみあげていました。
わかものはいつまでもたんぽぽをうえつづけました。
きがつけば、かべのそばにはたんぽぽのじゅうたんができていました。
わかものがたいせつにそだてるからでしょうか、たんぽぽはたいそううつくしいきいろのはなをさかせました。
はじめはわらっていたひとたちも、だんだんたんぽぽのうつくしさにひかれていきました。
ひとり、またひとりとたんぽぽをうえはじめました。
やがて、へいしたちもけんをすてて、くわをてにして、かべのそばのつちをたがやしはじめました。
やがて、へいしたちもかぶとをぬいで、えがおをかおいっぱいにひろがらせて、たんぽぽをそだてました。
みんながたんぽぽをそだたて、くにじゅうにたんぽぽのじゅうたんがひろがりました。
いままでとなりのくにとけんかばかりしていて、ふきげんだったみんなのかおにもえがおがひろがりました。
あるひ、かべのむこうからもたんぽぽのわたげがとんできました。
ひとつだけじゃありません。たくさんのたんぽぽのわたげです。
そのひ、くにじゅうのひとたちはおもいました。
かべのむこうのひとたちもきっとおなじことをおもっているんだと。
そして・・・
ずっとなかのわるかったくには、とってもなかよしのくにとなりました。
ふたつのくにをわけていたかべはこわされました。
ふたつのくにはたんぽぽを、くにのはなとすることにしました。
おうさまははじめにたんぽぽをうえはじめたわかものをさがしました。
でもわかもののすがたはどこにもありませんでした。
それは、ずっとずっとあこがれていたかべのむこうのせかいをたびしているからです。
もし、わかものがすすむみちをかべがじゃまするようなら、きっとまたたんぽぽをそだてるのかもしれませんね。
せかいのひとがなかよくなるのに、ぶきはひつようないのです。せんそうもひつようないのです。
はながいちりんあればいい。えがおひとつがあればいいのです。