中国で娘を小学校に通わせていた。半径50㎞以内に外国人がいない本当の田舎で、街には鉄道の駅もなく交通手段は長距離バスのみ。そんな田舎だから、外国人が通える学校はない。現地の小学校に編入することになるけど、自分の常識が根底からひっくり返される世界だった。

 

まずは通学。子供が一人で学校に行くことは禁止。保護者が必ず付き添わなければいけない。送り迎えは大変だ。

 

学校で給食は出るけれど、決しておいしくはない。給食費も徴収されるけど、貧しい町なので給食費も低く抑えられている。そのせいか、ろくに調味料も使わないので蒸しただけの野菜とかしか出てこない。

 

昼休みは2時間ぐらいあって、学校にいる限り昼寝が強制される。眠れないと言っても許されない。

 

結局、1か月ぐらいで昼食は家に帰り自分たちで食べ、昼寝もしなくなった。歩いて通える距離だったからよかった。こういうご家庭はまあまああるようで、学校側も認めてくれた。

 

小学校の一学級の定員は50人。三人並んで一つの長机に座る。産業は農業だけという貧しい町だから、机ももう何十年も同じものを使っている。ここにぎゅう詰めに子供たちが入る。

 

先生はクラスの平均点で給料が決まるので、頭のいい子は取り合いになる。うちの子は外国人で言葉がしゃべれない・教科書が読めないから、当然初めのうちは成績が最低。テストで5点とか10点しか取れなくて、そういう子は先生がビシビシたたく。頭をたたくことはないけど、手や太ももを定規でビシビシ。それが嫌だから必死に勉強するので、成績もぐんぐん上がる。最後は80点以上取れてた。

 

宿題も山のよう出でる。とても終わらないけど、やっていかないとビシビシ。4時過ぎに家に帰って宿題。そしてご飯食べて宿題。お風呂入って宿題。寝るのは11時過ぎ。

 

国語の授業は教科書1課を一日で終わらせる。基本的に全部暗記。翌日暗唱して、また次の課。先生は何を教えてるんだろう。50課あるから一年間これで終わり。

 

10年ぐらい前になるけど、教科書に日本のことを悪く書いてある箇所はなかった。でも、ある時地理の授業で日本列島がなければ中国の領海はもっと遠くまで及ぶ、日本がなければいいのに、と先生が言ったらしい。ほかのクラスではそれで子供たちは喜んだかもしれないけど、うちの子のクラスではクラスメートが「先生、そんなことを言ってはいけない」と言ってくれたらしい。いい友達を持った。

 

小学校3年生で円周率を勉強する。理解できているかは関係なく、暗記する。方程式も出てくる。物理や化学は小学校6年で基礎的な記号や考え方に触れる。これも、理解できるかどうかは関係なく。

 

国語の教科書では週に一回ぐらい漢詩や宋詞、唐詩が出てきて暗記するから、義務教育を受けた中国人は理論上全員古典の知識がある。

 

でも、この学校で使っていた教科書は「普及地域版」の教科書で、上海や北京、ほかの大都市では「発達地域版」の教科書を使っている。当然内容はもう少し難しい。こんな人たちが14億人もいるんだ、というのが国力の差を実感させる。

 

この町で2年目の9月、中国では新学年新学期が始まる時期。歴史と国語以外の教科書が届かない。日無教育だけでも何億冊も教科書を印刷するからね。小学校の高学年になると、国語と数学、物理、生物、化学、歴史、地理、現代社会、英語、道徳などなど、10冊以上の教科書が必要になる。使う紙の量も膨大だ。印刷会社も何か月も前から印刷しているだろうけど、配送や分類で間に合わないことはままある。それでも学校は始まるから、授業をしなければいけないけど、毎日国語と歴史だけ。ほかの教科は教科書が届いてから始める。中国の学校は教科担任だから、全クラス国語と歴史の授業をすると、国語と歴史の先生が足りない。校長や教頭、地理や英語の先生も総出で国語と歴史の授業に対応したらしい。ほかの教科の教科書が届届き始めると、順次教科の授業が始まる。先生たちも大変だ。

 

小学校の5年生から情報の授業が始まった。要するにコンピューターやインターネットだけど、中央政府がその年から必修科目に加えた。でも、先生が足りない。師範学校を卒業して教科担任になるためには最低3年かかるし、そもそも師範学校に情報の教師を育成する課程を新設しなければいけない。全然足りない先生の代わりに、企業からシステム担当者を臨時雇いで教壇に立たせた。

 

ある時、保護者会でその先生が「自分は教員じゃないから、システムの説明やインターネットのことを教えることはできるけど、理解できない子を指導することはできない。」と言っていた。そりゃそうだよね。同情しちゃう。「この学校には省政府の命令で2年間派遣されるけど、2年も現場を離れたらITの世界ではもう使い物にならない。会社に戻っても仕事がないから、このまま教員として採用してくれ、と省政府にお願いしたら、師範学校で免許を取れと言われた。特例で半年だけ講義を受ければいいようにしてやる、と言われたから、ゆくゆくはそうするつもり」と言っていた。ふーん、そんな方法おあるんだね。

 

今日は清明節だから会社はお休み。これからアーチェリーに行ってきます。昨日は結局少ししか練習できなかったからね。