口腔外科治療予約のキャンセルは限られています

今から50年ほど前のわが国では、あらゆる医療機関が予約制ではありませんでした。例外として、脳波測定、心電図測定、放射線照射治療など特殊な機械を用いる検査や治療が時間を予約して行われていました。その頃の歯科医院でも待合室に入った順に治療が行われていましたので、 2~3時間待つのが当たり前でした。このような状況は患者さんに負担を強いるだけでなく、歯科医院のスタッフや歯科医師にとってもストレスとなっていました。歯科診療の予約制はそのような社会情勢の中から生まれてきたのです。余談ですが「歯医者さんはいつも混んでいる」という国民の声から歯科大学の新設という国策につながったのが、歯科医師過剰時代ともいわれる現在の社会現象の背景です。

私たちの生活の中にはいろいろな予約があります。

観光地へ泊まりがけで出かけようとするときは、ホテルや交通機関の予約をしなければなりません。旅行の最中に座席指定列車に乗り遅れた時は指定席券の払い戻しは原則行われていませんし、ホテルへのキャンセル料を支払っても不平不満を言う人もいません。前回お話しした抜歯処置の約束という治療へのいろいろな準備は、その方お一人だけのためのものです。口腔外科治療予約の時点でも費用が発生しているのです。

相談し合って決めた抜歯処置の日時には必ず来院して下さい。

乗り遅れた新幹線と同様に、「仕事が延びたから」とか「日時を間違えていた」とかは理由になりません。ご自分の身体に関わることが大切であるという意識を強く持っていただきたいと思います。私たち医療者側も必死に予定を守ろうと努力しています。

しかし、当日の体調不良など抜歯処置を受ける側の身体的要因や歯科医院に向かう際の交通の状況など、どうしても予約時間を守れなくなることもあります。

発熱や大怪我などその日の急な理由のときはただちに直ちに電話を歯科医院に入れて下さい。交通渋滞などのときは、「間に合わない」と分かった時点でまず電話連絡して、ともかくも歯科医院にお越し下さい。数日前に予定変更をしなければならなくなった時は、何らかの手段(電話、ファクシミリ、メール、葉書、来院など)ですぐに連絡して下さい。

キャンセルの理由にもよりますが、「後日改めて予約を取り直します」ではなく、その場で「〇月〇日、〇時〇分の予約に変更」という手続をとりたいと思いますので、あらかじめご希望の日時をお考えになっていて下さい。「連絡しない」というのは医療以前の社会人としての問題行動です。その後の治療を受ける機会を放棄されたのと同じです。

この予約が抜歯処置ではなく胃がんの手術だとしたら「キャンセル」というのはこうは簡単に出来ないでしょう。医療行為は準委任契約の中で行われています。医療者側だけに義務や責任があるのではなく、医療を受け入れる側(受療者側)にも応分の義務や責任があることをご理解下さい。

次回は、抜歯処置当日までに守っていただきたい生活行動について考えてみましょう。

 平成25年8月5日)

中野歯科医院口腔外科担当医  西田紘一