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「統一教会」や「オウム真理教」などから守って下さいね

【初稿:2013年5月1日】

 

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鴻上尚史著
『ヘルメットを かぶった 君に 会いたい』
集英社発行
より引用・転載します  

P93~P104
(略)

  いきなり恥ずかしいことを書けば、僕のちゃんとした初恋は、小学校4年の時だった。ちゃんとしたというのは、憧れのレベルなら保育園なのだが、その人のことを思うとちゃんと胸が痛くなるという経験は、小学校4年が初めてだった。
  聡明な女性で、ピアノがものすごくうまかった。
  僕は彼女のピアノを弾く姿に憧れ、少年が歩む道としては、きわめてまっとうに、彼女が好きだからこそ、教室ではイジワルを繰り返した。
  議論して突っかかり、彼女の消しゴムを隠し、彼女の上履きを踏み、なんとかして、彼女の気を引こうとしていた。
  そして、正しい初恋がそうであるように、彼女はまったく関心を示さず、彼女にちゃんと親切なクラスメイトに心魅かれていった。それがまた、悔しくて、僕はイジワルを繰り返した。
  この苦しい初恋を、僕がやっと忘れられたのは、中学3年生の時だった。なんと5年も引き張ったのだ。小学校、中学校と、同じ学校だったので、廊下ですれ違えば胸がキュンとし、男と楽しげに話しているのを見れば目頭が熱くなるという生活を5年間続けた。
  忘れられたのは、なんのことはない、彼女がピアノで身を立てるために、東京の音楽学校に行くことを知ったからだ。
  ああ、本当に彼女は僕と違う世界に行くんだなあと思った時、やっと僕は彼女のことが忘れられた。
  そして、僕はやがて違う人を好きになり、彼女は東京の音楽学校に行った。
  大学時代、東京に出てきた僕は、彼女と会った。
  彼女の雰囲気は少し変わっていた。どことなく、疲れているというか、ギスギスした印象があった。
  どうしたの?と問いかければ、彼女はぽつぽつと、
  「私は今、統一教会に入っているの」
  と語り始めた。
  音楽大学のキャンパスで声をかけられ、最初は、まったく違う、ビデオを鑑賞するサークルだと言われて、何回か通ううちに、どんどん親切にされて、はまってしまったと。
  「最初に、統一教会の”ホーム”と呼ばれる集会所に行った時、そこにいた人達は、私になんて声をかけたと思う?『おかえりなさい』よ。満面の笑顔の男女が、次々に、『おかえりなさい!』『おかえりなさい!』
  『あなたは、今日、ここに来るために生まれてきたのです』
  そう言われて、私は、笑うんじゃなくて、泣いちゃったの。……たぶん、私は疲れていたんだと思う。
  15歳の高校生から東京でひとり暮らしを始めて、ただピアノの稽古に明け暮れて、誰とも本当に話さず、ただ、事務的な会話だけを続けて、私は人間の会話が欲しかったんだと思う」
  彼女は、溢れる思いを初めて言葉にするように、ずっと話し続けた。
  僕は彼女の話を聞いた後、その当時知っている限りの統一教会に関する知識を伝えた。表参道の喫茶店で、彼女はじっと僕の話に耳を傾けていた。
  そして、そこで僕達は別れた。いつでも相談にのるよと伝えて。
  彼女からの連絡はなかった。

                          ●

  しばらくして、後輩の女性が、統一教会に引きずり込まれそうになっているという連絡が来た。
  後輩の女性Rは、半ば拒否しながら、それでも断り切れず、自分がどんどん流されそうになっていて、男友達に助けを求め、その友達が僕に連絡をしてきたのだ。
  Rは、通っていた女子大のキャンパスで声をかけられた。なんの疑問もなくアパートの住所を書き、なんの疑問もなく訪ねてきた人を受け入れ、文学サークルのつもりで話を聞いているうちに、統一教会の扉に招かれていた。
  Rは言われるがままに、『スリー・デイズ』という集中洗脳合宿に参加した。
  僕が早稲田で、「3万円も払ったのに、カレーに肉が入っていなかった!」
  と、トラメガで叫んだのは、じつは、Rのエピソードなのだ。
  彼女は「金儲けの集団だって言われているでしょう。こういうことなのかなあって思ったの」とつぶやいた。
  こういう経済感覚を持っている人間は、最後の最後は大丈夫なんじゃないかと、僕は感じた。
  金銭感覚は、現実と結びついている。どんな真理より、カレーの肉の不在を見つけられる人は、現実レベルで生きていける。
  やっかいなのは、現実より観念を優先してしまうタイプの人だ。観念を一番にすれば、肉の不在はどうでもよくなる。いや、そもそも、肉の不在にこだわる自分が醜い存在になる。
  観念のレベルに生きれば、この世のすべては神と悪魔の戦いの場所になる。そして、汚れた悪魔に対する聖なる神の戦いに参加しなければ、世界は滅んでしまうのだ。この世を救うためには、私が参加しなければならないという使命が生まれる。
  けれど、現実に生きるからこそ、ホームでの”人間的温かさ”に魅かれるとも言える。
  後輩の女性がなかなか抜け出せなかったのは、この”人間的温かさ”だった。
  どんなに偽の募金が苦しくても、霊感商法が危険でも、ホームに帰れば、仲間が待っていて、会話があって、喜びがある。
  Rは、
  「あんなにちゃんと話を聞いてもらったことなんか、今まで、なかったの」
  と、うっとりした顔で語った。
  通っている女子大では、みんな、自分のことしか語らず、人の話は聞かず、どう見られているかだけを心配していた。
  けれど、ホームには、本音の会話だけあった。
  早稲田大学演劇研究会に入る前だった僕は、比較的時間があったので、彼女の相談にずっとつきあった。
  彼女がはっきりと統一教会に疑問を持ち始めると、統一教会のメンバーが、彼女のアパートを頻繁に訪ねるようになった。
  引っ越しを相談している時、電話が鳴り、今すぐ近くにいるからという連絡が入り、二人で窓から飛び出して逃げたこともあった。
  そして、彼女はだんだんと、すがる対象を、統一教会から僕に替えていった。
  それは、恋愛感情ではなかった。断言できる。
  東京のような都会で独り暮らしをしたことのある人間なら、誰でも感じる孤独と不安をどうやって埋めるかという方法論の問題だ。
  宗教も異性も、世界に意味を与えてくれて、私自身を包み込んでくれる。もっとも手っとり早く、安心と意味を与えてくれる。
  そして、一度、巨大で体系的な意味を味わってしまった人間は、禁断症状に苦しむ。小さな非体系的意味ではなく、次の巨大で体系的な意味を求めて、さまよう。
  僕が戸惑っていると、Rは、彼女のことを僕に連絡した男友達にすがるようになった。
  僕は、彼と一緒に彼女の引っ越しを手伝い(独り暮らしは危険と判断して、東京にいる彼女の親戚の家に住むことを提案して)、彼女はやっと安定を得た。
  食卓で親戚に包まれ、生活で彼に包まれ、Rは安心した。

                          ●

  音楽学校に行っていた彼女からの連絡はずっとこなかった。
  しばらくして、何度か会おうという約束をしたが、その頃、僕は早稲田大学演劇研究会に入ったばかりで、奴隷のような下働きに時間を取られていた。
  1年ほどして、彼女から手紙が来た。
  それには、『合同結婚式』の一歩手前で、ようやく統一教会から抜けることができたと書いてあった。
「ぶらりと鴻上君のアパートに行ってみたけれど、あなたはいなかった。やっぱりいなかったと、少しだけ安心しました。いない方が、鴻上君らしいと思いました」
  手紙を読みながら、もし、僕がいたら、彼女はどうしたかったんだろうと考えていた。

                          ●
  彼女の記憶が『トランス』という戯曲を書かせた。
  それは、新興宗教にはまり、そこから抜け出し、精神科医になった女性が主人公の話だ。
  オウム真理教の事件が起こる少し前だった。
  高校時代、親友だった三人の話だ。一人は精神科医に、もう一人はオカマに、もう一人は統合失調症にかかり、自分は天皇だと思い込む話だ。
  自分を南朝系の正統な天皇だと思い込んだ男を、かいがいしく看護するオカマの参三は、精神科医の礼子に、
「どうしたら助けられるの?」
  と、問いかける。
  礼子は、「一人の人間を救うためには、何が必要か分かる?」と聞く。
「何?」と、突然の質問に戸惑いながら、参三が問い返せば、礼子は答える。
「もう一人の人生よ」と。
  この答えの裏には、
「だから、自分の人生を毎回、差し出すことなんて不可能なの。私には、多くの患者がいる。多くの患者に、毎回、とことん自分の人生をかけることなんてことができるわけがない。しようとしたら、私は壊れてしまう」
  という、声にならないつぶやきがある。

                              ●

  今も、新宿駅の南口を出れば、
「あなたの手相を見せてください。私は、今、手相見の修行中なんです」
  と声をかけている統一教会の人達がいる。
  そして、なんの疑いも持たずに、手を差し出す人がいる。
「あ、今、転機ですね。人生の一番、大切な時です。今、失敗すると、これからの人生、大変なことになりますよ」
  と、彼ら彼女らは、マニュアルどおりの脅しをかける。
「近くに、ちゃんとした先生がいらっしゃるんです。あなたの運命を見通す力を持った人です。どうか、いらっしゃいませんか?」
  と、マニュアルは次の段階に進む。
  一度、話しかけられて、
「統一教会、やめた方がいいですよ」
  と、返したことがあった。
  その瞬間、話しかけてきた女性は、顔を歪めた。
  それは、反論とか敵意ではなく、自分の一番嫌な部分を突かれたような痛みの顔だった。
  瞬間的に、「あ、この人は迷っている」と感じた。
  自分のやっていることに、自分で迷っている。だから、一番痛い所を突かれたという顔をしている。
  顔には、まだ、人間的な匂いがあった。
  だんだんレベルアップすると、顔はどんどん無表情になっていく。どんな人にどこで話しかけても、同じ顔のまま、話を続けるようになるのだ。
  目の前で、痛い顔をした女性を見ながら、
「彼女はやめるかもしれない」
  と思った。
  今、誰かがちゃんと手を差し伸べて、彼女をホームから救い出し、ちゃんとケアすれば、彼女は、合同結婚式に行くことなくやめるだろう。
  そして、すぐに浮かんだ言葉は、
「けれど、それは誰だ?お前か?お前がここで彼女の話を聞くのか?お前は自分の人生の時間を彼女のために差し出すのか?」
  僕は、彼女を見つめ、そして、仕事場へと急ぐしかない。
  新宿駅前でも渋谷駅前でも、僕は叫びそうになる。
  手相を見ている人と見られている人に対して、
「いいのか?本当にそれでいいのか?」
  と叫びそうになる。
  少し前は、『アフリカ難民を救う募金』だった。安いコピー用紙に、自宅の住所を書くと、何日か後の夜、統一教会のメンバーがやって来る。
  先日、その書式とまったく同じ『新潟県中越地震募金』の紙を持って、駅前に立っている人間を見た。僕のカンは、間違いないと言っている。

(略)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

鴻上尚史

@KOKAMIShoji
playwright theater director movie director novelist DJ actor singer(一部フォロワーのリクエストにより)

Tokyo Japan
thirdstage.com

 
 
 
 

大丈夫、なんとかなる
今日一日に出会った全ての人々に感謝
いい夢を見て下さい
おやすみなさい

,。*:..。o○☆ *:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆ *:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
ご紹介します
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         ≪口だけで、描く男。≫

 

 

 

flatman.『グロブログロググ‐‐タジログ‐‐』

 

 

 

脊髄損傷で寝たきり。
首から下がまったく動かない。

 

 

それでも、
プロの絵描きになることを本気で目指している。


製本職人の祖父の影響で
紙とペンを玩具に幼い頃を過ごす。
言葉より先に絵を描く事を覚えた。
絵を描く事は日常の一部で
欠かす事の出来ない大切な事だった。

幼い頃に父を亡くし、
それ以来、
不安定な精神状態を
落ち着かせるのも絵を描く事だった。

高校生の頃にドロップアウトする。
その間も精神を安定させるために
ただひたすら描き続けた。

しかし、数年後に社会的に復帰してからは
絵に対して真摯に向き合うことが出来なくなった。

描かないままそのうちに
いつか描けるようになるだろう、
またその時に描けばいいと思いながら
大学生活を過ごしていた。

21歳の春、絵と同じくらい自分とって大切で、
生活の中心になっていた
スノーボードの事故で首の骨を骨折し、
脊髄損傷で首から下の体の自由を失う。
いつでも描けるだろうと思っていた絵を描く事が
本当に出来なくなってしまった。

筆を口にくわえて絵を描いている
作家が何人もいるのは知ってはいたが、
もう動く事が出来ないと認る勇気が無く
自分は筆をくわえる事は出来なかった。

寝たきりになってから全く描けないでいたが
最近になって描く事に対する欲求には勝てないと感じ
口だけでPCを操作し描き始めた。

今思う事、『なぜ描ける時に思う存分描かなかったのか。』

 

 

 

自己紹介

はじめまして。
flatman.(平 明広)です。

スノーボードによる事故のため、
頚椎部脊髄損傷(C4・C5)
(cervical spinal cord injury)で
首から下の自由を失いました。
病院のベッドで寝たきりです。
それでも口だけでPCを操作し、
絵を描いています。

 

flatman.『グロブログロググ‐‐タジログ‐‐』



CDのジャケットデザインを
やらせていただいたりしています。




 

 

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こちらで『SeC』というブランドで
アップしています。

 

 




仕事のご依頼を頂けると、とても嬉しいです。
宜しくお願いします。
 

まずはメッセージを頂けると
大変ありがたいです。

   

E-Mail: flatman.art@sj9.so-net.ne.jp

 

 

 

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