負けない作法
帝京大学ラグビー部監督
岩出雅之
帝京大学准教授
森吉弘共著
集英社刊
2015年3月31日第1刷発行 より引用・転載します
作法2 『負けない』極意
(続き)
「瞬間」を楽しむ
1点差の試合をしていると、同じ時間の長さでも、ずいぶん違って感じることを痛感します。
1点差で勝っていれば、残り1分は本当に長く感じますが、負けていれば、1分は本当に短い。時間だけを気にしていたら、1分という時間の中で行えることを発想できませんし、プレーそのものも楽しめません。
映画を例に挙げてみましょう。
時間だけを気にするという行為は、映画を観ようと映画館に入った瞬間に、結末は何だろうと考えることと同じです。映画の中身、それは物語だったり映像だったり、さまざまな要素があると思いますが、それらをまったく無視するということです。
ラグビーの中身であれば、前半、後半、終盤、あと1分と、それぞれの戦いがあり、局面があります。勝ち負けという結果だけがあるだけではありません。
もっと細部にこだわっていけば、1体1の戦い、踏み出した一歩、出されたパス、それらすべてに意味があります。勝ち負けとは、その細かなことの積み重ねの結果、相手との相関関係によって決まるわけですが、選手には、その局面ごと、そこの戦いこそが面白いところだ、楽しいところだとよく話します。つまり、それこそを味わえという意味です。
試合中のことだけではありません。観客がたくさん入るような大きな試合では、多くの選手が非常に緊張するため、ウォームアップの段階から楽しいだろう、と声をかけます。こんなに緊張して練習したことはないだろう、とも。
その時間、その瞬間の捉え方を変えることで、気持ちもずいぶん変わります。自分をニュートラルな状態に戻すために、「楽観的でいよう」と無理に頑張るのではなく、その時間、その瞬間の楽しさを見つけようと意識することがコツです。
見えないことを気にし始めるとプレッシャーになる
ほど良い程度の緊張感ならいいですが、緊張しすぎたり、深刻になりすぎたりするのは、『負けない』ためにはあまり良い状態とは言えません。そして、そうしたことは、誰の身にもたびたび起ることです。
過度な緊張が結果的にピンチを呼び込み、それで余計に深刻になって、頭も身体も動かなくなってしまう。思うようにいかないから、さらに焦って、また・・・・・と、どんどん悪循環に陥ってしまうこともあるでしょう。
前述したように、その時間、その瞬間の捉え方を変えることも大切ですが、緊張感のもととなる感情・・・・・・それは不安だったり恐怖だったりしますが、その感情が「なぜ」心に沸き上がるのか、「何が」そう思わせているのか、その仕組みを知っておくことも必要です。
なぜ、不安を抱くのか。
それは、見えないこと、よくわからないこと、を想像するからです。
「勝てるだろうか」「失敗しないだろうか」「あのときは、こんな行動をして先輩に怒られた」「あのときはこうやって成功した」「あの評価をもう一度もらえるだろうか」・・・・・・。具体的に、言葉にするとこんな感じでしょうか。大概が、言葉にできないような、でもそれなりに強い感情で、知らず知らずのうちに身体をこわばらせたり、力ませたりしています。
これらには、不安感、恐怖感といった名前がついています。
「勝てるだろうか」「失敗しないだろうか」とは、まだ来ない未来のことです。どうなるのかは誰にもわかりません。
「あのときは、こんな行動をしてしまった」「あのときはこうやって成功した」とは、過去の失敗や成功のことです。今さら変えることはできませんし、寸分狂いなく再現することは不可能です。
多くの不安や恐怖は、変えることのできない過去、あるいはまだ起らない未来に心がとらわれているために起こる感情です。
2015年1月の大学選手権決勝で、スタンドオフの松田力也は7本のゴールキックを決めました。準決勝では、散々外していたのに・・・・・・です。
私には、なぜ彼がずっと外し続けているのかがわかっていました。
ゴールキックでボールを蹴る瞬間、頭が上がってしまっていたのです。要は、得点したい、ゴールさせたいという気持ちが強くなり、蹴るより先に、ボールの行方を確認したくて顔を上げていたのです。つまり、意識がボールを蹴るより先の、未来に行ってしまっていました。
ほんの一瞬のことではありますが、プレーとはこういうもの。ほんの少しのブレが、思うような結果につながらないことなどはよくあることです。
ボールを正確にキックするには、脚がボールをキックするその瞬間まで、気持ちはその一点に集中していなければなりません。もっと言えば、蹴ったボールの行き先を確認することは、本来ならばキッカーにはできないことなのです。
松田には、ゴールすることも大事だけど、今この瞬間は、正確に脚を振り抜こうよ、と指示を出しました。
結果、決勝では、彼らしい正確無比なゴールキックが復活することになりました。
不安や恐怖から胸がドキドキしてきたら、あるいはこれまでできていたことがなぜかできなくなったら、前述しているように、この感情がわき起こる仕組みを思い出しましょう。そして、[作法1]の「自分づくり」で行ってきたように、意識して自分のニュートラルな状態に戻し、今、できることは何か、落ち着いて考えてみます。
今、できることは何か。
それは、過去に対しては、すでに起ってしまったことを悔やむのではなくて、その捉え方を変えることです。未来に対しては、それを夢、目標にすることなのです。
過去を手放して、未来を見据える
『負けない』状態とは何か、ということを前述しました。
それは、勝った、負けたで、「終わりにしない」ということです。
つまり、心が常に刺激を受けている状態です。
過去や未来に心がとらわれている、すなわち不安や恐怖が心に巣くっている状態は、そこで動きが止まっていると言えます。変えられない事実、まだわからない予想に、心がロックオンされてしまっている状態とも言いましょうか。過去や未来に心が引きつけられてしまい、容易にそこから動けなくなってしまうのです。
そんな状態から脱するには、まずは自分が「今、そういう状態なんだ」と認識することから始めます。
そして、二軸の真ん中に位置する「今」に集中します。
『二軸思考』で考えれば、「今」を真ん中にしたとき、両軸には、過去と未来があります。過去に起こったことは変えられない。でもその捉え方を変えることで、「今」に生かせるかもしれません。
未来はどうでしょう。過去、今、未来と、それら3つが同一線上にあることを意識したら、「こうなったらどうしよう」という不安ではなくて、未来は「こうなりたい」という進むべき方向性や志に変化しませんか。
過去を手放すとは、過去にロックオンされている心を手放すという意味です。でも、その過去の捉え方を変えれば、必ず今につながります。
また、未来を見据えるとは、まだわからない未来を見ようとすることではありません。夢であり、進むべき方向を確認しようという意味です。具体的な何か、ではなく、むしろそれは曖昧なものの方がいいでしょう。限定的であればあるほど、心はまたそこに引き付けられてしまいます。
でも、それさえ見失わなければ、途中でやめない限りは、必ずその未来にたどり着けます。そして、心が迷ったとき、その夢は必ず光になるはずです。
心の体力をつける
『負けない』ための、具体的な作法を紹介してきました。極意は、二軸を意識し、その真ん中に立ち続けることですが、それはなかなか難しい。ピンチのときや、不安や恐怖で心が動かないときもあります。そんな状態での作法について書きました。
作法を身につけたら、未来永劫、負けないし、心穏やかに生きていけるかというと、残念ながら、そんなことはありません。特に若いうちは、[作法1]で書いたような、「授かる幸せ」「できる幸せ」を得ながら、自らのエネルギーを蓄えていく時期です。
特に「できる幸せ」を得るためには、さまざまなチャレンジが必要だし、成功と同じだけの失敗や敗北を経験することになります。時には、挫折感を味わうこともあるでしょう。
でも、それにくじけてはいけません。
失敗や敗北を経験したときには、こう感じてほしいのです。
「これでまた、心の体力をつけることができた」
勝利と敗北は、これもいうなれば『二軸思考』ですが、そのどちらにも長所と短所があります。
学生スポーツであれば、4年生の最後の試合が勝利で終わった、で済む話ですが、社会人であれば、勝負はあらゆるシーンで続いていきます。
そこで知っておいてほしいのは、勝利は油断の入り口になるということ。『二軸思考』を理解していたら、この意味はよくわかると思います。
だから、勝利にも優劣があると私は考えています。
ラグビーであれば、1点差でなんとか勝てたという勝利と、圧倒的な大差で勝ったという勝利とでは、1点差でなんとか勝てたという勝利の方が、実は次へつなげやすい。厳しい試合を積み重ねてきたほうが、不満足の繰り返しであっても、心身ともにタフになるのです。
また、負けたとしても、そこで[作法0]の「4 振り返りをすぐに行う、何度も行う」を忘れずにし、反省して、次の準備を怠らなければ、それでいいのです。
厳しい勝負を経験すればするほど、心に体力がついていく。そう実感できたなら、楽な戦いは、むしろ『負けない』ためには損かもしれない。そんな風に思えるようになったら、それは、心の体力が確実についている証拠なのかもしれません。
そして、ここで忘れてはいけないのが、[作法0]です。「1 環境を整える」→「2 身体のコンディションを整える」→「3 マインドのコンディションを整える」の基本を行い、ニュートラルな状態に自分を戻し、心身を休めることも大切です。
心の体力も、身体と同じく、鍛えると同時に、回復させる時間を十分に取ること。これもいわば『二軸思考』で考えます。
心の回復は、[作法0]はもちろん、行うことを減らしても図れます。すべきことを減らし、心に余裕を持たせるように意識してみましょう。
(続く)
[目次]
はじめに 11
勝ち負けは、結果にすぎない 12
帝京大学のチームづくりは「自分づくり」から 14
作法0(ゼロ) 常に行う「超基本」・・・17
「作法」とは何か 18
なぜ「作法」が必要なのか 20
[作法0]自分をニュートラルに保つ5つの基本 21
1 環境を整える 23
2 身体のコンディションを整える 26
3 マインドのコンディションを整える 29
4 振り返りをすぐに行う、何度も行う 31
5 丁寧に日常生活を送る 34
[作法0]では、行動の習慣化をめざすのが目標 37
作法1 自分を知り、自分をつくる・・・41
「幸せ」とは何か 42
幸せの第一段階「授かる幸せ」 45
幸せの第二段階「できる幸せ」 47
自己実現こそ「できる幸せ」の究極の形 49
幸せの最終段階「与える幸せ」 51
「自分づくり」は「自分を大切にする」ことから 54
余裕ができなければ周囲が見えない 56
どのように「自分づくり」を進めるか 58
自分の強みと弱みを把握するには 61
自分の「ニュートラルな状態」を知る 63
自分を見つめることは難しい 64
感性をくすぐることから始めよう 66
めざすのは「気骨」のある人間 68
「気骨」に必要なもの 70
[作法1]では、余裕を生むことが目標 72
自分づくりの次は、仲間づくり 74
岩出雅之×森吉弘 対談1・・・77
「時代が変わっても、人間の本質は変わらない」~現代の若者像とは?
対談の前に---編集部より 78
人は今も昔も変わらない 79
「今の若者は~」という言い方は間違っている 82
「ハングリーであること」は、人間の本質 85
自然に移行できるような環境を設定する 87
人間の本質は変わらない。ただアプローチが違う 90
作法2 『負けない』極意・・・93
『負けない』極意とは何か 94
勝ち負けで大切なこととは? 96
『負けない』状態とは何か? 98
勝ったときでも考える 101
「真ん中に立つ」ことの大切さとは 104
悲観と楽観は同じ線上にある 105
悲観的に準備し、楽観的に実践する 107
気迫と集中力があればいい、というわけではない 109
マニュアルに沿って行動しながらも、マニュアルにとらわれない 111
ピンチを楽しむ心境とは 113
「瞬間」を楽しむ 115
見えないことを気にし始めるとプレッシャーになる 117
過去を手放して、未来を見据える 121
心の体力をつける 123
相手を知る 125
相手よりも少し上をめざす 127
気迫をつくるトレーニング 129
感情だけではダメだが、感情がなくてもダメ 132
作法3 『負けない』仲間づくり・・・137
社会が求めることは 138
「仲間のため」の落とし穴 140
その行動は、「献身」か「貢献」か 143
勝者の裏にはたくさんの敗者がいる 146
勘違いするリーダーとは 148
しっかりした行動の手本をつくる 150
余裕をつくる 152
隙間を埋める 155
「リスペクト」を捉え直す 158
尊敬のジャージ 161
楽しく、厳しく、そして温かく 163
意識するのは、仲間との付き合い方 165
岩出雅之×森吉弘 対談2・・・171
リーダーに求められるのは「マメであること」~リーダーシップとは?
「俺についてこい!」というリーダーは時代遅れ? 172
誰でもリーダーになれる。なる可能性がある 174
リーダーを選ぶ段階から、仲間づくりがスタートする 177
リーダーに必要な、もっとも大切な能力とは? 180
リーダーの新しい形とは何か? 183
作法4 長い人生で『負けない』ために・・・185
「自分で考える」ことの大切さ 186
5W1Hを意識して、行動を振り返る 189
「考える→わかる→できる→楽しい」のサイクルを続ける 191
「想像」と「創造」は違う 193
人生を25年区切りで考える 195
プランニングがあるから「過去」に意味が生まれる 197
勝ってもいい、負けてもいい 200
心の逃げ道をつくる 201
守ることは4つだけ 203
”ねんざ”をしないで生きる 206
誠実な人は、最終的に必ず力をつける 208
岩出雅之×森吉弘 対談3・・・213
「未来に続くキャリア」はどうつくる? ~本物のキャリアとは?
20代のキャリアは、40代50代のための”支度” 214
うれしさも、悔しさも、エネルギーに変えられる 217
『負けない』ために必要な強さを身につけるには? 219
必要な自分のできること」を探すこと 221
社会で求められる知性は、計画と挑戦から生まれる 225
おわりに 229
今回の反省で見えてきたこと 230
この負けが、未来の準備に変わる 233
厳しさだけが、真の強さをつくるわけではない 235
大丈夫、なんとかなる
今日一日に出会った全ての人々に感謝
いい夢を見て下さい
おやすみなさい
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ポチッとな→ http://profile.ameba.jp/flatman175/
≪口だけで、描く男。≫
脊髄損傷で寝たきり。
首から下がまったく動かない。
それでも、
プロの絵描きになることを本気で目指している。
製本職人の祖父の影響で
紙とペンを玩具に幼い頃を過ごす。
言葉より先に絵を描く事を覚えた。
絵を描く事は日常の一部で
欠かす事の出来ない大切な事だった。
幼い頃に父を亡くし、
それ以来、
不安定な精神状態を
落ち着かせるのも絵を描く事だった。
高校生の頃にドロップアウトする。
その間も精神を安定させるために
ただひたすら描き続けた。
しかし、数年後に社会的に復帰してからは
絵に対して真摯に向き合うことが出来なくなった。
描かないままそのうちに
いつか描けるようになるだろう、
またその時に描けばいいと思いながら
大学生活を過ごしていた。
21歳の春、絵と同じくらい自分とって大切で、
生活の中心になっていた
スノーボードの事故で首の骨を骨折し、
脊髄損傷で首から下の体の自由を失う。
いつでも描けるだろうと思っていた絵を描く事が
本当に出来なくなってしまった。
筆を口にくわえて絵を描いている
作家が何人もいるのは知ってはいたが、
もう動く事が出来ないと認る勇気が無く
自分は筆をくわえる事は出来なかった。
寝たきりになってから全く描けないでいたが
最近になって描く事に対する欲求には勝てないと感じ
口だけでPCを操作し描き始めた。
今思う事、『なぜ描ける時に思う存分描かなかったのか。』
自己紹介
はじめまして。
flatman.です。
スノーボードによる事故のため、
頚椎部脊髄損傷(C4・C5)
(cervical spinal cord injury)で
首から下の自由を失いました。
病院のベッドで寝たきりです。
それでも口だけでPCを操作し、
絵を描いています。
CDのジャケットデザインを
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