巷では卵巣年齢を示唆するものとして一世を風靡しているAMH。

でも、実際はAMH=卵巣年齢、と簡単に言ってしまうのはちょっと違います。


AMHは、これから育とうとしている卵胞の数を反映しているだけで、原子卵胞の数を直接示しているわけではありません。

確かに、卵巣にある原子卵胞の数が減れば、これから育とうとする卵胞の数も減るので(出し惜しみ的な感じ)、AMHが下がりますが。AMHは残りの卵子の数を間接的に示唆するものです。


また、AMHは卵子の質を表すものではありません。卵子の質は年齢に依存しますので。


ところで、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、AMHが高くなります。

自分も10 ng/mlを越えてます。

だからといって、やった~!卵巣が若いのね!と、喜んではいけません。

AMHが一番高くなる年代である24-25歳でも平均4ng/mlぐらいです。10ng/mlは相当な高値なのです。


これから読む文献は、PCOS患者におけるAMHの意味合いについての研究です。インドネシアからの報告です。


B. Wiweko, M. Maidarti et al Anti-mullerian hormone as a diagnostic and prognostic tool for PCOS patients. J Assist Repord Genet 2014 31: 1311-1316


<イントロダクション>

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢の約6%にみとめられる、最もよく遭遇する生殖内分泌疾患。ホルモンの異常により、無排卵となり、不妊や月経障害が起こる。

2003年のRotterdam診断基準――1.稀発排卵・無排卵(oligo-and/or anovulation, OA)、2.臨床的・生化学的アンドロゲン過多(hyperandogenism, HA)、3.超音波上の多嚢胞性卵巣所見(polycystic ovaries, PCO) の3つのうち2つ以上を満たす――に基づき、4つの表現型(phenotype)に分類することができる。


phenotype A: OA + HA + PCO

phenotype B: HA + OA

phenotype C: HA + PCO

phenotype D: OA + PCO


抗ミュラー管ホルモン(anti-mullerian hormone, AMH)は、前胞状卵胞と胞状卵胞を囲む顆粒膜細胞から産生され、卵胞の発育と成熟に重要な役割を果たしている。

(卵胞は、原子卵胞→1次卵胞→2次卵胞→前胞状卵胞→胞状卵胞と発育)


血清AMHはPCOSのマーカーになるのではないかという報告がなされている。


AMHの分泌は、卵胞の配備後から前胞状卵胞期まで続く。

AMHはFSHの産生を抑制し、アロマターゼ依存性のFSHとLH受容体の発現を阻害することで、卵胞の発育に影響を与える。

多嚢胞性卵巣の顆粒膜細胞でのAMHの産生は正常の75倍高い。

PCOS患者の血漿AMHは、正常女性の2-3倍高く、正常女性より5年遅れて低下しはじめる。

Weerakietらは血漿AMHは卵胞形成の障害度合のマーカーになると提言している。


PCOS患者では、卵胞が主席卵胞にならないようにとどめる障壁がある。

低FSHに加え、高AMHが、FSHへの感受性を減弱する。

これにより、卵胞は主席卵胞になることができず、径2-9mmの前胞状卵胞が蓄積することになる。

AMHはまたアロマターゼ活性を阻害し、PCOSの重症度に関与してることが示唆される。


Dewaillyらは、AMHは古典的なアンドロゲン過多のサロゲートマーカーとして使えるかもしれないと言っている。

その他のいくつかの研究では、AMHはPCOSの形態変化とホルモン変化の重症度と関連していると強調されている。

AMHはPCOS患者とPCOSでない患者の遊離テストステロン、アンドロステンジオン、遊離テストステロンindexとの関連がある。


PCOSの表現型と血清AMHを検討した研究はインドネシアではまだない。

この研究の目的は、PCOSと正常排卵の患者のAMHを比較し、AMHと臨床パラメータ、ホルモン、超音波所見の関係を明らかにすることである。