直訳したのでぎこちない題名ですが、今回は2010年にオーストラリアの先生が書かれた総説を読んでいきます。西洋諸国のPCOSは日本とは少し異なるようです。(西洋では肥満やインスリン抵抗性、アンドロゲン過多が多い。)

H Teede, A Deeks and L Moran: Polycystic ovary syndrome: a complex condition with psychological, reproductive and metabolic manifestations that impacts on health across the lifespan. BMC medicine 2010, 8:41



<イントロダクション>

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は女性にとってはいらだたしい経験であり、臨床家にとっては複合的疾患であり、研究者にとっては科学的難問である。

PCOSの研究は進んできているが、研究結果を女性や健康管理専門家、政策立案者の知識と行動に変換していくことが重要。

PCOSは生殖年齢の女性におけるもっともありふれた内分泌的異常。有病率は伝統的に4-8%と言われていた(ギリシャ、スペイン、アメリカでの調査)。

診断基準が変わったことに伴い、有病率は増えていて、Rotterdam基準に基づいた調査では18%。そのうち70%が未診断だった。(ただし、有病率18%というのは、超音波検査をしていない女性を補完して統計処理した値であり、補完しなければ11.9±2.4%とのこと。)


1.病因:インスリン抵抗性とアンドロゲン過多


PCOSの正確な病因は複雑でまだよくわかっていない。

アンドロゲンとインスリンの過多によって形成されるホルモンの異常が背景にある。

ホルモンの異常とあいまった肥満、卵巣機能障害、視床下部下垂体系の異常に関係する遺伝的、環境的因子がPCOSの病因に寄与している。


アンドロゲン過多はPCOSの60-80%でみとめられる。

インスリン抵抗性はPCOSの50-80%でみとめられ、過体重の人に多い。

痩せている人は高インスリン血症やインスリン抵抗性が軽度。


インスリン抵抗性はアンドロゲン産生を増大させ、また、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)を低下させることで遊離アンドロゲンを増加させる。


2.PCOSにおける肥満の影響


肥満は、肥満そのものによっても、PCOSを悪化させることによっても、アンドロゲン過多、多毛、不妊、妊娠合併症を増加させる。


肥満はインスリン抵抗性を増悪させ、生殖と代謝を悪化させる。
PCOSの女性は、2型糖尿病と心血管疾患のリスクが増加している。


3.PCOSの診断


今のところ普遍的な診断基準はない。

ここ30年以上の研究で、PCOSは不均一な(heterogeneous)疾患だとわかってきた。

カギとなる診断的特徴はあるものの、表現型(phenotype)は様々。


*NIHの診断基準*

稀発排卵

生化学的アンドロゲン過多

他疾患の除外


*ESHRE/ARSMの診断基準(Rotterdam基準)2003*

(今のところこれが国際的に認められている)

稀発排卵

臨床的、生化学的アンドロゲン過多

多嚢胞性卵巣(PCO)

他疾患の除外


ESHRE/ARSMの診断基準では超音波でのPCO所見が診断基準に含まれているため、この基準を使うと有病率が上昇する。(統計学的に12%から18%になる。)

なぜなら若い女性の25%が超音波でPCOを呈するから。


*アンドロゲン過多学会の診断基準2006*

アンドロゲン過多症状(多毛、高アンドロゲン血症)

卵巣機能障害(稀発排卵、多嚢胞性卵巣)

アンドロゲン過多関連疾患の除外


4.臨床所見


PCOSの女性は様々な臨床的続発症をきたす。


精神的問題:QOLの低下、自己評価の低さ、鬱、不安

生殖的症状:多毛、不妊、妊娠合併症

代謝の問題:インスリン抵抗性、耐糖能異常、2型糖尿病、心血管疾患


症状はライフサイクルによって変化していく。


PCOSは精神的、生殖的症状を呈する慢性的な疾患であり、通常は思春期に始まり、年齢とともに、不妊や代謝的合併症に移り変わっていく。ただし、肥満がある場合は思春期でも耐糖能異常や2型糖尿病、メタボリック症候群をきたす。