こちらも通信制大学の近代日本文学で紹介されていた作品を読むために図書館で借りました。

 

 

テキストでは『葉桜と魔笛』が紹介されていました。母を幼い頃になくした娘は父と病弱な妹を支えるために自らの意思で縁談を受けずにいました。ある日妹の引き出しに彼女がお付き合いしていたらしい男性からの手紙を見つけ、自分と妹を重ね合わせるようになります。そんな所男性からの別れの手紙が届きます。それに対して姉が取った行動は......と言うのが粗筋です。悲しいようなそうでないような.....とても不思議で余韻が残るお話でした。

 

他に心に残ったのはタイトルにもなっている『哀蚊(あわれが)』です。「秋まで行き残されている蚊を哀蚊と言うのじゃ。蚊燻しは焚かぬもの。不憫な故にな。」と登場人物の「婆様」は血の繋がらない孫の私に言います。そして「なんの、哀蚊はわしじゃがな。はかない.......」とも。婆様は「隠居芸者」と世間から呼ばれており、年齢の割には輝く程の綺麗な肌をしています。そして子供はいても血は繋がっていないのです。私が幽霊を見たのは私の姉が養子を取った婚礼の晩だったのです。その幽霊は姉と婿の寝間を覗いていました。私はそれを幽霊と呼びながらも「夢ではなかった」と締めくくっています。作品内にははっきりとは書かれていませんが、幼い「私」の家族の説明や描写から、何故婆様が「哀蚊」なのかが読み取れる......とても不思議で悲しいお話でした。

 

「怪談集」とタイトルにはありますが、所謂「怪談」ではありませんでした。全体的にどの話のトーンも暗く奇妙なので、そういう意味ではやはり「怪談」なのかもしれません。

 

『文豪怪談傑作選 太宰治集 哀蚊』

東雅夫編、筑摩書房、2009年