【しなないように。げんきでね!】
「星野修さんのメルマガ」より
「人間っていいな!」より
四才の娘が、「おじいちゃんに」と書いた手紙にたまげた。
そこには、
「しなないように。げんきでね。」
とつたない字で書いてある。
死なないように?
娘は、すでに保育園に行く支度を終え、玄関の上がりかまちに腰かけ、足はぶらぶらさせていた。
その背中に、これはどういうこと、問いかけようとしたとき、こちらの気配に気づいた娘がくるりと振り向いた。
そして、にっこり笑っていった。
「しなないように!おしごとがんばってね」
数日前のことである。
一か月前から買い始めた金魚が死んだ。
発見したのは子供たちである。
死骸を水槽から新しいガーゼの上に移す。
硬直している。。
体はS字にくねり、見開かれたままの眼はまだ美しく澄んでいる。
すでに外は暗い時刻だったが、外に出て、花壇の隅に死骸を埋めた。
小さな死骸を処理する私の手先を、普段はお調子者の長男が神妙な顔で見つめている。
娘は、目を丸くしたまま口元を引き締めていたがたまらず、
「なんでうごかないの・・・」
と問うた。
「死んじゃったから」と、長男が怒ったように答えた。
娘は口をパクパクさせ、そして黙り込んだ。
いつの間に準備したんだろ、長男が墓石の代わりんいとアイスクリームスプーンを差し出した。
私はそっと土をさした。
私達は静かな気持ちのまま布団に入った。
絵本を読み聞かせ、明かりを消した。
子供たちの眼はまだ閉じられてはなかった。
娘の小さな胸に、一匹の金魚の死がどれほどの波紋を残したかうかがい知ることはできない。
娘は今日も、出かけていく家族に向かって澄んだ笑顔で・・・
「しなないように!」
と声をかける。
死の哀しみを知ってしまった娘に私達は、
「しにませんよ!」
と力強く答える。
「よかった」と娘は安堵した顔で、
「ゆうちゃんは、みんなにたくさん生きててほしいからね」
とつぶやくのだ。
娘の横顔がどきっとするほど大人びて見えた。
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