来月5月で閉館となる駒場アゴラ劇場でサヨナラ公演の特別企画の一つ「S高原から」を観た。

平田オリザ率いる青年団の本拠地として長年慣れ親しんだ劇場、頻繁に訪れた劇場だったので、このチラシを見るだけでもジ〜ンとくるのだが、HPに載っている劇場総監督の平田氏のコメントはいたってクールで「いまは、肩の荷が下りたような感覚。。」とのこと。彼の演劇人生の通過点の一つと捉えているようだ。今後は演劇・芸術関連の大学学長を務める関西で着々と演劇普及の使命を果たしていくのだろう。

今回の「S高原から」は平田が率いる劇団青年団の「東京ノート」「ソウル市民」「冒険王」などと並ぶ初期の代表作の一つで、筆者もキャストの違った舞台を何回か観ているのだが、キャストをどんどん変えて上演してもその度に新鮮さがある（初演は91年だそうなので、その後何度も再演されて多くの人が観ている作品）という平田作品の特徴の一つである息の長い、語り・演じ継がれる名作戯曲である。

高原のサナトリウムで静養している人々とそこを訪れる訪問者たちの会話が静かに続く。

病気の程度の軽い重いはあるとは言え、日々「死」と向き合っている患者さんと、「死」を他人事として捉えている町から来た人たち、それぞれが思い悩む事柄に齟齬が出てくるのは仕方のないことで、人間生きるのも、死ぬのも結局どっちもエラくシンドイということ、人の営みの不条理を描いている。

ちょっとセットが豪華になったかな？と感じたのだが、昔のステージ写真を見ると低いガラステーブルを囲んだベンチソファーと棚に並んだ観葉植物と本（美術：杉山至）、、と基本的には変わりないようだ。

静かな演劇の飲み込んだ言葉の重要性を再確認。確かに集団の中では言葉を飲み込むことも多く、それの方が自然なのかも。

その代わりに、重要ではないような、ちょっとした反応、仕草、、軽い雑談などに多くのヒントが含まれていて、そういった繊細なセリフ選びがいつの時代でも、どんな年代の人にも支持される芝居の秘訣なのかもしれない。

取材時には同じ建物内にある事務所を通って奥の部屋へ通されることが多々あったのだが、そこの事務所の全てが完璧に整理整頓されたファイルの棚などを横目で見て、、、これが青年団が躍進していく理由なんだな、としみじみと感じたことを思い出した。

S高原から（4/21）