米国のピューリッツァー賞受賞（2014年、「The Flick」）作家、若干41歳のアニー・ベーカーの2017年の最新作「アンチポデス」—地球で正反対の側にある２つの地点のこと、例えば日本とアルゼンチンのように—を新国立劇場の芸術監督、小川絵梨子が演出した舞台を観た。

舞台上で起きていることはこちらのチラシにあることそのままで、ある新しいものを創造するために集められたクリエイターたちが会議室の丸テーブルを囲みながら、リーダー、サンディ（白井晃）のもとでアイディアを出し合いながらそのまだ見ぬもの（創造物）を目指して話し合う様子を最初から最後まで見せていくという内容になっている。

撮影：宮川舞子

ゼロから何かを創り出すという作業＝クリエーションの難しさ、さらに現代の商業主義のシステムの中でそれをスムーズに続けていくために彼らがミーティングをする中で理想と現実の乖離から起こる問題点などが、かなり辛辣な皮肉ととともに描かれている。

その辛辣さは西洋（US）的と言ってよいものだと思う。

レジナルド・ローズの「十二人の怒れる男」を三谷幸喜が日本人気質の人たちが集まった陪審員裁判のケースへと書き換えた「十二人の優しい日本人」のように、もし日本人作家がこのビッグプロジェクトのための社内ミーティング劇を日本版として書き換えたとしたら、、最初から全く違ったものが出来るのではないだろうか。

と言うことで、この「辛辣な皮肉」が、観ている側としてはとても気持ち悪いものとして感じられる。おそらくはそれを計算しての作劇なのだとは思うが。

幕開けのミーティングの初日、大物プロデューサー、もしくはプロダクションカンパニーの役職つき社員であるサンディが「この会議室の中ではなんでもオープンに、ここだけの話として外には漏らさないので、どんなことでも提案してほしい。。。僕たちは、このプロジェクトを成し遂げることができる！！」さらに「僕は良い上司だから、何でも相談してくれ」と宣言するのだが（セリフは正確ではないが、このような内容で）、まずここからしてこの集まりの胡散臭さがダダ漏れしてくる。— オリンピック前の開会式に関してのミーティングでもこんな会話がなされていたのかな？そして「有名人に豚ちゃんのぬいぐるみを着せて。。」なんて案をオフレコだから、と出していたのかな？？なんてことを思い出した。

そのオフレコだから、と言う号令のもとで、その後どんどん「トンデモない」ミーティングが展開されていく。

気持ちの悪さの最たるものは、8人中ただ一人の女性社員エレノア（高田聖子）に向けられる数々のセクハラ行為。会議が煮詰まってきた際にはついにはサンディが「だから女はだめなんだ」的な、決定的な発言まで飛び出す始末だ。

— ちょっと話がずれるが、このところの世界の国のリーダーの多く、フィンランドやスウェーデンの首相、EUのトップなどは揃って女性なんですが。今どき「男」「女」の比率が７対１って、でもって女性へのセクハラが蔓延化している会議って何？？

会議参加者の彼らは新しい「ものがたり」を作ろうと躍起になっていて、そのヒント、手がかりとなるものを探るべくそれぞれの体験談、秘密などを代わる代わるに発表していくのだが、、その話されるエピソード、体験談自体がまた胡散臭い。

その場でのイニシアチブをとるためなら、前の人よりもショッキングなことを、嘘でもインパクトのあることを—それが何のためなのかわからないが—話しているとしか思えない、、、これは市場原理主義を否定したナオミ・クラインの「ショック・ドクトリン」方式とも言うべきもので、、その影響が色こく出ている「こけおどし」ばかりのブロックバスターのハリウッド映画のことを皮肉っているのかも、と感じた。

自由な（はず）のミーティングではヒエラルキーも明確化していて、それぞれが上司であるサンディを、そのサンディは自分のボス（スポンサー？！）の顔色ばかりをうかがっている。

と、ここまでで既にお分かりのように、商業主義の中でアートやクリエーションな職についている人たちのとっても嫌な面がオンパレードとなっている劇で、これを苦い薬として捉え、教訓として活かしていくのが我々観客に託されたメッセージなのだとは思う。

それにしても、前述のようにかなり西洋スパイスの効いた皮肉なので、咀嚼するのがなかなか大変ではある。

もちろん最後にはクリエーターたちの目を覚ますようなエレノアの幼少期のエピソードが語られて終わるのではあるが、、願わくば我々の身近なところではそこまでいく前に、誰かが本来の目的を思いだすような提言をしてもらいたいものだと思った（劇中ではそれを行った新人ダニーM2（チョウヨンホ）がその場から追い出されるのだが）。

「アンチポデス」というタイトルこそ、彼らの願いで—地球の裏側で起きていることも目の前で起こっていることとしてイメージできるような力が「ものがたり」にはある—あるのだと思った。

高田聖子は紅一点ながら、その何倍もの存在感をみせていた。

アンチポデス（4/13）