日韓図書協定 参議院本会議での反対討論 | 衆議院議員 岸 信夫 オフィシャルブログ「の・ぶ・ろ・ぐ」Powered by Ameba

日韓図書協定 参議院本会議での反対討論

宮内庁にある朝鮮王朝儀軌をはじめとする貴重な図書を韓国に引き渡す協定は、昨年8月10日の菅総理談話から生まれました。韓国国会議員の北方領土訪問の動きについて先日の日韓首脳会談では取り上げることもなく、その後の渡航、そして韓国閣僚の竹島訪問をも許してしまいました。そんな状況下で本協定の承認は韓国に誤ったメッセージとなり、真の両国関係の発展にはつながりません。


日韓図書協定に関する本会議討論

はじめに

 自由民主党の岸信夫です。私は、ただいま議題となりました、図書に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定の締結に関し、反対の立場から討論をいたします。

 まず、今回の東日本大震災に際して、本協定の相手国である韓国からも、救助犬、救助チーム、各種物資など、迅速かつ多大な支援を頂きましたことに対し、心から感謝を致していることを申し上げたいと思います。

 我が国と韓国は、地理的にも大変近い隣人であり、古来より深い交流の歴史を築いてまいりました。その過程では様々な困難も経て来たわけでありますが、現在では、基本的価値観を共有する、最も大切な隣国となっております。

 今回の協定の目的である「相互理解に基づく文化交流及び文化協力」が、両国関係の一層の発展にとって非常に大きな役割を果たす、必要不可欠なものであることについては、我が党も異論をはさむものではありません。

 しかしながら、今回の日韓図書協定は、その内容や締結の過程を見るに、未来志向の日韓関係を築くためには、過去を清算し、その謝罪の証としてこれら図書を返すべきだという菅総理の考えから、あまりにも拙速に、菅総理の独断によって進められたものと言わざるを得ません。むしろ今後の日韓関係に大きな禍根を残すものであり、我が党として、断固反対すべきものと考えております。

 また、本協定について審議を行う外交防衛委員会の場に、菅総理の出席を強く求めたにも関わらず、総理は出席されませんでした。本協定に深い思い入れを持ち、独断専行で締結を進めた総理が、国会審議の場で自ら説明を行うという責任を放棄されたことに対し、強い遺憾の意を表明致します。

協定について

 さて、協定の内容ですが、本協定は、我が国から韓国に「朝鮮王朝儀軌」をはじめとする図書を一方的に引き渡すという、片務的な協定であります。日韓基本条約、及びこれに付随する、いわゆる「日韓請求権並びに経済協力協定」により、お互いの財産請求権を放棄したにも関わらず、自発的に譲渡するということであります。

韓国内にも、例えば「対馬宗家文書」のように、日本由来の貴重な図書類が多くあるにも関わらず、本協定は、それらの扱いについては全く触れておりません。これのどこが、未来志向の日韓関係なのでしょうか。これでは不平等条約であり、対等な二国間の関係とは言えません。

 また、あろうことか、韓国内の日本図書について触れていない、その経緯として、政府はそのような文書があることを署名直前まで知らなかったというのです。我が党が指摘をして、調査をして、初めて分かった。信じられないような怠慢です。

さらに言えば、韓国内にある、我が国から盗まれた文化財についても、政府は認識していたにも関わらず、本協定の中で何も触れていません。安国寺の経典や鶴林寺の阿弥陀三尊像など、我が国で盗難に遭い、現在は韓国内にあることが明らかなのです。なぜ本協定と引き換えに返還を要求しないのか、理解に苦しみます。

 また、本協定は、締結を急ぐがために、文化財を扱う協定として当然に必要な準備すら行われていません。引き渡す図書の選定は、文化財の専門家による検討を経たものではありません。単に官邸の指示に従って選んだだけなのです。また、引き渡した後の研究のために必要なマイクロフィルム化やデジタル化も、当初は全く考えておらず、指摘されてから、慌てて作業を始めています。とても一国の政府の仕事とは思えない杜撰さです。いくら仮免許政権だからと言って、許されることではありません。

 この、甘すぎる対応は、フランスのケースと比べると一層際立ちます。フランスは、我が国と同様に、朝鮮王朝儀軌を所有しています。長年韓国から返還要求を受けていましたが、交渉の末、韓国に貸与することで落ち着きました。五年毎に更新という形で、韓国に貸しますが、所有権はフランスが持ったままなのです。なぜ菅政権は、このような戦略的な対応を取ることも考えなかったのでしょうか。外交的センスのかけらもありません。

韓国の対応について

 今回の図書引き渡しを、韓国側は「返還」と受け止めています。日本側に強く要求した結果、朝鮮王朝儀軌が返還された。韓国側では、対日外交勝利の証として、戦利品として各地で展示するのではないか、との参考人の指摘もありました。これを出発点として、今後も次々と文化財の返還を要求していく、このような動きもあるのです。要求に応じなければ、また日韓関係が悪化することになります。つまり今回の協定は、今後の日韓関係に大きな禍根を残す、大失態なのです。

 菅総理は、あまりにも無邪気に、本協定が韓国側に感謝されるものであり、日韓関係を改善するものだと信じておられるのでしょうか。ではなぜ、協定の成立と図書の引き渡しを目前にして、韓国の国会議員三人が北方領土を訪問する、さらには、韓国の閣僚が竹島を訪問するという、ありえない暴挙を行うのでしょうか。

本協定に日韓関係を改善する効果など、全くない、それを目の前で証明しているではありませんか。このような暴挙への対抗措置として、本協定の承認を拒み、図書の引き渡しを中止する、そういう強い態度で臨むべき、深刻な事態です。本協定に賛成しようとしている議員の皆様、我が国の領土を踏みにじられた直後に、なぜ無条件で図書を引き渡す必要があるのでしょうか。我が国の国益を真剣に考えれば、この時期に、このような協定に賛成はできないはずです。

協定の成立過程

 本協定の元になったのは、昨年八月の、日韓併合百年に際しての菅総理談話でありますが、その談話を発出するまでの経緯にも大いに疑問があります。談話を出すまでの間、韓国側からの様々な圧力があったのではないでしょうか。少なくとも、図書の返還については、韓国国会での決議がありました。東北アジア歴史財団という、竹島問題でも活動する団体のロビー活動もありました。

当時、参議院選挙で民主党が惨敗し、外国人参政権の問題も目処が立たず、苦しい立場であった総理は、日韓併合百年の談話を発出するにあたり、この図書返還要求の話に飛び付き、ほぼ独断で、談話の発出を決めたのではないでしょうか。関与したのは官邸の限られたメンバーだけで、外務省と綿密に相談し、戦略を立てた形跡もありません。その結果、何の準備もできていないまま、我が国の大切な文化的財産の引き渡しを決めてしまったのです。

まさか、菅総理のもらっていた外国人献金が影響したとは思いたくはありませんが、菅総理の暴走としか言いようがない、あまりにも拙速、そして軽率な談話の発表過程であります。

 ちなみに、菅総理、我々は、あなたの外国人献金問題を決して忘れてはいません。この問題については、震災の発生により一時休戦となっていましたが、今後、厳しく追及してまいります。

 なお、本協定に関する参議院の審議が始まる前であった5月13日、韓国側の「朝鮮王朝儀軌還収委員会」による返還祝賀パーティーが東京都内で開かれました。ここで、与党民主党の石毛えい子副代表も功労者として表彰を受けています。韓国の団体が返還記念のパーティーを開くこと自体、本協定が韓国側のロビー活動の結果であることを示していますが、同時に、参議院の審議開始前に、与党の責任ある立場の議員が、協定の成立を前提として表彰を受けるということは、参議院の軽視であり、大問題であると指摘させて頂きます。

おわりに

 日韓両国が真の友好関係を築くためには、お互いが理解し合うための、両国民の真摯な努力が重要です。そのためには、お互い、言うべきことは言い、聞くべきことは聞き、やるべきことはやる、という、対等で誠実な関係を築くことが必要なのです。

今回の協定のように、相手の顔色を伺い摩擦を避けようとする卑屈な姿勢は、決して両国の真の友好関係にはつながりません。むしろ長期的には関係を悪化させることになります。したがって我が党は本協定には反対であります。

 また、改めて申しあげますが、今回の韓国国会議員の北方領土訪問や韓国閣僚の竹島訪問という暴挙に対して、許されないことは許されない、という毅然とした態度で接するべきであります。この時期に韓国側に誤ったシグナルを送ることになる、図書の一方的な返還は、断じてすべきではない、このように強く主張して、私の討論を終わります。