県またぎの許可が出て、夏に向けていよいよ人の行き来が戻ってきそうですが、 #stayhome 期間中に見つけた好きな1人時間は、時間が減ってきたものの未だ継続中。
とはいっても、もともと好きだったモノにさらに時間を費やしていた期間だった気もしますが。

と、その中でひとつ、空想の翼を広げて空想の空を旅して物語を創作するという時間が劇的に増え、しばらく頭の中がふわふわしてました。
今は戻りましたけど。
でも、やっぱり空想の翼時間は、stayhome期間前よりも増えてます。

というわけで、期間中に少しでも楽しんでいただけたらと「おにぃちゃんと将棋」という、将棋のある風景を創作したのですが、また将棋のある景色を書いてみたいと思います。
皆さんは、どんな空間に将棋のある風景をはめ込んでみたいですか?

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タイトル:父の日の一品

待ち合わせをしている。
日差しが強くて、目の前を行き来する人の中から待ち人を探す視界がチカチカする。

「今日の夕飯は、餃子でしょ?パパ好きだもんね」

近くを通り過ぎる子どもの声が聞こえてきた。
餃子。
その単語を聞くと、それを食べたくなる。
ちょうどお昼時だ。今日のランチは中華屋さんに誘ってみようかと頭に過ぎったのだけれど、今日会う子はたぶん好みじゃないだろう。ランチに餃子。夕飯でなら、選択肢に入れてくれそうだけれど。
と、今にも鳴りそうなお腹を押さえながら、待ち人を目視で探す。

その視界の中に、一面窓のカフェが見えるのだけれど、酷く真面目な表情をした男女が下を向きながら向き合って座っている。
微動だにしないふたり。視線はずっと下向き。
なんだか気になって、そのカフェに近づいてみる。カフェの近くに移動しても、待ち人を見つけることは出来るだろう。

向き合うふたりは、おじさんと少女に見える。
なんだこのふたりは。関係が気になる。
と、チリチリと近づく。
すると、ふたりの間にあるテーブルの上が見えた。
何やら、一枚の布が敷いてあって、その布の上に何か小さいものが置いてあって、それをふたりで交互に動かしているようだ。
よく見えなくて、だから見たくて、カフェの窓におデコをつけかけたところで、他の席に座るお客さんに怪訝な視線を投げられた。
まずい。これじゃわたし、変な人だ。

腕時計に視線を移すと、待ち合わせ時間まで、まだ少しある。
それに外は暑い。
そして、あの関係不明の男女の近くの席が空いている。

と、思考がたどり着いたところで、待ち人が「お待たせ〜」と駆け寄ってきて、わたしが気になっていたふたりを見て「こんなところで将棋指してるんだ!」と、言い放った。

え?将棋?

そして「今日、父の日だもんね」と続けた。

将棋。
聞いたことがある単語だけれど、詳しいことは知らない。
父の日。
その単語を聞いて思い出した。
昔、まだわたしが1桁の年齢の頃、お父さんが将棋というゲームがあることを教え、一緒に遊ばないかと誘ってきたことを。
お父さんは、今もまだ将棋を覚えているのだろうか。
今聞くまで、すっかり忘れていた父の日。

将棋って難しいのかな。
用意し忘れた父の日の品は、今年は将棋についての思い出話にしてみよう。
お父さんの好きな焼き鳥を買って帰って、それを食べながらお酒も飲みつつ。

ところで、あのふたりは親子なのだろうか。
そう言われると、確かにそう見えるのだけれど。

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